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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第14話 怪盗の狙い

 それは、突然起こった。


 ダンスはまだ続けられており、7曲目を演奏し始めようとするとパーティー会場にある照明が全て落ちる。

 パーティー会場はダンスのムードを出す為に一部だけ照明が落とされ、少しだけ暗くされていたが今は外の月明りだけが頼りな状態になってしまっている。


「な、なんだ!?」

「何も見えないぞ!」


 しかし、唯一の明かりも窓から離れた場所には届いていない。

 一部の客がざわついていた。


「何かの演出ですかな」

「新皇帝陛下は冒険者からの成り上がりです。こういったサプライズが得意なのでしょう」


 中には落ち着いている者もいた。

 というよりも騒いでいるのは場に慣れていない若者ばかりで、それなりに経験のある年長者たちは慌てていなかった。


 パーティーの予定にはなかった出来事。

 何の指示を出さなくても俺を守る為に4人が囲む。


「どういう事だと思う?」

「月明りはほとんど入っていません。この暗闇が誰かが意図して起こしたものなのだとしたら暗闇に乗じて何かをしてくる可能性があります」

「犯人として最も可能性が高いのが……」


 メリッサに言われなくても分かる。

 予告状まで出した怪盗バット。


「ぐふっ……」


 男性の呻き声が聞こえる。

 そちらへ顔を向ければ誰かが俯せに倒れているのが分かる。服装からして招待客の貴族男性みたいだ。


 一般人には何も見えない真っ暗な世界だが、迷宮の薄暗さや夜の移動で慣れている俺たちにとっては障害にならない。意識を集中させればそれなりに見ることができる。


 倒れた貴族男性の傍に使用人が近付く。

 俺たちが動かなくても会場の至る所にいる使用人が動くようになっている。


 抱き起された貴族男性は気絶しているのか反応がなかった。

 その顔には覚えがある。


「ガランドさん」

「知り合いですか?」

「さっき宝石を眺めている時に知り合った貴族男性だ」


 照明が復活する。


「う、ううっ……」


 照明の灯りで気付いたのか気絶から回復する。

 頭がクラクラするのか手で額を押さえているものの体に異常はないみたいだ。


「どうやら照明のトラブルだったみたいね……」

「み、見て!」


 アイラの声に被せるように女性が叫ぶ。

 明るくなって落ち着いたパーティー会場に若い貴族令嬢の声が響き渡る。


 貴族令嬢はバルコニーのある方向を指差しており、会場にいる人々の意識がそちらへ向かう。


「あれは……」


 バルコニーの手摺の上には黒いマントに真っ黒なシルクハット、目元は翼を思わせるような形をした黒いマスクで隠した人物が立っていた。

 オークションに出される品物を狙っている怪盗がいる事は帝都では有名な話だ。


 ――怪盗バット。


 会場にいる誰もがその名を連想した。

 パーティーに招待された客の中には見世物として怪盗バットが現れる事を期待していた者も少なからずいる。


「領民の苦労も知らずに贅を堪能する愚かな貴族よ。貴様に天誅を下す為に私は貴様の大切にしている宝物を奪わせてもらう」


 怪盗バットがマントの内側に隠していた手に持っていた指輪を掲げる。

 指輪は小さかったが、月明かりを受けて光り輝く宝石が存在感を放っていた。


 その指輪には見覚えがある。ガランドさんが先祖代々受け継いで来たと言っていた指輪だ。


「な、ない!? 家宝の指輪がない!」


 自分の指に指輪がない事を確認すると慌てながらポケットを探り、倒れた時に落としていないか床を確認する。

 それでも見つからないとなると怪盗に盗まれたと悟る。


「ハハハッ、さらばだ」


 バルコニーから跳び上がり怪盗バットが帝都の闇に姿を消す。

 あまりに派手な登場に誰も追い掛けるような真似をしない。


「……シルビア、犯人を捕まえろ」

「はい!」


 ガランドさんとの話を聞いていたシルビアは彼が家宝の指輪をどれだけ大切にしていたのかを知っている。

 犯人が許せず追い掛ける。


 パーティー会場には多くの人がいる。人混みを掻き分けながら……擦り抜けながら怪盗バットのいたバルコニーに立つと跳び立って帝都へと姿を消す。


