第12話 浄化魔法
日の出と共に首都近くの荒野から南へ向けて進攻した冒険者と軍人。
さすがにアンデッドとの戦闘に慣れている冒険者だけに任せるはずがなく、軍人も同行していた。
「俺たちも行こうか」
「はい」
都市で買った饅頭を食べながら進攻するのを眺めていた。
冬の朝、ということで空気は冷たく、外でただ待っているのなら体を暖める物が必要だった。
「ミシュリナさんとクラウディアさんも問題ありませんか?」
「はい、付いて行くだけなら問題ありませんので私の事は気にせず目的地へ向かって下さい」
ミシュリナさんから了承も得られたので南へ向かった集団とは違って南東へ向かう俺たち。
問題ないと言ってくれたミシュリナさん。
聖女として得られる膨大な魔力を身体能力に回して俺たちに付いて来ることができていた。
――昼頃まで走り続けた頃。
「いますね」
「はい」
シルビアとミシュリナさんは遠くを見据えながら気配に気付いた。
気配の察知に長けたシルビアとアンデッドに対して強い力を持った聖女は俺たちが気付けない距離でも気付けていた。
全員に止まるよう手で指示を出す。
「こっちも確認した」
地平線の先に土煙が見える。
「召喚:サファイアイーグル」
迷宮から目がサファイアでできた鷲を呼び出して偵察に出す。
上空から鷲がゆっくりと近付いて来るアンデッドの軍勢を確認する。
「うわっ」
「これは、ちょっと……」
迷宮操作で視界を共有できる俺とイリスが思わず呟いてしまった。
「なになに?」
アイラが気にしているのでミシュリナさんとクラウディアさんにも見えるよう魔法で幻影を生み出して俺の見ている光景を全員に見せる。
「う……」
その光景を見た瞬間、思わず言葉を失っていた。
荒野のど真ん中を痩せこけて肌が煤けた人々が歩いていた。
彼らは着の身着のまま外へと出て来たような格好をしており、家族以外には見せることのない家の中で着ているようなラフな格好の者もいれば、農作業の途中だったのか土に汚れた作業服を着ている者もいた。
その姿を見た俺たちの印象は――普通の人。
数日前までは何事もなく平和に過ごしていたはずの人がいつの間にか死んでしまい、そのままアンデッドとして大地を彷徨い続けることになった。
あまりに死を貶しているとしか思えない光景。
「やるぞ」
「はい」
メリッサが両手の魔力を集中させる。
練り上げられているのは浄化能力を持った光属性の魔力だ。
浄化魔法に特殊な魔法の使い方はなく、単純に自分の魔力に浄化の特性を持たせる必要がある。その特性を理解するのに苦労しているせいで浄化魔法の使い手は少ない。メリッサの場合は、加護が勝手に教えてくれるようなものなので、加護任せに魔力の性質を変えるだけでいい。
両手を前に突き出す。
手から放たれた浄化の魔力が波のように広がって行き、アンデッドに届いた瞬間に浄化されてバタバタと倒れて行く。
そこには、ただの死体しか転がっていなかった。
「ふぅ」
大量の魔力の性質を変えるのはメリッサでも苦労したらしく、魔法の発動を終えると息を吐いていた。
「ちょっと残ったな」
軍勢の後ろでは30人ほどの死人が立っていた。
「ソーラ―レイ照射」
頭上に太陽を思わせる強い光が出現する。
浄化能力を持たせた光を天に出現させた魔法陣から放ち、仲間が浄化されても歩みを止めなかったアンデッドを次々と呑み込んで行く。
「……やり過ぎた」
光が呑み込んだ後には何も残されていなかった。
「ちょっと何やっているのよ!」
「いや、せっかくだから今までに使ったことのない大規模な魔法を使ってみようと思ったんだ」
アイラが俺の襟を掴んでガクガクと揺さぶって来る。
最初は迷宮の神殿エリアにいる『天使シリーズ』の光魔法を使わせてもらおうと思っていた。
しかし、日常から地獄へと転落してしまった人たちの姿を思い浮かべると遣る瀬無い気持ちが沸々と湧き上がって来た。
一刻も早く浄化してあげたかった。
なので、46階~50階の神殿エリアではなく66階~70階の遺跡エリアにいる『大天使シリーズ』の魔物が持つ魔法で土地ごと一気に浄化させてもらった。
