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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第30話 黒姫-後-

30話ぐらいで迷宮には辿り着けるだろうと思っていたんだけどな……

 若返り。

 かつて俺たちを脅迫して素材を揃え、作った薬で若返ろうと考えていたレンゲン一族の族長が思い出される。今は永遠に死ぬことのないアンデッドとなって迷宮で飼っているが、彼のおかげで若返り薬が使えるようになった。とはいえ、自分たちで使うつもりはない。全員で普通に老いて、普通に寿命で死ぬ。その摂理に反するつもりはない。


「ああ、若返り薬を使ったわけじゃないよ」

「じゃあ……」

「これもゼオンの持っている【自在】の効果」


 対象の年齢にすら効果を及ばせて肉体を自由自在に操ることができる。


「相応の代償は必要になったけど、帝国憎しで用意しておいた物があったからアタシの財産を差し出すことで、アタシは復讐の機会と力を与えてもらえた。これが、アタシのガルディス帝国軍を滅ぼしたい理由。アタシの中でも戦争は終わった……今はアタシから全てを奪っていった連中を蹂躙したくて仕方ないんだよ」


 笑いながら剣を手に突っ込んでくるリュゼ。

 ホランド将軍を守る為に前に出て魔剣を受け止める。


「アナタたちには本当に興味はないんだけどな」

「そういう訳にはいかない。可能なら迷宮攻略をスムーズに進める為に、ここで倒しておきたい」

「アタシに邪魔するつもりはないよ。アタシたちは盟約で協力していてね。それぞれが自分の目的を果たしている間は、どんな事があったとしても邪魔しちゃいけないの」


 リュゼが小柄な体を活かして軽やかに跳び上がると、神剣へ足を掛けて跳び越える。

 着地したのはホランド将軍の背後。突き出すことで魔剣の切っ先を突き入れることができる距離だ。

 案の定、ホランド将軍の背へ向けて剣を突き出す。


「む……」


 イリスの手にした2本の剣がリュゼの魔剣を逸らす。


「……っ!」


 自らへ背後から凶刃が向けられたことを後から知ってホランド将軍が前へ倒れて尻もちをついていた。

 将軍も軍人。しかも平民からの叩き上げなため力には自信があったはずだ。

 それが反応することすらできなかった。


「どいてくれない?」

「断る」


 イリスとリュゼの剣戟が衝突する。

 今のうちにホランド将軍を回収して離れる。


「逃がさないよ」


 上から振り下ろされたイリスの剣を下から受け止める。一瞬だけ動きが止まった瞬間を狙って魔剣を手放す。それによって受け止められたはずの剣が、そのまま下へと向かう。

 体勢が崩れたイリスの体をリュゼが空いている手で押し出す。


「じゃあね」


 軽やかな動きで駆け出すリュゼ。

 その手に2本の魔剣が現れる。彼女にとって武器を手放すことで、不利になるようなことはない。

 アイラとノエルが左右から挟み込む。しかし、2本の魔剣を巧みに使って受け流すと二人の間を抜ける。


「なんだ、あれ。あいつのスキルか?」


 ホランド将軍を抱えたまま愚痴る。

 後ろから迫るリュゼの動きが二人の攻撃に対処しても全く動きが遅くなった感じがしない。ステータスは俺の『敏捷』の方が高いのだろうが、ホランド将軍という荷物を抱えているだけ俺の方が遅い。


「もらった」


 リュゼが魔剣を振り上げる。

 いつの間にか振り下ろせば、俺は無理でも抱えられているため足を投げ出しているホランド将軍になら魔剣が届く距離まで迫っていた。

 このままだと斬られる!


「今だ、シルビア!」

「……!?」


 リュゼが駆けながらシルビアの姿を捜す。アイラやノエルのように横から攻撃されるのかと判断して左右へ視線を移動させている。しかし、シルビアの姿が見つかることはない。

 ブラフか……近くに姿がないことから虚実だと判断すると意識を逸らしたことで空いてしまった距離を埋めるべく剣を伸ばして突き刺そうとする。


「【跳躍(ジャンプ)】」


 剣が触れる直前に10メートル先へ跳躍する。

 当然、ホランド将軍も一緒だ。

 まるで見ていたようなタイミング。


「そういうこと」


 リュゼの右腕に鋭い斬撃が手首から肩へとかけて走り、背中に短剣が突き刺されていた。


「な、何をしているのかとずっと不思議だったのですが、意味不明に後ろ向きで走っていたのはこういうことだったのですね」


 腕の中にいたホランド将軍には目の前の光景が異様だっただろう。

 向かい合った体勢で走り続けるシルビア。俺よりも小柄なシルビアの体はピッタリと張り付いたように走っていたことで後ろから迫るリュゼからは見えなくなっていた。

 おまけにリュゼの意識は抱えているホランド将軍へと向けられていた。いくら、歴戦の戦士だったとしても目の前で釣られた餌が揺らされていたことで他への意識が散漫になってしまっていた。


