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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第25話 レジャーナ

設定思い奴らしかいないな。

 遠くに大きな岩山。

 そして、岩山を背にした都市が見える。


「あそこが二つ目の目的地であるレジャーナだ」


 元々はレジャーナ王国という小さな国の王都。

 王都と言っても、国には他に都市があった訳ではなく、周囲に小さな街や村をいくつか抱えていただけの国だった。

 レジャーナ王国の主な産業は鉄鋼業。王都の近くにあるレジャーナ山からは良質な鉱石が大量に採れ、小国でありながら豊かな国だった。


 ドン、ドン、ドン!

 遠くから戦闘音が聞こえる。レジャーナの領地へ入った頃から襲うようになってきた地を走る鳥型の魔物。飛ぶことはないようだが、凄まじい速度で走り敵へ体当たりをして攻撃する。


 ガルディス帝国軍は犠牲を出しながら魔物に対処していた。

 どうにか魔法使いをレジャーナへと送り込んで防衛するのが目的だ。


「都市内に魔物は見当たらないんですね?」

「はい」


 ホルクス将軍が尋ねてきてきたので答える。

 レジャーナ内には魔物の姿がない。それは、偵察に出しているサファイアイーグルで確認しているため間違いない。


「どうやら急いだ方がいいみたいだな」


 都市内にはいない。

 しかし、人間の接近を察知した灰色をした牛型の魔物が山の方から押し寄せてきている。

 戦力を少しでも温存する為に都市へ入り、領主の館を目指す。


「うっ……」

「どうした!?」

「どうやら魔物がいない訳ではないようです」


 内部の様子を確認するため入り込んだ兵士が見つけてしまった。


「これは、魔物……それもサイクロプスの死骸か?」


 門の傍で倒れていたのは単眼の巨人。

 体がバラバラに切り裂かれているものの頭部の大きさを考えると大きすぎる瞳。サイクロプスで間違いない。


「魔物はいないのではなかったか?」

「生きている魔物はいません。だから、危険はないんです」


 都市内には多くの魔物がいた痕跡がある。

 しかし、どれも既に倒されてしまった後で生きている魔物は残されていなかった。


「ですが、人が全くいない訳ではないようです」


 領主の館がある都市の中央を見る。

 すると、カツカツカツと舗装された地面をヒールが鳴らす音が聞こえてくる。

 現れたのはドレスを着た貴族に見える女性。ボリュームのある金髪が巻かれており、頭が重たそうに見える。それでも女性は姿勢正しく真っ直ぐ歩いている。


「オネット……いや、オネット・レジャーナとでも呼ぶべきかな?」

「あら? (わたくし)の事を調べたのですね」

「ああ、あそこには貴族も逃げて来ていたからな」


 先祖が貴族だったゼオン。

 貴族みたいな格好をしていたことからオネットも貴族に関係する人物だったのではないかと思い、貴族からも情報を集めた。

 そして、レジャーナの領主がオネットについて知っていた。

 正しくはオネットだと思われる人物について、の情報が得られた。


「レジャーナ王国は武器の素材となる鉱石、それらを加工する鍛冶師を多く抱えていたことで戦禍に晒されることはなかったらしいな」


 もし、どこかの国がレジャーナ王国を手にすることがあれば他の国々から危険視されることになる。

 だから、ガルディス帝国も周囲の制圧から進めた。


「周囲をガルディス帝国に制圧されたせいでレジャーナ王国は降伏するしかなかった」

「ええ、私もそのように聞いております」


 レジャーナ王国には姫が一人いた。いずれは国内の有力者から婿を迎えて女王となるはずの人物。

 ところが、彼女が若い頃に征服されてしまい、まるで褒美のようにレジャーナ王国だった場所の領主となった男に宛がわれることになった。しかし、男は姫が子供を身籠り、老いてくると興味を失くして捨ててしまった。


「ひいお祖母様は、それは苦労されたと聞いております。征服される前は丁重に扱われて、王になるべく教育を受けてきた。そんな方が汚されただけでなく、平民未満の存在へ堕とされたのです」


 領主は、老いた姫には興味を示さなくなった。

 だが、若く美しかった頃の姫には未練を抱いていたため領主の館には最も美しかった征服される前――レジャーナ王国だった頃の肖像画がいつまでも飾られていた。モデルはともかく美術品は素晴らしかったため、当時から100年近い時間が経過した今でも飾られていた。

 だから、今の領主も姫の姿を知っていた。


「祖母に言わせると私はひいお祖母様の生き写しみたいです。ひいお祖母様が若かった頃の姿なんて知らないはずですので話半分に聞いていました。ですが、領主の館に飾られていた肖像画を見て気が変わりました……本当にそっくりなのですね」


