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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第47話 寂れた迷宮の主

 翌日。

 朝の内に冒険者ギルドが賑わっているのを確認してから迷宮へと移動する。


 洞窟フィールドは、入口だけは目的の階層へ向かう冒険者で賑わっていたが、誰もいない状態が奥まで続いていた。迷宮に何かしらの異常が発生したのは噂として伝わっているらしく、新人たちに二の足を踏ませていた。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかない。


 草原フィールドは最も力を入れて元に戻そうとしたため以前と変わらない賑わいになっていた。

 地下12階へ移動して重低音のする方を見れば巨大な猪を相手に武器を手にして戦っている冒険者の姿が見える。野菜の方も順調に育っているようなので何も問題ない。


 鉱山フィールドも多くの冒険者が採掘に勤しんでいる。先日の騒動で自分たちの知らない魔物がいることを知った冒険者たち。

 資金に余裕のある冒険者は、装備を新しくしようと鍛冶師に装備の強化を願い出ていた。そのため一時的な資材不足となり、鉱石の値段が若干ではあるものの上がっていた。今の鉱山は力に自信のある冒険者が大勢いる。


 火山フィールドで得られる魔石の価値も上がっていた。それと言うのも冒険者が慌てていたせいで「何かあったのでは?」という不安が市民にも広がっていた。

 実際には普段と何も変わらないため、すぐに落ち着くのだろうがエネルギー源となる魔石を求める人が多くいた。これから夏に向かって暑くなるため魔法道具を稼働させる為にも魔石は欠かせない。


 地下11階から30階は今まで通りの賑わいをどうにか取り戻していた。


 問題なのは――地下31階から35階の高山フィールド。

 高所でしか得ることのできない植物が得られることから、薬の素材を求めている錬金術師が冒険者ギルドに依頼を出して採取に赴く冒険者が何人かいる。

 そんな人の姿が全くなかった。


「酷いもんだ……」

「仕方ないわよ」

「フレスヴェルクがかなり暴れていましたからね」


 上から山腹の様子を眺めてみるが、誰の姿も確認することができない。

 今日は全員で迷宮を訪れている。迷宮内の様子なら簡単に把握できるが、実際に自分の目で見れば違う感想も出てくる。

 呟けば近くにいたアイラとシルビアが反応してくれた。


 結局はゼオンに倒されてしまったフレスヴェルクだったが、多くの冒険者に姿と力を目撃されてしまった。

 今までに見た事すらない魔物が出現した場所。

 しかも、高山フィールドは地下31階から35階まで続いているフィールド。どの階層に出現してもおかしくないため、フレスヴェルクを恐れた冒険者たちが高山フィールドへ近付く事そのものを恐れていた。


