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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第40話 怪盗と迷宮

「迷宮結界、展開」


 帝都の外れにあるスラム。

 その中にある廃屋の一つを中心に【迷宮結界】を展開させる。


「チッ」


 廃屋の中から舌打ちが聞こえて来る。


「邪魔するぞ」


 ほとんど朽ちた扉を開けて中に入る。

 廃屋の中はボロボロなベッドとテーブル、それから宝箱のような物があるだけで古着を利用したと思われるボロ布が廃屋の隅に置かれているので最低限な掃除ぐらいはされているのだろうが、とても先ほどまでいたオークション会場と同じ街とは思えないほど落差があった。


 連れて来たのはアイラとメリッサ。

 イリスは未だにソファで寝ており、彼女の看病にシルビアも置いて来た。

 とはいえ、【迷宮同調】で情報は常に共有しているので彼女たちも現在の状況は把握していた。


「初めまして、でいいよな?」

「……ああ」


 部屋のベッドで寝ていた灰色の髪をした20代後半ぐらいの男が頷く。

 男はスラムには似つかわしいくない上等な服を着て、身形もきちんと整えられていた。だが、痩せすぎとも思えるほどガリガリな体型をしていたのでとても健康的な男性には見えなかった。


 上半身だけを起こすと男がこちらを睨み付けて来る。

 だが、一目見ただけで強くない事が分かるので全く怖くない。


「お前が【憑依】スキルを持った奴の本体なんだな」

「よくもオレの邪魔をしてくれたな」

「邪魔? 民衆には義賊として少しばかり人気のあった怪盗だったみたいだったけど、所詮は怪盗だ。盗まれた人々は迷惑を被っているし、同じような貴族連中は自分も襲われるんじゃないかと怯える人もいた」


 怪盗などという行動に走れば邪魔されるのは当然の事。

 金が欲しかったなら人様に迷惑を掛けることなく真っ当に働くなり、俺のように一獲千金を夢見て迷宮へ挑むなりすればよかった。

 何度も窃盗を阻んだ事を逆怨みされる謂れは俺にはない。


 男の視線が泳ぐ。


「アイラ」

「うん」


 廃屋まで一緒に来たアイラが廃屋の隅に置かれていた宝箱へと近付く。

 阻もうと立ち上がろうとするが、俺の威圧に圧されて男はベッドから動けない。


「うわ、凄いお金」


 頑丈な鍵で施錠されていた宝箱をアイラが力任せに開ける。

 宝箱の中には何枚もの金貨が入っており、薄暗いスラムという事もあって光り輝いているように見えた。


「これまでの盗品を売り捌いて得た金か」


 一体、これだけの金を何に使うつもりだったのか。

 俺には分からないが、これは証拠品としてリオに返す必要がある。


 宝箱を持ち上げたアイラが俺の喚び出した道具箱(アイテムボックス)の中に金貨の詰まった宝箱を入れる。


「オレの金!」


 ――ガン!


 威圧に耐えながら立ち上がるが、目の前の床に明確な凶器であるナイフが突き刺されて男の勢いが削がれる。


「あんた――ノックに聞きたい事がある」

「どうしてオレの名前を知っている!? ……あの二人が喋ったのか」


 既に捕まった二人の怪盗についてなら尋問で名前ぐらいは知られていてもおかしくない。

 そして、二人が捕まった初日の深夜の内に【憑依】を使って接触してしまっていて翌日には憑依対象を無効化する為に動いていたので誰かが後ろにいるのは知られている。その人物の名前ぐらいならば喋ってしまった可能性がある。


 そう思っているのだろう。


「悪いが、お前の仲間は自分たちの名前については喋っても、黒幕であるお前について何も喋っていないぞ」


 尋問の結果はリオから聞いて知っている。

 二人の黒幕に対する忠誠心は本物で、尋問では黒幕がいる事すら頑なに認めようとしなかった。


 それなのにノックがした事は、使い捨てという酷い仕打ち。


 怪盗ゴンの体から引き剥がされた意識が帝城近くの路地裏へ向かって行ったのでリオが近くを捜索させたところ脱獄した怪盗ボンの遺体が見張りの持っていた槍で貫かれた状態で見つかった。


 それから怪盗ゴンの死も戦闘後に確認されている。

 スキルを強化してくれる劇薬のオーバーブーストだが、副作用があっても1日ぐらいは生きていられるはずだった。それが、戦闘後すぐに亡くなってしまったのは強化されたスキルが強制的に解除された事によって肉体に想定以上の負荷が掛かってしまったからではないか、と遺体を調べた者は言っていたらしい。