アンデッドが徘徊したことで周囲一帯も穢された土地になってしまった。
穢れた状態のままだと作物を育てても成長が遅く、品質もかなり落ちてしまう状態が当たり前になってしまうので後々の為にも土地の浄化は必要な事だった。
「土地まで浄化したのは問題じゃないわ」
「じゃあ、何が問題なんだよ」
「あたしたちの出番がまるでないじゃない!」
聖剣を使う機会がなくなってしまったことに怒るアイラ。
怒るアイラを宥めながらアンデッドのいた場所へ向かう。
「これ、どうしますか?」
辺り一面には倒れて動かなくなった死体が遺されていた。
「……私たち国の方で手厚く葬ることにします。なるべく故郷に返してあげたいと思っているのですが……」
問題は数だ。
誰が、どこの村に住んでいたかなど生前の姿を知っている者でなければ分からない。
ただし、アンデッドになっていた影響で痩せていたり、煤けていたりするせいで生前の面影が薄くなっているので判別が可能なのか怪しい。
「たしか物の運搬に便利なスキルを持っていましたよね。それで運んでいただけますか?」
「……それぐらいならいいか?」
俺もこの場に放置するのは忍びなかった。
地面に倒れていた遺体を回収する。
ついでに俺たちにとっては重要な遺体と一緒に転がっていた魔石を回収する。
約200人分の遺体と魔石なので回収した後も運ぶのが大変なのだが、道具箱があるおかげで魔法陣の上に置かれた箱の前まで移動させるだけでいい。
「それにしても生前は持っていなかったのにアンデッドになると体内に魔石が生まれるっていうのもおかしな話よね」
「それを言ったら死んでいるのに動き回ることのできるアンデッドの方がおかしいだろ」
「それもそうか」
アイラも特別気になった訳ではなく、魔石を回収している最中に気になったから尋ねただけみたいで深く聞いて来ることはなかった。
俺たちにとっては貴重な収入源。
この魔石を迷宮に与えるだけで金貨数十枚分の魔力が得られる。
アンデッドになると体内に魔石が生まれる秘密についても迷宮核に尋ねれば答えを教えてくれるかもしれないが、そこまで気になる問題でもない。
「……ごめんなさい」
つい、うっかり遺体どころか魔石すら残さずに消し飛ばしてしまった死人には申し訳ないことをしてしまった。
手を合わせて謝ってから首都へと戻る。
「……ん、もう戻って来たのか」
日が暮れ始めた頃になってウィンキア近くの荒野に辿り着いた。
迎えてくれたのはギルバートさんだ。
「まさか、もう討伐を終えたなんてことは……」
「その通りですよ」
道具箱から魔石を10個取り出してギルバートさんに見せる。
魔物の生態に詳しくない彼でも複数の魔石を見せて隣にいるミシュリナさんが何も言わなかった事から問題なく討伐が成されたと判断した。
「……もう数日は掛かると思っていたのだが、順調そうで助かった」
俺たちへの依頼はほぼ終わったようなものだ。
だが、実際には発生した全てのアンデッドの討伐を頼まれているので南側にいるアンデッドへの対処を終えなければ報酬が支払われることはない。
しかし、予定通りの進攻ならまだ接敵すらしていない。
「では、何か進展があったら教えてください」
さすがにアリスターへ帰る訳にはいかないのでウィンキアの中にある宿屋でのんびりとさせてもらう。
ウィンキアにはアンデッドの大軍が迫っていたのだが、首都に住んでいる人々は首都の防衛力を信じているのかいつも通りに過ごしていた。おかげで俺たちも普段通りに観光することができた。
☆ ☆ ☆
異変が起こったのは3日後の夜。
「聖女様はいらっしゃいますか!?」
宿で夕食を終えてのんびりとお茶を飲んでいると慌てた様子の兵士が食堂へ駆け込んで来た。
「どうしました?」
「……問題が発生しました」
食堂には他にも一般客がいる。
彼らに危機的状況にある事など聞かせる訳にはいかないので兵士が小声で付いて来るように促して来た。
宿屋を出た兵士は真っ直ぐ首都の外へ向かう。
「一体、何があったのですか?」
「先に出発した部隊が敗北して戻って来ました」
事態は、簡単に終息しないらしい。




