第24話 巨大土竜の正体
召喚で鉱山内に放置したままのゴブリンやコボルトを呼び寄せる。
彼らは本能に任せて人を襲ったり、命令を与えても単調な作業をするぐらいの知能しか持たないが、金貨を拾うぐらいの知能なら持っている。
集めた数は100匹。
「これだけいれば1人1万枚も拾えば終わるぞ」
言葉を掛けると雄叫びが聞こえて来る。
地面に落ちた大量の金貨を拾う、など本来なら苦になるような作業だが、彼らは迷宮生まれの魔物。迷宮主からの命令ならどんな屈辱的な命令にでも喜んで従ってくれる。
「おまえ……魔物使い(テイマー)のスキルも持っていたのか」
何度目になるのかフィリップさんから呆れた視線を頂戴する。
魔物使い(テイマー)。
魔物と親密になることで言う事を聞いてもらう。または、実力を示すことで屈服させ配下にすることができる者。
たしかに今の状況だけを見るなら魔物に命令を聞かせている。
しかし、その数が異常だった。
「いや、違うな。普通の魔物使い(テイマー)は2、3匹がいいところだって聞いたことがある。多くても弱い個体を10匹とかだ。それが……この数は何だ?」
呼び出したのが弱いゴブリンたちとはいえ、10倍以上の数を呼び出している。魔物使い(テイマー)に対して詳しい知識を持っていないフィリップさんでも異常だと分かったみたいだ。
「ちょっと特殊な事情を抱えているんです。だから見なかったことにしていただけると助かります」
「戦争の時の活躍から只者ではないと思っていたが、まだまだ隠し玉があったとは思わなかった。だが、俺も娘が世話になっている奴からの頼みだ。無碍にするようなつもりはない」
「ありがとうございます」
金貨の回収についてはゴブリンたちに任せておけばいい。
俺たちは俺たちで難しい話をしなければならない。
「まずは、こいつの解析だな」
地面の上に置かれた巨大土竜の魔石を見る。
巨大魔物の魔石らしく通常の魔石が拳大ほどしかないにも関わらず、巨大土竜の魔石は直径50センチ近くあった。
「どうだった?」
「鑑定しましたが、アイラさんが確認した以上の情報は得られませんでした」
メリッサも確認したのなら見落としたという可能性も低い。
鑑定した結果、ステータスやスキル以外にも鉱山を棲み処としているといった、いくつかの情報を得る事に成功したものの最大の謎が残っていた。
なぜ、【迷宮魔法:鑑定】が成功したのか?
迷宮に関連する対象でなければ、迷宮魔法の鑑定は成功しない。
鑑定が成功したという事は、巨大土竜が迷宮に関係のある存在であるのは間違いない。
最初は近くに迷宮があって迷宮から出て来た魔物なのかと思ったが、フィリップさんに確認してみるとカンザスの近くに迷宮はないらしい。もちろん未発見の迷宮やフィリップさんが把握していないだけという可能性も捨て切れないが、近くに迷宮はないと考えた方がいい。
【土中潜行】を持つ巨大土竜だからこそ離れた場所にある迷宮からカンザスの鉱山まで誰にも見つかることなく移動して来る事ができるかもしれないが、わざわざここまで来る意味が分からない。
迷宮主として迷宮魔法が成功した理由が知りたい。
魔石を調べれば、より多くの情報を得られるかと思ったが必要な情報は得られなかった。
「できれば冒険者ギルドに持ち帰りたかったんだけどな」
討伐した証拠として魔石ほど確実な物はない。
同じ物を用意できるとはいえ、完全に複製できる保障はない。
「じゃあ、頼む」
『はいはい』
魔石に【魔力変換】を行う。
【魔力変換】ならエネルギーレベルまで魔石を分解させる事ができる。
そうすれば【鑑定】では分からない事まで分かるかもしれない。
結果に関しては迷宮核に精査させる。
『……これは!』
「何か分かったのか?」
『詳しい事はこれから確認するけど、まず分かった事だけを教える事にするよ』
迷宮核の言葉はどこか焦っていた。
『これは、魔石なんかじゃない。いや……魔石としての機能は持っているんだけど、本来の用途は魔石じゃない』
「じゃあ、何なんだ?」
『偽核』
「それって……」
リオとの競争でゴール地点に用意していた物だ。
自分の手で地下50階に用意したので覚えているが、結局使われる事のなかった代物。
それが、どうしてこんな場所にあるのか?
『偽核は迷宮の侵入者を騙す為の代物だけど、ちょっと多めに魔力を消費することで迷宮核と同じような効果を持たせることができるんだ』
とはいえ、迷宮主なら迷宮核と似た効果を持たせる必要などなく迷宮核をそのまま使用すればいいだけの話なので迷宮の中にいる限り、普通はそんな使い方をしない。
しかし、効果を与えることによって迷宮の外でも使用することができるようになる。
『たとえば……周囲の魔力を取り込んだり、魔物を生み出したり……とかだね』
「……!?」
シルビアたちも気付いたみたいだ。
巨大土竜は鉱山の外から来たわけではない。誰かが偽核を鉱山に置いた結果、鉱山内にある魔力を取り込み、巨大な土竜という特殊な魔物が生み出された。
「これってエルフの里にいた魔物と同じですよね」
迷いの森にいた巨大芋虫、巨大蜘蛛、巨大蛾は神樹ユグドラシルの証言から何者かが森の中に置いて行った魔石が森の中に満ちる神気を取り込んだことによって生み出された魔物だと分かっている。
巨大土竜も鉱山に置いて行かれた偽核が原因だった。
『これは、あの3体も普通の魔石じゃなくて偽核から生み出されていたのかもしれないね』
「譲り渡したのは失敗だったか」
あの時は、毒で苦しんでいる人がたくさんいたし、エルフの方が有効利用できるだろうという事で巨大蜘蛛と巨大蛾の素材を譲り渡してしまった。
だから、そんな魔石が使われていたのかも知らない。
「もっと詳しい事は分からないのか?」
知りたいのは偽核を置いて行った人物。
侵入者を騙す目的で置かれた偽核なら魔物を生み出すような効果を持たせる必要はない。魔物を生み出せる偽核を所有していたということは、自分で用意できるということになる。
間違いなく、相手は迷宮主だ。
『たぶん出て来ないと思うよ』
俺だって自分に繋がるような事は残さない。
それに巨大土竜も迷いの森にいた3体と同じで実験の可能性が高い。
「迷いの森みたいな特殊な場所で生み出すことに成功したから次はどこにでもあるような鉱山で試してみた、そんなところでしょうか?」
「なにそれ!」
メリッサの推論にイリスが怒る。
彼女にとってカンザスは知り合いの治める街。
そんな大切な場所が実験場のように扱われた事に怒っている。
「実験によって生み出された魔物は迷いの森に続いてまたしても私たちの手によって討伐されてしまったわけですが、実験そのものは成功しているわけですから警戒をする必要があります」
普通のAランク冒険者パーティでは歯が立たずに壊滅してしまった。
もしも、量産が目的だった場合、戦争よりも恐ろしい事態になってしまうのは間違いない。
「とりあえずカンザスは救えたんだ金貨を回収したら戻ろう」