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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第8話 ごめんなさい

 手を繋いだシエラとリックが冒険者ギルドを出て、建物の前にある大通りを歩いている。

 二人の後ろをジリーがついて行く。


「だって、たいくつなんだもん」


 退屈だと言うシエラだったが、実際のところはリックが飽きてしまっていた。

 せっかく遊びに来ているのに仕事の話を始めてしまった。そこでシエラが誘って美味しい物を食べに来た。


「こんにちは」

「いらっしゃい」


 大通りにある屋台の一つへ入ると果実を絞って作ったジュースを頼む。


「おいしい」


 ジュースを飲んだリックが満足した笑顔を浮かべている。

 その表情を見ているだけでシエラも笑顔になることができた。


「二人とも、アイラの子供だね」

「そうだよ」

「今、アイラが帰って来たって噂になっているし、あの子が小さかった頃にそっくりだからすぐに分かったよ」

「えへへ」


 似ていると言われて照れていた。


「ばいばい」

「また来てくれよ」


 ジュースの入っていたコップを返却すると冒険者ギルドのある方へと向かう。


「もう戻るの?」

「うん。そろそろしんぱいしているからね」

「えらい、えらい」


 大通りを歩くシエラとリックは衆目の的となっている。遠巻きに見ている人が多いため周囲はポッカリと穴が開いたようになっていた。


 ――ヒュン!


「……危ない!?」


 ジリーが叫びながら飛び込む。

 しかし、朗らかな状況だったため飛び込んで身を挺しても飛んでくる矢に間に合わない。


「ああ、やっぱり」


 酷く冷たく紡がれた言葉。

 飛び込んだジリーの耳に聞こえた声は、すぐ傍から聞こえてきた。



 ☆ ☆ ☆



「本当にやるんですか?」

「これも仕事だからな」


 大通りが見える建物の屋上。

 そこに二人の男が立っていた。


 どちらも軽装で、一人はモノクルを通して目を大通りへ向けており、もう一人は弓矢を向けている。

 狙う先にいるのはシエラとリック。

 予定にない人物も同行しているが、これから子供を暗殺しようとしている。


「相手は何の罪もない子供ですよ」

「じゃあ、今までに殺してきた連中も罪のない人間だって言うのか?」

「それは……」


 彼らはパレント家の抱える暗殺部隊。

 パレント家にとって不都合な者を密かに暗殺するのが目的の部隊だ。


「俺たちは命令通りに仕留めるだけだ」

「……分かりましたよ」


 渋々といった様子で矢をリックへ向ける。


「せっかく親から離れた瞬間が訪れてくれたんだ。今が絶好の機会だ」


 領主お抱えの暗殺部隊とはいえ冒険者ギルド内まで把握することができない。

 それが、子供だけで冒険者ギルドから出てきてくれた。情報不足は否めないが、ここは自分たちにとってホームも同然の街。即座に狙撃場所に潜むと狙いを定めていた。


「――やれ」


 狙撃ポイントまで移動してきたところで矢が射られる。


 ――カラン、カラン、カラン!


「……は?」


 矢が地面に落ちる音が3(・・)鳴る。

 異なるタイミングで奏でられた3つの音。矢は異なる場所からも射られていた。


「いったい、何が……」


 男がモノクルに魔力を注いで標的のいる場所を見る。

 このモノクルは魔法道具で、魔力を注ぐことで遠くの光景を拡大して映し出すことができ、相手の僅かな挙動すら捉えることができるようになる。


「……!?」


 だが、拡大した光景に映ったのは自分の方をジッと見つめている少女の姿。


「ありえない……」


 狙撃した相手を認識している。


「ん……?」


 ゆっくりとシエラの口が動く。


「『バン』……?」


 言葉にもならない呟き。

 しかし、戸惑ったのは一瞬で悲鳴に意識が引き剥がされる。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!」