 どこか遠くを見つめるオネット。

 正当なレジャーナ王族の血を継ぐ姫。

 生き写しのようだと言われているオネットもレジャーナ王家の血が濃いのだろうが、彼女の血には忌むべき血も含まれている。


「そんなに自分から……自分が継ぐはずだったレジャーナ王国を奪った奴らが憎いか?」

「……! 憎いか……? よく、そんなセリフが言えますね! あんなクズみたいな連中は生きている権利すらない!」


 靴で地面を叩くオネット。ヒールを中心にして道路が罅割れる。

 怒りに満ちた表情。その憎悪はガルディス帝国の皇帝たちへ向けられていた。


「あんな人を不幸にしただけの連中が『英雄』なんて持て囃されているのが我慢ならない!」

「ま、待ってくれ……! ユスティオス皇帝は『英雄』と呼ばれる人物だ。彼が皇帝になったことで争っていた国々は落ち着いて、多くの人々が救われた!」


 ホランド将軍が反論する。

 皇族に仕えていた将軍である彼にオネットの言葉は我慢ならなかった。


 だが、本当に我慢ならなかったのはオネットの方だった。


「その過程で、どれだけの人が不幸になりましたか!? たしかに彼は万人を救った『英雄』だったのかもしれません。ですが、その反面で千人の犠牲を出した『悪党』なのです。犠牲になった者から見れば悪党以外の何者でもありません! 彼が帝国など作らなければ、少なくともレジャーナ王国は平和だった訳ですからね!」


 怒りを吐露するオネット。

 だが、溜まっていた鬱憤を吐き出したことで少しは落ち着いたのか、ふぅと息を吐いた。


「失礼しました。今の言動は淑女として相応しくありませんね」


 表情を一瞬で穏やかな笑みに変えると俺たちを見る。


「貴方たちの事はシャルルさんから昨日聞いています」

「生きているのか」

「ふふっ、傷を癒すのに貴重な回復薬を使っていましたから、落ち着くまで復讐に行くんだ、と相当怒っていましたよ。あのように感情を露わにしている彼女は初めて見ました」


 逃走する際、シルビアによって腹部を深く斬られたシャルル。

 大量の血を流していたらしいから、致命傷になっていたかも、なんていう淡い期待を抱いていたけど、そこまで上手くはいかないらしい。


「で、報復でもするつもりか?」

「まさか、私に戦うつもりはありません」


 俺たちの来訪を待っていたように現れたオネット。

 てっきり戦闘が目的だとばかり思っていた。


「私たちにはそれぞれ目的があります。もう、お分かりですね?」


 シャルルは、モンストンにあった研究成果を持ち去った。忍び込むくらいなら眷属の力なら難なくできるだろうけど、ここまでの騒ぎを起こしてから盗み出す理由が何かある。

 そして、目の前にいるオネットにも目的がある。


「レジャーナを取り戻したかった」

「少し違いますね。レジャーナをガルディス帝国から解放したかっただけです。あのような連中に征服されたままなど王族として許せません。今さら何ができる訳でもありませんが、あいつらの手にあるのだけは許せなかった」

「こ、ここには多くの人が何も知らずに暮らしていたんだ。お前の目的に巻き込んでいいと思っているのか!?」


 モンストンからそれほど離れていないこともあって、ホランド将軍はレジャーナから逃げてきた人々とも交流を持っていた。

 彼の言葉を聞いたオネットがクスクス笑っている。


「何を言っているのです? 私はレジャーナ王国の正当な後継者。なら、国民をどうしようが私の勝手です」

「なっ……そんな事が許されるはずが……」

「許されますよ。それがガルディス帝国のやり方なのですから」


 征服した国の王族や貴族をスキルの力で意のままに操る。

 上位存在を操られたことで平民は無理矢理にでも従うしかなかった。


「私たちはガルディス帝国へ戦争を仕掛けて勝利した。この国をどうしようが私たちの自由です」

「このっ……」


 ホランド将軍の隣にいた護衛の騎士が剣を抜いて前へ出る。

 国を守る立場にあった者としてオネットの言動を許すことができなかった。


「ああ、そうでした」


 正面に剣を持った騎士が迫っているというのに臆した様子を見せずに何かを思い出したような仕草をする。実際、騎士が本気で斬り掛かったところでオネットは歯牙にかけることもない。


「私の要求を言い忘れていました。この都市は、私が制圧したため立ち入りを禁止します」


 斬り掛かった騎士の体がバラバラに切り裂かれて崩れ落ちた。


☆書籍報告☆

発売まで、あと6日。

ついに、いくつかのサイトでは表紙も公開されました。

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