 さすがに劇薬でスキルが強化された事は予想できていなかったし、強制的に解除した事で亡くなってしまうなんて思ってもいなかった。


 色々と聞かなければならない事情があったのだが、既に聞ける相手は目の前の相手しかいない。


「じゃあ、どうやって知った!」

「俺たちはちょっと特殊な【鑑定】が使えるんだ。おかげで、お前の名前も含めて全てのステータスが丸見えなんだよ」


 【憑依】状態では全てを見る事ができなかったが、こうして本人を目の前にすると詳細まで含めて全てを覗く事ができた。

 間違いなく、こいつは迷宮の関係者だ。


 だが、迷宮主(ダンジョンマスター)でもなければ迷宮眷属(ダンジョンサーヴァント)というわけでもない。


 詳細まで見る事ができなかったので拷問してでも吐かせるつもりで訪ねたが、今となっては全てを覗く事ができたので理由は分かっている。


「オレを捕まえに来たんだろ」

「たしかに捕まえるが、その前に個人的に聞きたい事がある」


 それでも表示されない情報がある。

 迷宮主であるリオならともかく、帝国に身柄を引き渡してしまうと聞けなくなってしまう事は今の内に聞いておかなければならない。


 その前に……


「メリッサ」


 一緒に来たメリッサに音を外に漏らさない風魔法を使ってもらう。

 スラムには至る所に浮浪者がいて近くには誰もいないと気配で分かっているが、念には念を押して聞かれないようにしておく必要がある。


「お前に『偽核(フェイクコア)』を渡したのは誰だ?」

「何だ、それは……?」


 本当に分からないのかノックは首を傾げていた。

 けれども物的証拠は目の前にある。


「これだ」


 ノックの服に隠れた胸元。

 直前まで寝ていたせいか僅かに覗ける部分から胸に埋め込まれた『偽核』が見えていた。


『まさか「偽核」をこんな風に使うなんて』


 迷宮核(ダンジョンコア)も【憑依】の正体に驚いていた。


「これは、そんな名前だったのか」

「名前も知らずに使っていたのか」


 呆れるしかない。

 名前すら知らないという事はデメリットも知らない可能性が高い。


「お前の【憑依】は普通の【憑依】に比べて強力過ぎる」


 迷宮核の説明によれば一般的な【憑依】で誰か人の体を支配する場合なら本体がスキルを使用した体を短時間だけ乗っ取るだけのスキルで、乗っ取った体の記憶を覗いたり、乗っ取った体から更に別の体に乗り移ったりする事はできないらしい。


「お前の【憑依】は『偽核』によって強化されたスキルだ」

「ああ、そうだ。オレが元々持っていたスキルは人形なんかに憑りついて本体から100メートルぐらい先までを移動するのが精一杯の脆弱なスキルだった」


 その程度の移動距離なら自分で移動した方が効率的だ。

 憑依先も人形では、一目見つかっただけで怪しいと思われてしまう。


 少し聞いただけの俺でも、使えない『ハズレスキル』と判断してしまう。


「だから、あいつにスキルを強化できる魔法道具を渡された時は嬉しかったさ」


 強化された事で人にも憑りつく事ができるようになったし、移動できる距離が伸びていくつもの体を中継する事でどこまでも行けるようになった。


「この魔法道具は時間が経てば経つほどオレの体に馴染んで行く。今なら帝都に居ながら隣の都市まで行けそうだ」

「残念だけど、お前の体に馴染んでいるわけじゃない」

「なに……」


 巨大魔物を生み出した『偽核』と本質的な部分では同じだ。

 周囲の魔力を取り込み、物質を変質させる事で驚異的な変貌を遂げる。

 魔物ではなく、スキルを持った人が取り込んだ事で魔物は生まれずに持っていたスキルが強化される事になった。


 だが、いつまでも続く状況ではない。


「このまま魔力を取り込み続ければ、どんな変貌を遂げる事になるのか分からないぞ」


 最悪の場合には巨大魔物のような災厄を呼ぶ化け物になる可能性もある。

 それこそシルビアたちと戦った化け物になるかもしれない。


「オ、オレは……」


 自分があのような姿に至ったところを想像してしまったのかノックが俺から視線を逸らす。

 今までは役に立たないスキルを強化してくれた恩人だったが、渡されたのが危険な代物だと知って不信感が募り始めた。


「教えろ。お前に『偽核』を渡したのは何者だ?」


 だから本当の黒幕について聞く事ができる。


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