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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第27話 VS巨大海魔ー爆釣ー

 針が口の中に突き刺さった巨大海魔が海中を逃げ回っている。


 ――ドシン! ドシン!


 海中から何やら重たい音が聞こえて来る。

 海底近くをただ闇雲に泳いで逃げ回っているジャイアントクラーケンは海底から突き出た岩を気にする事無く泳いでいる。おかげで俺が何かをする事もなく体力を消耗して行っている。


「お前は強いし、魔物にしては賢い方なんだろうな。だけど、戦闘経験が全く足りていないんだよ」


 巨体を活かして相手を捕食する事しかして来なかった。

 そのせいで自分が攻撃――口の中に針を刺された時にどういう行動を取るのか最適なのか分からないどころか考える事すらできずに闇雲に逃げ回ることしかできない。


 体力を消耗すれば糸を引く力に耐える力も少なくなる。


 リールを巻く。

 釣り竿と釣り針の間にある距離が短くなり、ジャイアントクラーケンが海面へと近付く。


「前言は撤回しよう。ちゃんと考えているみたいだな」


 泳ぎながら岩にぶつかり、砕かれた岩が糸を下敷きにして行く。

 俺が使っている糸が普通の糸なら岩の重さで千切れたのかもしれないが、今回の為に特注した釣り糸は千切れる事がないどころか落ちて来た岩を切断する。


「ミスリル製の釣り糸だ。簡単に千切れるわけがないだろ」


 魔力を流す事によって頑丈になるミスリルを使用して作られた糸は下手な刃物よりも鋭利になっている。


 岩が斬り裂かれる様子を海中で見たのか逃げるジャイアントクラーケンの動きが鈍る。


「おっと」


 今度は前へ進むのではなく下へと引っ張られる。

 咄嗟に空中で踏み止まる。


「そうだ。お前に残された逃げ道は海中にしかないんだよ」


 前後左右のどこへ逃げても糸で繋がれた現在の状態ならどこまでも追いついていける自信がある。障害物の多い海中と違って空中にいる俺には進路を妨げる物など存在しない。


 ただし、下には海面という限界がある。

 空中では魔法の力でしか踏み止まれない俺と触手を使って岩に捕まりながら引き摺りこもうとするジャイアントクラーケン。


 急に下へ引っ張られた事で釣り竿が再度撓る。


「強度強化」


 再び強化された強度が釣り竿を耐えさせる。


「いったい、何の為にオリハルコンで釣り竿を用意したと思っているんだ」


 物体に対して魔法を施した場合、物体が持つ魔法耐性以上の力を与えてしまうと強度を強化する魔法を使っても逆に崩壊させてしまう結果になる。

 魔法との親和性が強いオリハルコンなら魔法を何度も掛けても耐えてくれる。


「追加だ」


 3度目の強度強化を施す。

 これでそう簡単に壊れるような事はない。


 海底付近にあった大岩が崩れる。ジャイアントクラーケンがしがみ付いていた大岩だったが、力に耐えられずに壊れてしまった。


 その瞬間、リールを巻く。

 しがみ付くものがなくなったジャイアントクラーケンの体が海上へと迫って来る。


 再び泳ぎながら大岩に触手を伸ばすと釣り上げられないように耐える。


「往生際が悪い」


 ジャイアントクラーケンの力に耐えながらリールを巻いて行く。

 どうやら単純な力比べなら俺の方が上みたいだ。


「おい、あの空に浮かんでいる奴は何をしているんだ?」

「バカ! あいつはこの間ジャイアントクラーケンを海上まで引っ張り上げた奴だぞ」


 周囲が少し煩くなってきた。

 障害物など全くなく俺の姿を遮るものが何もない場所で釣りをしているのだから俺の姿は誰でも見ることができる。


「あいつが持っている物って大きいけど釣り竿だよな」

「ああ、そうだな」

「まさかとは思うけど……」

「本気でジャイアントクラーケンを釣り上げようとしているのか」


 ジャイアントクラーケンを海上まで引っ張り上げた事のある者が海のど真ん中で大きな釣り竿を両手で持って釣り糸を海中に垂らしている。

 空を飛んだまま釣りをしている事だけでも異常だが、この光景を見ている人物には俺が何を釣ろうとしているのか一目で分かったらしい。


 そんな周囲に構わずリールを巻く。


 ジャイアントクラーケンの体は海上へと引っ張り上げられているのだが、触手を伸ばして耐えようとしている。


「おい、ここで待っていればジャイアントクラーケンが釣り上げられるっていう事か?」


 近くを航行していた船に乗っていた冒険者の一人が気付いた。


「そうだろうな」

「だったら俺たちにも攻撃できるチャンスがあるだろうな」


 冒険者が武器を手に持つ。

 これまでは相手が海中にいるという事で自分から手出しをする事ができなかったし、どの船が襲われるのか分からない状況では自分を囮にするような真似も確実にできるわけではなかった。