 足を止めて反転する。


「わっ!」


 ついでに抱えていたホランド将軍を放り投げる。

 もう、彼に意識を集める必要はない。


「【迷宮魔法:鎖】」


 魔法陣から飛び出したいくつもの鎖がリュゼの体に巻き付く。迷宮魔法によって造られた迷宮へ侵入した者を拘束しておく為の鎖。いくら迷宮眷属であったとしても簡単に抜け出すことはできない。


「え、ちょ……待って!」


 待たない。

 イリスの発動させた氷の嵐がリュゼを中心に渦巻いている。


 氷の嵐が止むと、荒れ狂う氷の破片によって体をズタズタにされたリュゼの姿があった。

 全身の至る所から血を流している。見た目には重傷のように見える。


「いったいな! もう……!」

「やっぱり……」


 見た目ほどのダメージを受けていないリュゼ。


「そりゃあね。魔法に囲まれた瞬間、この魔剣を取り出したからね」

「げっ……」


 彼女の手にあるのは金色の魔剣。

 レベルを引き上げる能力がある魔剣だ。


「レベルが上がったことでステータスも上がる。魔法に対する強い耐性と十分な体力があれば、大規模な攻撃にも耐えられる」


 咄嗟に鎖の力を強めて、さらに逃げられないようにする。


「なんなんだ、そのスキルは?」


 さっきからポンポンと様々な魔剣を出現させている。


「眷属になってアタシが手に入れたスキル――【尽きぬ劔(インフィニット・ソード)】。アタシの手には、常に望めば剣が現れる。ま、アタシが自分の剣だって認識している剣に限定されているんだけどね。おかげで、持ち歩くことなく無数の剣を出せるんだから便利だよ」


 金色の魔剣はそのままに、右手に新たな魔剣が現れる。

 上半身を拘束されたまま魔剣を振るう。


「え……?」


 肩から血を噴き出しながらホランド将軍が倒れる。


「さすがに捕まえられたままだと上手く当てられないかな」


 斬撃を飛ばすことのできる魔剣。

 鎖を巻き付けた程度では拘束したことにならない。


「クソッ、色々な魔剣を使いすぎだろ」

「それが、『黒姫』リュゼです。昔は、戦場を縦横無尽に駆け回って敵の武器を奪い取ると、使っている武器が壊れるまで戦い続けていた、そうです」


 倒れながらも顔を上げて俺たちに情報を渡すホランド将軍。

 リュゼがいくつもの魔剣を使うことができるのは、若い頃に戦場で多種多様な武器を相手から奪って使い続けていた経験があるから。

 スキル以上に厄介な技能。


「アハハッ、ほら次は当てるよ」


 魔剣が振るわれる。

 倒れたホランド将軍を両断するような斬撃。神剣で斬ると衝撃が周囲に拡散する。


「……! 無理をすればどうにかなりそうだけど、そこまでする必要もないんだよね」


 金色の魔剣から強い輝きが発せられる。

 リュゼのレベルがさらに引き上げられたことで鎖が拘束し続けることができなくなった。


「せっかくの将軍だから始末しちゃおうと思ったけど、アナタたちと争ってまで始末したいとは思わないから今は見逃してあげる。どっちかと言えば逃げた連中を狩る方が楽しそうかな」


 獲物を思い出して舌を舐めると明後日の方向へ駆け出した。


「逃げた……いや、見逃してくれたのか」


 全員で死力を尽くせば倒せていた。

 ただし、その時には味方の誰かが犠牲になっていたはずだ。


「いいんですか?」


 俺の体を心配したシルビアが近寄って尋ねる。


「よくはない。できることなら今のうちに倒しておきたかったけど、俺たちがしないといけないのは迷宮の停止だ。今は先を急ごうとしよう」


 チラッと門前に佇んだままのオネットを見る。

 彼女も俺たちが先へ進むことには興味がないのか肩を竦めるだけだった。


「彼女たちを倒すなら相応の準備が必要になる。二人の戦い方が分かっただけでも僥倖と思おう」


 シルビアも納得して頷いてくれる。

 気持ちとしては倒してしまいたいところだが、無策のまま勝てるような相手ではない。今は、策を考えることができるぐらいには情報が集まったことを喜ぶべきだ。


「まずは、ケルディックへ行こう。次の目的地はあそこだったんだから逃げ出した連中もあそこを目指しているはずだ」


 そういうことになっていた。問題は、何人が覚えたまま逃げてくれたか、だ。


☆書籍報告☆

発売まで、あと1日。

状況的に厳しいかもしれないですけど、書店へ行って!

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