 隣から聞こえた悲鳴。

 慌てて振り向けば血を流した狙撃手が蹲っていた。


「な、なんだ……これは!?」


 床に転がる中央部分が粉々に砕け散ってしまった弓。

 蹲る狙撃手は、両腕の肘から先がなくなった状態で血を流し続けている。

 悲鳴は別の場所からも聞こえる。断定はできないが、他に二人の狙撃手を潜ませた場所だ。


「まさか……」


 3人いた狙撃手。

 全員が同じ状態になっているのかもしれない。

 思わず異様な光景に戦慄してしまう。


「見つけた」


 背後から聞こえる幼さの残る声。

 だが、背筋を凍らせるような声にゆっくりと振り向く。


「なっ……!?」


 そこにいたのは暗殺対象である少女だった。


「あ、ありえない……!」


 ここは3階建ての建物の屋上。子供が簡単に来られるような場所ではない。

 いや、そもそも移動して来たにしては到着するのが早過ぎる。隣から悲鳴を聞くまで男はシエラと目を合わせていた。そして、シエラから目を離して声を掛けられるまで5秒ほどしか経っていない。明らかに普通ではない。


「ごめんなさいは?」

「なに……?」

「悪いことをしたら『ごめんなさい』しないといけないんだよ」


 それは親を持つ子供なら誰もが教えられる事。

 けれども大人になるにつれて忘れてしまうため、男は何を言われているのかすぐに理解することができなかった。


「ははっ」


 子供らしい子供に思わず笑い声が零れてしまう。


「残念だけど、これは俺たちの仕事なんだ。だから『悪い事』じゃないんだ」

「そんなことないよ。人をきずつけるのは悪いことだっておとうさんから教わったもん! りっくんに矢を使ったでしょ」

「……!?」


 自分たちが何をしようとしたのか理解している。


「むっ! はんせいしていない人にはおこらないといけない!」


 シエラが蹲る男へ手を向ける。


「ああああああ!」


 次の瞬間、狙撃手の左足の膝から先が弾け飛んだ。


「今のは……」


 男の目にはシエラが何をしたのかようやく映った。

 シエラの手から圧縮された風の弾丸が放たれ、狙撃手の足を弾き飛ばした。


「何者なんだ、いったい……」


 攻撃用の魔法だ。

 幼い子供が攻撃に使えるレベルの魔法を使うなどありえない。ましてや隣にいた人間も巻き込んで防御に使うのもありえない。


「さっきの矢も風で防御したのか」


 矢が当たる直前に風の壁を魔法で生み出して防御する。

 風に押し出された矢は地面に落ちることになった。


「ごめんなさいは?」


 再三に渡って行われる要求。

 子供らしい要求にどうでもよくなってしまう。


「降参だ」

「ごめんなさいは?」

「ああ――ごめんなさい」


 こんな風に謝るのはいつ振りだろうか。

 いつしか子供らしい純粋な思いを捨ててしまっており、暗殺などという仕事をするようになってからは他人の命を奪うことに何の興味も覚えなくなっていた。

 改めて、いけない事をしているんだと教えられた。


「うん」


 満足したのかシエラが屋上から飛び降りる。


「あ、おい……」


 3階の上から飛び降りれば子供ではひとたまりもない。

 慌てて身を乗り出して様子を確認する。


「……本当に何者だ?」


 地面では何事もなかったように歩いて弟のいる方へ向かっているシエラの姿がある。


 ジリーは狙撃そのものには気付いて防御しようとしたが、街中ということで油断していたせいもあって迎撃が遅れてしまった。おかげで狙撃されたタイミングでは間に合うのは1本のみ。だからシエラが防御してくれたのには助かっていた。

 さらにシエラの姿が急に消えてしまったことに動転して残されたリックを守ることぐらいしかできなかった。


「仕留めることができないどころか、逆に反撃されるなんて暗殺者として恥だな」

「……全部、分かっていたのか」


 首に当たる刃の冷たさによって悟る。


「ここで親の登場か」

「あの子は子供だから謝れば許したけど、俺は簡単に許すつもりはないぞ」


悪い事をしたら謝ろう

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― 新着の感想 ―
[一言]  アリスター迷宮にご案内の刑、確定か。これ、馬鹿執事が命令したのか、領主の直令かでパレント家の未来が変わりますな。
[気になる点] さて、今回依頼した張本人である子爵様は真っ先に除外するとして 他に子爵様お抱えの暗殺部隊を動かせるのとマルスくん一家を狙う動機がありそうなのは……執事!犯人はお前だ!(ビシイッ) [一…
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