 しかし、目の前には確実に現れると分かっている場所がある。


 少しでも攻撃に参加すれば俺たちが討伐した後から自分も攻撃に参加したと言って報酬の分け前を期待する事ができるかもしれない。


 冒険者の乗った船が近付く。


「いいのかな……」


 明らかなマナー違反だ。


 冒険者は他の冒険者が魔物と戦っている場合には救援を求められない限り、戦闘に参加していけない、という常識がある。

 魔物の横取りなど後から問題が発生してしまうからである。


 ただし、近付くと言っても俺との距離は何十メートルもあるので戦闘に巻き込まれただけだ、という言い訳もできる。


「だったら本当に巻き込まれてもらおうじゃないか」


 自分たちに近付く船がある事にジャイアントクラーケンが気付き、そちらへと向かって行く。


「おいおい……」


 海中の様子が分からない冒険者たちだったが、釣り糸の動きからジャイアントクラーケンが自分たちの方へと向かって来ている事に気付いた冒険者。


「あんたたち! 近付くのは結構だけど、巻き込まれたくなかったらさっさと逃げなさい」


 海上からアイラが注意するが既に遅い。


 そう簡単に方向を変えられるわけではない船の船首に向かってジャイアントクラーケンが迫る。


 ――スパン!


 船の下をジャイアントクラーケンが通り過ぎるとミスリル製の釣り糸が船首を切断する。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!」


 船首を切断された船は今すぐに航行不能というわけではないが、すぐに港へ戻って修理をしなければならないほどの状態だった。あ、一人が傾いたせいで船から落とされている。


「漁夫の利を狙って近付いたんだ。これぐらいのリスクは背負ってもらわないと困る」


 空を飛んで逃げるジャイアントクラーケンを追いながらリールを巻く。


 そろそろいい頃かな?


「はぁ!」


 全力で釣り竿を背負い投げる。

 釣り針が突き刺さったままのジャイアントクラーケンが空中に投げ出された。


 空中に投げ出された衝撃によって突き刺さっていた釣り針が外れてしまうが、既に海中から出た今となってはどうでもいい。


 しかし、この瞬間を狙っていたのは向こうも同じらしく魔力を漲らせて硬くした触手を伸ばしてくる。


「何の為にこんな巨大な釣り竿を使っていると思っているんだ」


 釣り竿を棒術のように横に構えると伸ばして来た触手を全て弾き落して行く。

 8本の触手全てが海へと向かう。


「貫け」


 投げ槍のように構えた釣り竿から雷がバチバチと爆ぜている。


 ジャイアントクラーケンの額へ向かって放つ。

 貫通した釣り竿が海中へと沈む中、額に大きな穴を開けられたジャイアントクラーケンも力なく海面へと落ちて行く。釣り竿の方は後で回収すれば問題ない。


「チッ、魔石の破壊はできなかったか」


 それでもジャイアントクラーケンは生きていた。


 元々、蛸にとって額は弱点ではない。

 海面へと向かうジャイアントクラーケンが振り向きながらゆっくりとこちらを見る。


 その目は弱々しく細められ、口も尖らされて――水の弾丸が発射された。


「ぐはっ」


 完全に不意を撃たれた攻撃をまともに受け、海面へと俺も向かう。

 内臓にダメージを受けてしまったらしく口から血が流れていた。


「キャッチ」


 万が一の場合に備えて近くを泳いでいたアイラが落ちて来た俺の体を受け止めてくれた。


「助かった」

「ジャイアントクラーケンとの戦闘ではほとんど役に立たなかったからこれぐらいは手伝わせてほしいな」

「そんな事はないさ」


 実際、俺とジャイアントクラーケンの力に引き寄せられてきた魔物が何匹もいたが、全てアイラによって斬られている。


「惜しかったわね」


 釣り針も外れて自由になったジャイアントクラーケンが逃げて行く。


「いいんだよ。事前に説明したけど、今回の釣りは事前準備だ」

「時間稼ぎは十分だしね」


 そう、今回の釣り上げる目的はあくまでもジャイアントクラーケンを迷宮から出して注意を俺に惹き付けておく事だった。


 おかげで別行動をしていたシルビア、メリッサ、イリスは目的を果たしたはずだ。


「というか、あいつらはどこに行ったんだ?」


 当初の予定では目的を果たしたら連絡があるはずだった。


 その連絡すらない。


 しかし、仕事が失敗したとは思わない。彼女たちなら数分もあれば終われる簡単な仕事だ。


「それは、ご主人様が楽しそうにしていたからです」

「シルビア」


 海中から水着姿のシルビアたちが姿を現す。


「もしかして、近くで待機していたか?」

「はい。そんな事にも気付けないほどジャイアントクラーケンとの戦闘――釣りを楽しんでいるようでしたので声を掛けるのも躊躇われました」

「そうか」


 メリッサからも言われるという事は、本当に楽しそうにしていたのだろう。

 実際、今回の釣りは全力を尽くす事ができたから楽しかった。


「それで、仕事はきちんと終えたんだろうな」

「もちろん」


 イリスが肯定してくれる。


「なら、作戦の第2段階に移行しよう」

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