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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第65話 クラウドドラゴン

 視界の悪い雲海の何かのシルエットが浮かび上がる。

 それは、一言で現すなら巨大な蛇。断崖に描かれた円形の魔法陣を守る為なのか長い体で囲むようにしている。


 問題があるとすれば姿がはっきりとしない事。

 メリッサへ攻撃をして吹き飛ばしたせいかシルエットだけは浮かび上がってくれたが、未だに全容を見ることができない。


「上からだと見えないな」


 安全云々なんて言っている場合ではない。

 崖から飛び降りようとすると、イリスに止められる。


「その前に下の様子を確認するべき」

「……そうだな」


 覗き込んだ状態からだとノエルの動きは薄らと分かる程度。


『こっち? 今は、それどころじゃないの! ……ぅっ!』


 呻いているノエル。

 そんな状態になってしまっているのも風船鷹(バルーンホーク)が上へ下へと激しく動いている為だ。


『……何かから攻撃されているのは間違いない、と思う。さっきもわたしの後ろを何かが掠めていったもの』


 物理的な手段によって攻撃されているのは間違いないようだ。

 それでも、敵の正体を知るには至っていない。今はバルーンホークが危機を察知して回避してくれているから無事でいられるだけだ。

 状況は逼迫しているのかもしれない。


『メリッサはどうなったの?』

「……そっちの方が深刻かもしれない」

『え!?』


 今は自分たちで動いた方がいい。

 イリスを伴って崖から飛び降りる。魔法で生み出した気流が体を包み込んで浮かび上がらせる。

 隣を見ればイリスも足元にある空気を凍らせて足場を形成している。

 神剣を抜いて雲を押し退ける勢いで振り下ろす。


「やっぱり何かいる」


 斬った場所から緑色の鮮血が溢れ出る。

 敵の全容が分からないため神剣の効力を発揮することはできないが、剣で斬ることはできる。


「蛇……いや、龍(ドラゴン)か」


 斬った時の感触から体に鱗がある。


「退いて!」


 横へ移動すると跳んできたイリスが敵の体を蹴る。

 足から放たれる冷気が体を覆って凍らせていく。


「やっぱり龍だ」


 凍らせたのは胴回りが3メートル以上ある丸まった長い体。

 龍が空中で旋回する。凍らせた部分しか見ることは叶わないが、俺とイリスのいる場所へ顔を向けているのは予想できる。


「さて、まずはその姿を確認させてもらうことにしよう」


 両手を敵のいる方向へイリスが向ける。途端、身を凍らせるほどの冷気が周囲へ放たれる。ここは上空、しかも水分の多い雲の中。冷気が強い効力を発揮する。

 近くにいる俺の体に霜が張り付く。しかし、この程度で済んでいるのは強い耐性があるから。冷気に対して耐性のない者が浴びれば、体があっという間に凍り付くことになる。


「さすがにそこまで上手くはいかなかったか」


 さすがは龍と言うべきか。

 耐性を所持していたおかげで体のどこかに霜が張り付く程度に被害を抑えることができた。


「やっぱり龍か」


 見た目は鱗を持つ巨大な蛇。

 だが、頭は竜と同じところを見ると龍と表現すべき存在だ。


「たしかに巨大な硬い体で空中を動き回って、おまけに姿まで隠せるなんて強力すぎる。けど、所詮は畜生。こんな卑怯な手段でしか攻撃できないのならドラゴンと呼ばれるのは烏滸がましい」

