表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
1080/1458

第51話 ストロベリーラビット

 イルカイト迷宮地下20階。

 ボスがいる場所の手前も魔物が寄り付かないセーフゾーンになっている。それは暴走した迷宮でも適応されるらしく、周囲には多くの魔物がいるのだが遠巻きに見ているだけで襲ってくる気配がない。

 ただし、例外が全くない訳ではない。


「きゅうぅ~」


 中心で火を熾し、6人で囲んで暖まって休んでいる。


 ノエルの膝の上では1体の兎がまったりしていた。セーフゾーン内でも魔物が寛ぐことはできる。

 これは、魔物と協力関係にあるテイマーに対しての措置で、冒険者と信頼を築くことができている魔物はセーフゾーンへ入ることができる。もっとも、管理下にある魔物が他の冒険者を襲った場合にはペナルティが発生する。


 もふもふの毛をした兎。

 とにかく可愛らしい。


「おいで」


 手を広げて招く。


 ぷいっ。

 しかし、ノエル以外には懐いていないせいでそっぽを向かれてしまった。


「ははっ、嫌われているわね」


 拒絶される光景を見ていたアイラが笑った。

 笑っているアイラだが、彼女も同様に兎から嫌われている。


「撥ねられた時、助けに行かなかっただけだろ」


 【鑑定】を使用すれば、どうして嫌われているのかは分かる。

 元々が人間に懐くはずのない魔物。瀕死の状態だったところをノエルに助けられたことですっかり懐いてしまった。俺たちのように懐かれていないのが普通の状態なんだ。


「……なにを不貞腐れているんですか」

「別に」


 呆れた目を向けてくるシルビア。

 調理された料理を主である俺へ真っ先に差し出してくれる。


「シンプルに丸焼きにしてみました」


 先ほど捕らえた虹鶏の1体が調理されていた。1体ぐらいは食しても問題ないだろう。

 真っ先に俺へ差し出してくれる。だからと言って一人だけ先に食べるような真似はせず、全員の手へ渡るのを待ってから食べる。シルビアとしては温かいうちに食べてほしいそうだが、こればかりは譲れない。


「お、美味いな」


 調味料で味付けはされている。それでも、素材が出す旨味が口の中一杯に広がっていた。ピリッとした調味料とは違う辛味も隠し味として役に立っている。


 休憩だけなら屋敷へ戻れば十分。けれども、こうして火を囲んで食事をするのも迷宮攻略の醍醐味だ。


「食べる?」

「きゅ」


 いつの間にかノエルの膝の上からシルビアの傍まで移動していた兎。


「そいつ肉が食えるのか?」


 虹鶏を取り上げられると思ったのかキッと睨み付けてくる兎。


 食べられるかどうか【鑑定】を使用しても判断できなかったが、当人は食べる気満々らしい。

 それと言うのも【鑑定】をして分かった兎の種族名がストロベリーラビット。苺が大好物な兎の魔物で、植物を操るスキルを扱うことができる。ただし、スキルの威力は低く、自分の食事となる苺の成長を促進する程度の使い方しかしない。