 犯人はシルビアに任せておけばいい。


「大丈夫ですか?」


 顔面蒼白で怪盗バットの消えた方向を呆然と見つめているガランドさんに近付く。気配を隠しながらだったため誰かに咎められるような事もない。

 ガランドさんは今にも倒れてしまいそうなほど顔色が悪い。


「た、頼む! 家宝の指輪を取り戻してくれ! 報酬ならいくらでも払う」

「報酬に関しては結構です」


 怪盗バットを捕縛するよう既に皇帝から依頼されている。

 このうえ被害者からも報酬をもらえば不義理を働いた事になる。


「あれを失くしたと分かればご先祖様に顔向けできない……」

「大丈夫だ。アメント卿」

「皇帝陛下」

「盗まれた指輪については帝国の威信に懸けて必ず取り戻す。それに私の主催するパーティーで堂々と盗みを働くなど許容できるはずがない。だから、安心して待っていて欲しい」

「お願いします」


 パーティーには専属の使用人を連れている者はいても護衛を連れている者はいない。

 それは、新皇帝主催のパーティーで自分の護衛を常に張り付かせていれば皇帝の力を信用していません、と言っているようなものになるからだ。


 護衛を連れていない者には信用されている。

 それを無碍にされたような形になっているのだから怒らない訳にはいかない。


「聞いての通りだ。帝城から逃げ出した怪盗を追え」


 リオがパーティー会場の警備をしていた兵士に指示を出す。


「ですが、それではパーティー会場の警備が薄くなります」

「パーティー会場には最低限の人数さえ残しておけばいい。今は一刻も早く怪盗を捕まえる方が優先だ。会場の警備には詰所で待機している者に応援を頼め」

「はっ」


 兵士がパーティー会場から出て怪盗を追う。

 他には使用人の一人がどこかへと駆け出していた。応援を呼ぶだけなら戦う力のある兵士でなくてもいい。


「怪盗は俺の仲間も追っています。それよりも盗まれたのは先ほどまでも右手の人差し指に填めていた物ですよね」

「そうだ。他の者は分からなかったと思うが、幼い頃から父が嵌めている姿を何度も見て、この数年は私の指にずっとあった指輪だ。怪盗が手にしていたのは我が家の家宝で間違いない」


 自分の指輪だと断言するガランドさん。

 その言葉を聞いていたリオは苦笑している。

 俺も理由が分かるだけに苦笑したいところだが、本人と顔を突き合わせているため我慢する。


「シルビアだけに任せるのは申し訳ない。俺たちも追うぞ」

「はい」


 パーティー会場を後にする。

 シルビアのようにバルコニーから跳ぶような真似はせずに出入り口からきちんと出る。


 城から出た場所では兵士が慌ただしく動き回りながら帝都へ出ようとしていた。


 怪盗バットは広い帝都の中へと消えた。

 どこを探せばいいのか全く分からない。


 ただし、迷宮主である俺には怪盗バットを追った迷宮眷属であるシルビアの現在位置が正確に分かる。

 既に帝城からかなり離れた場所にある住宅街の上を飛び回っており、視界を共有させてもらうと戦闘中だった。


 シルビアの方へは向かわず、整列した兵士へ近付く。


「どこへ向かうんですか?」

「怪盗捕縛はシルビアに任せよう。俺たちは指輪の回収だ」


 怪盗の予告状からしてオークションに出される品物が目当てだと思っていた。

 しかし、実際にはオークションに出される品物を目当てに集まった貴族が身に着けていた指輪を暗闇に乗じて盗み出している。


「まったく……お前たちに展示されていた品物を見て貰った意味がなくなった」

「そうよね」

「私たちの苦労はなんだったのか」


 価値を知るのもそうだったが、怪盗に盗まれた時に備える意味もあった。

 盗まれた後で品物の現在位置を知る為。


「ちょっといいですか?」

「なにかな?」


 忙しい兵士の対応は素っ気ないものだった。

 スーツやドレスを着ているパーティーの招待客なので貴族に見えなくもないが、それだけ忙しいという事だと納得する。


「盗まれた指輪の現在位置が知りたくありませんか?」

「知りたいが……」

「ちょっと探し物に便利な道具を持っているんです」


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