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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第68話 ヘルアント

 すり鉢状に落ちた砂の中心へと流れる砂の上を走る蟻。

 その姿からは蟻よりも人間のような印象しか受けない。


「――地獄蟻(ヘルアント)。名前が逆だろ」


 【鑑定】の結果に思わず突っ込まずにはいられない。

 【土属性魔法】と【火属性魔法】の魔法を得意とする蟻の魔物で、地中に潜んで敵を襲撃する。奇襲を得意とした魔物のはずなのだが、目の前にいるヘルアントからは奇襲に徹するような様子は見られない。むしろ真正面から突っ込んで来ている。

 迫るヘルアント。流砂から逃れようとするが、足を動かせば動かすほど砂に取られてしまう。


「きゃっ」

「わっ!」


 そうこうしている内にメリッサとノエルが深く沈みこんでしまう。

 ヘルアントにとっては、沈み込んだ二人が自分の巣に迷い込んだ憐れな蝶に見えたことだろう。


「イリス、お前が二人を助けろ。アイラは3人の護衛でヘルアントを警戒しろ」

「マルスとシルビアは?」

「動けるな」

「はい」


 足首まで沈んだ状態でもシルビアはコツを掴んだようで砂から足を抜くと安定した姿勢で立ち上がる。

 俺も移動する方法は考えている。そもそも流れる砂の上を歩こうとするのが間違いなんだ。


 足で爆発を起こすと跳び上がる。

 流砂の上を走っていたヘルアントが見上げ、同時に拳を構えている。落ちてきたところを攻撃するつもりなのか、俺の落ちる場所を読もうとしているのが分かる。流砂の上に落ちれば再び動きを制限されることになる。


「砂の上を走る? そんな真似はしないさ」


 落ちる直前、砂の30センチ上を飛びながら走る。


「砂の上を走るんじゃなくて、空中を走ればいいんだよ」


 空中を滑走し、ヘルアントへ向かう。

 ヘルアントの目が怪しく光り、構えていた拳を解いて腕を振るう。

 背後から気配を感じて振り向くよりも先に前へ大きく跳ぶ。直後、砂の濁流が飛び跳ねながら俺のいた場所へ襲い掛かって来る。タイミングを考えるなら間違いなくヘルアントの仕業だ。


 さらに左右からも飛んでくる砂の濁流。

 前へ、横へ飛びながら砂の濁流を回避していく。


「チッ、このままだと埒が明かないな」


 神剣を抜く。

 本来の砂なら斬ることはできないが、魔法の力によって押し固められた砂が相手なら魔法の力を斬ることができる。


 足を止めて、飛んできた砂の濁流へ神剣を当てる。


「思った通りだ」


 剣で斬った瞬間、砂の濁流が力を失って砂の塊へと変わる。

 ニヤッと笑みを浮かべながら進もうと体から一瞬だけ力を抜く。


 一瞬の油断――そんなものが許されるような相手ではない。


「おいおい……」


 体から力を抜いた一瞬の隙を突いて砂の嵐が発生する。

 分厚い砂の壁。どこを斬ればいいのか判断できない。


「なら、一気に吹き飛ばすだけだ」


 神剣を上から振り下ろす。

 発生した斬撃が砂の壁を押し退けるように斬り裂いていく。


「ご主人様!」


 シルビアの心配した声が聞こえる。

 無事な姿を見せるべく砂の壁から出るべきだろう。


「違います! 敵が……」

「は?」


 外へ出ようと飛び出した俺の目に飛び込んで来たのはヘルアントの頭。

 悍ましい姿から咄嗟に斬ろうと剣を振り下ろす。神剣は相手がどれだけ硬かろうと関係なく斬る。防御しようと掲げたヘルアントの腕を1本、2本と防御の甲斐もなく斬り落としていく。