「おい……」


 イリスがこれみよがしに挑発する。

 知能の高いドラゴンであるため馬鹿にされていることを理解し、見えてはいないが敵意の籠った目を向けてくる。

 接近した龍を氷の上から斬りつけると背の上を駆ける。

 長い体は武器になるが、同時に死角となってしまう弱点でもある。


 駆けながらも斬られたことで痛みから暴れている。その怒りは、自然と見える場所にいた俺へ向けられる。


「何してんだよ」


 龍の顎下へと移動する。

 ブレスを吐くつもりだったのか膨らみ始めていた口を殴りつけると衝撃波のブレスが上へ飛んで行く。


 そのまま腹の下を尾の方へ移動しながら殴っていく。

 実体の不明な魔物。だが、ダメージを蓄積させていったことで迷彩の皮が剥がれた。


「ようやく姿を現したな」


 姿を現したことで【鑑定】を妨害していたスキルも解除された。


「クラウドドラゴン。雲と同化することができるスキルを持ったドラゴンか」


 【雲同体】。周囲にある雲の密度によってステータスを高めることができ、雲の中を移動して浴びることで体の傷を癒すことができる。


「けど、そのスキルを使う為には動き回る必要があるよな」


 ダメージを受け続けているクラウドドラゴンにそんな余裕はない。

 生まれた時からステータスだけが高い魔物にありがちな弱点。今までに戦った経験が少ないため自分と対等以上に戦える敵と遭遇した時にどうやって動けばいいのか分からなくなる。さらにダメージなど受けたことがないため痛みに対する耐性がない。

 今は歯を食いしばって耐えているしかない。


「さすがは高レベルのドラゴン。俺とイリスで上下から攻撃しているのに落ちる様子が見えない」


 雲の中にいることでクラウドドラゴンのステータスが上昇している。


「それと、もう一つのスキルのせいだな」


 いくつかあるスキルの中で異彩を放つスキル――【門の守護者】。

 他は固有のスキルを除けばドラゴンが攻撃に使うスキルなのだが、ドラゴンが持つスキルではない。これは、転移魔法陣を守る者に迷宮主から与えられたスキルだ。


「転移魔法陣から一定範囲内で戦うことでステータスを上昇してくれるスキル。非常に便利なスキルだけど対処法は簡単だ」


 転移魔法陣から離れてしまえばいい。もし、追って来るような一定範囲内から出てステータスを落とせばいい。近くにいればプラスに働くスキルだが、離れれば離れるほどステータスを落としてしまうスキル。

 しかし、相手は賢いドラゴン。自分が離れれば弱体化することを分かっている。

 おそらく、挑発したとしても【門の守護者】の有効範囲内でしか戦わない。


「できれば捕らえたいところだな」


 【門の守護者】について確認したい。

 しかし、【鑑定】が使えるほどにダメージを与えていると痛みを堪えているせいで表層にある情報しか読み取ることができない。もっと深くにある情報を得るには、【雲同体】をどうにかする必要がある。


『ちょっといい?』


 離れた場所からノエルの念話。


「そういえばどこへ行った?」

『今は雲の真上にいる』

「できれば、こっちに手を貸してほしいところなんだけど」

『もっと効果的に敵のスキルを封じる必要があるでしょ。わたしのスキルを忘れていない?』


 ノエルが錫杖をクラウドドラゴンのいる方向にある雲へ向ける。

 すると、雲が押し退けられるように周囲から消え、1分と経たずに周囲が明るく晴れる。


「【天候操作】――雷や雪ばかり注目されていたけど、そもそも雲を操ることだってできるスキルなんだから」


 曇りも立派な天気だ。

 ただ、普段は雲を操作したところで意味などないため使用されていない。


「これで、もう消えることもできないだろ」


 露わになったクラウドドラゴンの眼前に立つ。

 ボコボコにされて怯えた目を向けてくる。だが、完全に諦めた訳ではないようで【門の守護者】に隠された力を使う。


「……何をした?」


 眼下から感じる複数の気配。

 十数体のドラゴンが近付いてきていた。


「なるほど。守護者の意思一つで周囲の魔物を呼び寄せることができるのか」


 呼び寄せる対象は――門である転移魔法陣。

 門に複数の魔物を一斉に呼び寄せるスキル。一度に押し寄せることで門は限界を越えることになり、崩壊することになる。その際、門の傍にいる者は邪魔者として認識され弾くように排除される。そうして俺を排除するのが目的。

 ただし、最大のデメリットは守護者の死亡だ。【門の守護者】のスキルを与えられた者は、門の崩壊と共に自らも崩壊することになっている。


 それだけクラウドドラゴンにとって今受けている恐怖は耐えられないものだった。


「これがゴブリンエンペラーの憧れていたドラゴンか」


 そんな姿を見せられると憐れに思えてくる。


「まずは、下のドラゴンをどうにかする必要があるな」

「問題ありません」


 回転する複数の魔法陣を周囲に携えたメリッサがドラゴンとの間に割り込む。


「アレは私が全て引き受けます」


 メリッサの八つ当たりが始まった。


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