「こればかりはどうしようもありませんね」

「時間が解決してくれるのを待とう」


 メリッサやイリスが言うようにアリスター近辺では手に入らない薬草もあるので必要になる時は必ず訪れる。

 その頃には依頼を受けた冒険者が訪れるようになってくれるだろう。


「せっかく薬草とかを元に戻したんだけどな」


 吹き飛ばされた薬草も元に戻されている。

 場所によってフレスヴェルクの灰色の風によって抉られてしまった地面に咲いていた物もあったので、ちょっとした出費にはなってしまった。


「あ、見て」


 山をのんびり歩いていると1羽の鷹が近付いて来たのにノエルが気付いた。

 鷹の方も迷宮主である俺ではなく、ノエルの腕に留まった。


 この鷹も立派な迷宮を守る魔物で、本来なら遥か上空から猛スピードで襲い掛かるようになっている。

 ただし、俺たちに用がある鷹は襲い掛かることなく鳴いて用件を伝えている。


「悪いな。もっと数を増やしてやりたいところなんだけど、今は人の少ない場所にまで回している余裕がないんだ」


 悲しそうに一度だけ鳴くとどこかへと飛んでいく。

 今の鷹には高山の管理を任せていた。以前はフレスヴェルクのしていた役割だが、倒されてしまった上、同程度の魔物を喚び出せるほどの余裕もない。

 おかげで知能の高い魔物に任せるしかない状況になっていた。


「たしかに今は人がいないですけど、数週間以内には人が戻るようになるはずです。借金の件もありますし、どうやって稼ぐことにするのですか?」


 メリッサが言うように今は資金を必要としていた。

 質問に答える前に地下41階へ移動する。普段なら森で生活する魔物の誰かが出迎えてくれてもおかしくない状況なのだが、今は誰の出迎えもない。

 それどころか今は森の中から反応すらない。


 誰もいなくなった森にある木株に腰掛けながら重たい口を開く。


「昨日、レジェンスの冒険者ギルドにある掲示板に貼り出されていた依頼を引き受けて片っ端から強い魔物をイリスと一緒に狩ったんだ」


 時間は半日しかなかったため4体の魔物を倒すことしかできなかった。

 それでも被害に逢っていた村の人たちからは涙を流して感謝され、報酬までいただいてしまった。


 依頼の成果が入った皮袋を見せる。


「けっこう入っているじゃない」


 中身を確認したアイラが言うように金貨が130枚入っていた。

 二人で頑張ればこれだけの大金を半日で稼ぐことができる。


「これなら完済も楽勝ね」


 アイラは暢気にしているが、シルビアは事の深刻さに気付いた。


「……これだけですか?」

「それだけなんだよ」

「え、大金でしょ?」

「完済する為には、この2万倍以上の金貨が必要なの! そして、こんな大金を出してくれる依頼は簡単に出されないの!」


 そう。依頼そのものは簡単に片付けることができる。

 問題は、依頼そのものの数が少なくなっていくということ。


「だからな--」


 皮袋を手にして【魔力変換】を行う。

 そして、すぐに魔力から【宝箱(トレジャーボックス)】で水晶を生み出す。


「これ、スキルスフィア?」


 手にした者が水晶を壊すことでスキルを手にすることができる特別な魔法道具。今のところ人工的に作り出す術はなく、迷宮の宝箱から手に入れるしかない。

 【宝箱】なら魔力の消費さえ許容できれば望んだスキルが込められた物を生み出すことができる。


「レジェンスの冒険者ギルドの掲示板にはこういった特殊な物を求めている、なんていう依頼も貼り出されていたんだ」


 以前に行った時は掲示板を詳しく見ているほどの余裕はなかった。だが、改めて見てみると他の街にはない依頼がたくさんあった。


「あそこは多くの物が集まる。だからこそ、ない物があると手に入れたくなってしまう」


 今、生み出したスキルスフィアは【回復(ヒール)】の魔法が込められている。

 回復魔法は魔物と戦って傷の絶えない冒険者には貴重なスキルになっている。

 掲示板には回復魔法が使えるフリーの冒険者をパーティに誘う依頼票が張り出されていたが、フリーの冒険者など簡単に見つかるはずがない。

 だからスキルスフィアを求める依頼票が貼り出されていた。


「魔物を狩って大金を稼ぐよりも、こういう物を売った方が稼げるんだ」


 簡単なスキルなら痛手にならない。


「でも、その方法はマズいからやらなかったんじゃないの?」


 最初の頃に案が出て、イリスから止めるよう言われた方法だった。

 一つや二つ程度なら誤魔化せるが、大量に売り出すとなると不審に思われることになる。


「それは、正体を隠したかった頃の話だ」


 今まで悟られないよう行動してきたつもりだ。

 でも、それも限界だ。


「俺たちがイルカイト迷宮を目指していたことは多くの連中が知っている。そうなるとゼオンの拠点が迷宮だったと想像するだろ」


 さらに異常な力まで見せている。

 おそらく誰かは同種の力だと判断するはずだ。


「自然と俺が迷宮主だっていうのはバレるはずだ」


 調べればタイミングを同じくしてアリスター迷宮に異常が発生したのは分かるはずだ。

 俺が拠点にしている都市の近くにある迷宮で異常が発生する。


「必死だったから後の事まで気が回らなかったけど、もう隠しておけるような状況じゃないんだよ」


 調べれば知られてしまう。


「なら、気にせず立ち回った方がいいだろ」

「それもそうね。今さらあたしたちに文句を言う奴もいないでしょ」

「アリスターは既に支配下にあるような状態ですしね」

「わざわざ辺境まで追って来る人も少ないはずです」

「私は賛成」

「これからは自重なしで稼げるってことね」

「赤字を出さないよう気を付けろよ」


 魔物が消えて寂れてしまった迷宮。

 元の賑やかな状態を取り戻す為の戦いが始まる。

第37章から始まったゼオンも132話で一応の完結。

明日からは元の形態に戻します。

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