 しかし、斬り落としたことで僅かに神剣の軌道が遅くなる。

 自分の腕を何本か犠牲にしながら神剣の軌道を見切ったヘルアントが神剣を受け流し、地面を叩くことになった神剣を奪い取る。


「え、ちょ……」


 投擲の体勢へ移るヘルアント。

 一方の俺は魔物らしからぬ行動に戸惑っている。


「あ……」


 気付けば遠くへ投げられた神剣。

 突き刺さった場所はそれほど離れていない。しかし、流砂に飲まれようとしている状況を放置すれば回収が難しくなる。


 俺の意識が完全に神剣へと向く。

 その間にヘルアントが砂の壁の反対側から飛び出して行く。

 向かう先にいるのはアイラ。


「え、どうすればいいの?」


 腕を犠牲にしてでも勝利を掴み取ろうとする魔物。

 しかも、相手の武器を奪い取るなんていう離れ業まで見せた。


 アイラが剣で攻撃する。しかし、幾度も打ち下ろされる攻撃がヘルアントの拳によって防がれる。


「ぐぅ……」


 斬り落とされなかった腕による攻撃がアイラの胸に当たる。

 流砂の上を滑り、転がりそうになるアイラの口から血が噴き出す。


「行かせるか!」

「この……」


 俺が左から、シルビアが右から攻撃する。

 神剣を手にしていない今の俺の攻撃は、魔力を纏った拳による打撃。準備している時間もなかったため、この程度の攻撃しかいない。

 それでも十分な威力がある。だが、シルビアの短剣も俺の打撃も全てが複数の拳によって防がれる。


「……っ!?」


 足に走る傷み。

 攻撃の手を止めることなく足元を見れば足首に砂が鞭のようになって絡み付いているのが見えた。


「なん……」


 ぐわんっ!

 勢いをつけて振られた砂の鞭のよって放り投げられる。


「マズい……」


 ヘルアントが駆ける。

 今度こそメリッサを仕留める為に手が伸ばされる。

 ヘルアントの目的はメリッサ。最も倒しやすい相手だと判断したことも真っ先に襲う理由の一つだが、最大の理由はメリッサの保有している魔力が最も多い、ということだ。メリッサを喰らった方が効率よく強くなることができる。


 流砂に呑み込まれて行く二人を引っ張り上げようと腕を引いていたイリスが、手を引きながら周囲に展開した氷柱を飛ばす。しかし、不安定な足場で放たれた氷柱は容易に回避され、メリッサたちの後ろへ回り込まれてしまう。


「そんな……」


 飛ばす方向を調整している余裕はない。

 そして、流砂に飲まれてしまった二人から手を放してしまえば今度こそ完全に飲み込まれてしまうことが分かっている。

 剣を抜きたくても抜くことができない。


「ここまでメリッサの考え通りだなんて」


 しかし、イリスは絶望していなかった。


「相手は賢い魔物だと最初の時点で分かりました。適切な場所に人を配置することができれば、その行動を抑えることもできます」


 メリッサまでの障害が少なくなったことで油断してしまったのか、狙っている理由を考えてしまった。

 自分が狙われていることを明確に理解したメリッサは、敢えて逸らしやすい攻撃をするようイリスに頼んだ。取るに足らない攻撃。それでも慎重な魔物であるため迂回してまでメリッサに近付いた。

 ……そこに本当の罠が待ち構えているとも知らずに。


 ボチャン!

 水に誰かが落ちる音がする。


 砂漠に落ちられるほどの水が自然に貯まるはずもない。これは、メリッサが魔法で用意した水たまり。


「苦労しましたよ。砂漠のように乾燥した場所で水を生み出す魔法を使用すれば魔力を大きく消耗することになります。なので、一点に集中することで落ちるほどの水を用意しました」


 メリッサが指を鳴らすと彼女を飲み込んでいた流砂が押し退けられる。

 魔法によって生み出された現象。なら、同じように魔法によって打ち消すことも可能だった。


「た、助けて……」


 ただし、ノエルは本当に飲み込まれてようとしている。

 微妙なところで鈍臭さを発揮するんだよな。


「何をしているのですか」

「ありがとう」

「気を付けて」

「うん」


 メリッサから呆れられ、イリスから注意されたノエルも無事に救出された。

 同時にヘルアントも水たまりから這い出してくるが、全身がビチョビチョになっていている。


「保有している属性から砂漠のように乾燥した場所での活動を得意としているヘルアントですが、濡れてしまうとどうなるのでしょうか」


 ぎこちない動きながら脚を1歩踏み出す。

 しかし、踏み出した直後に脚がボロボロになって崩れてしまう。まるで、砂で作られた体が崩壊してしまうような光景。


 それでも、極上の餌を前にしたヘルアントは歩みを止めることができない。


「素材を手に入れることができないのは残念ですが、強さを思えば仕方のないことです」


 2歩、3歩と進める。

 残念ながら、それより先は残った脚も崩壊してしまったせいで進む事ができなくなる。


 蟻らしく手として使っていた脚で立ち上がろうとする。しかし、力を込めた瞬間に崩壊し、倒れてしまう。

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