 だが、あくまでも好物というだけであって食べられなかった訳ではなく、満面の笑みを浮かべて貪っている。


「美味しい?」


 シルビアが尋ねると鳴いて手を挙げていた。


「現金な奴だ」


 美味しい食事を与えてくれたことでノエルだけでなくシルビアにも懐いていた。


「この子、ペットとして屋敷で飼いましょう」


 たしかに迷宮で冒険者の相手をさせるには弱すぎる。

 有効な使い方を模索するなら子供たちの遊び相手ぐらいだろう。


「もう、そんな考え方をしていると懐いてくれませんよ」


 女性陣に愛敬を振り撒くストロベリーラビット。しかし、俺にだけは敵意を向けていた。

 まあ、こいつ程度の強さなら脅威にもならない。


「じゃあ、休憩もしたところで行きますか」


 眷属の全員が頷く。

 ついでにストロベリーラビットも頷いているけど、こいつの場合は女性陣の真似をしただけで意味をよく分かっていない。


 ピョンピョン跳ねるとノエルの腕の中に収まる。


 向かう先は草原の最終地点。ボスがいる場所であり、転移魔法陣がある。

 ただし、今はボスがおらず転移魔法陣があるだけだ。


「ボスはどこへ行ったのかな?」

「情報だとミノタウロスの亜種がいたらしいけど……」

「そんな奴どこにもいないな」

「どこに行ったのかな?」

「おそらく上へ行ったんだろ」


 変わった姿をしたミノタウロスならここへ来るまでの間に姿を見ている。それがボスだとは限らないが、本来のボスがここからいなくなったのは間違いない。


「自分から出て行ったのか、それとも下から押し寄せる自分よりも強い魔物に負けて出て行く羽目になったのか分からない」


 20階にいるボスなんて最下層にいる通常の魔物よりも弱い。

 もし、多数の魔物が上へ押し寄せたなら遭遇した場合には瞬殺されている。


「いないならちょうどいい。さっさと行くことにしよう」


 セーフゾーンで待っている間も経過を観察していたが、何かしら異変が起こる様子もなかった。

 本当に転移魔法陣があるだけの場所らしい。


「あ、待って……」


 転移魔法陣へ向かおうとするとストロベリーラビットが興味を覚えたのかノエルの腕から飛び降りて転移魔法陣へ近付いていた。


 恐る恐るといった様子で触れる。20階へ到達するまでの間にも何度か転移魔法陣を利用していたのだが、こうして足を止めて前にするのは初めてであるため珍しくなったのだろう。


「きゅ!」


 両手を挙げてブンブン振っている。

 【鑑定】を使用しなくても先へ進みたくてウズウズしているのが分かる。


「きゅう?」


 ストロベリーラビットが振り向く。首まで傾げており、何かを感じ取っているようだ。


「何かあるのか?」

「いいえ、わたしは何も感じませんよ」


 シルビアの探知網には何も引っ掛かっていない。

 メリッサの方を見てみるが、彼女も何も感じていないようだ。


 全員が何も感じることができない。しかし、ストロベリーラビットだけは何かを感じ取ることができていた。


『全員、横へ跳んで!』


 いや、もう一人だけ感知することができた存在がいた。

 迷宮核だ。


 何かを感知して焦った様子の迷宮核の叫び。意図を考えるよりも前に横へ跳ぶ。


「なん、だ……?」


 何かが通り過ぎていくのが分かった。

 迷宮核の進言があって跳んだおかげで回避に成功することに成功した。しかし、迷宮核の言葉を聞くことができたのは俺たちだけ。先にいたストロベリーラビットは回避する暇などなく“何か”の直撃を受けて倒れてしまった。


『今のは魔力の塊だよ。どうして、そんなものが流れ来たのかは分からないけど、その場所が危ないのは分かった』


 迷宮の仕組みだ。上層で回収された魔力は、迷宮内を最短距離で最下層へと流れていく。俺たちが今いる場所は転移魔法陣の前であり、真っ直ぐにここまで移動してきた。ちょうど魔力の流れる場所だ。

 どうやって回収したのかは分からない。しかし、塊となるほどの魔力が回収されたことで流れて来たのは間違いない。


 魔力の正体について考えるのは後回しにするとして、気にするべきは魔力の直撃を受けてしまった兎の方だ。


「大丈夫、ベリー?」


 勝手に名前をつけたノエルが心配して近付こうとする。

 その肩を掴んで制止する。


「見てみろ」


 既に変化は始まっていた。

 倒れたストロベリーラビットの体が内側から隆起して巨大化し、真っ白だった綺麗な毛に黒い斑点が生まれる。


 気付けば、目の前にいたのは白黒で体長10メートルの人間よりも大きな兎だった。


「……」


 その変化からノエルが息を呑む。

 少し前までの愛くるしい姿なんてどこにもない。


「魔力の直撃を受けて進化しやがったな」

☆書籍情報☆

書籍版絶賛発売中!

なろうとは違った結末が読めるのは書籍版だけです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