第10話 ガルディス帝国の神出鬼没な冒険者-中-
神出鬼没な冒険者。
数年前から現れるようになったパーティ。冒険者でなくても、素材を持ち込むことで多少は割り引かれてしまうが、買い取ってもらうことができる。
1年に1回くらいのペースで強い魔物の買い取りを依頼する一般人が現れるようになった。頻度が少ないように思えるが、あくまでもその都市での話。国のあちこちにある都市へ現れるため目撃情報が多い。
しかし、目撃情報が多いのに持ち込んだ者を詳しく覚えている者はいない。
「おそらく認識を阻害する魔法道具が使われているのでしょう」
覚えているのは、そういった事をしているのが6人いること。
複数の者に認識阻害が働いているということは、誰かのスキルというよりは使い方さえ分かれば使用することのできる魔法や魔法道具の可能性が高い。ただし、汎用性のある魔法でそこまでの魔法は確認されていない。一時的にならともかく長時間認識阻害が働いている。
一般には知れ渡っていない特殊な魔法道具。そんな物が簡単にいくつも手に入るはずがない……と言いたいところだけど、敵の正体が迷宮主だと知っている身では否定することができない。
現に俺も消耗を無視して手に入れようと思えば入手はできなくもない。
「それで、どうしてその冒険者たちがオネットだと思ったんだ?」
「いえ、冒険者ギルドを利用しているだけで冒険者という訳ではないのですが……細かい所は気にしても仕方ありませんね。彼らと対応したことのあるギルドの職員である人物の特徴だけは覚えている人がいるんです」
「そいつらと関わったことのある冒険者も同じだな。そいつだけは覚えていることができていたんだ」
金髪を螺旋状に編み込み、貴族が着るようなドレスでギルドを訪れる。
あまりに場違いな姿に誰もが特徴だけは記憶していた。残念ながら顔は認識阻害の影響なのか、一般人がイメージする貴族みたいな特徴に上塗りされてしまったのかは分からないがうろ覚えになっていた。
けれども、うろ覚えの特徴がオネットと一致する。
「知っている事はそれだけか?」
「そうだな。そいつらは神出鬼没で現れるとギルドにいる冒険者と交流を持ったりするけど、誰も相手の事を正確に覚えていられず、自分が何を話したのかもはっきりと覚えていられない……そういう俺もこいつと会話をした記憶があるのに肝心な内容を思い出すことができないな」
「……私もです」
相当、強力な認識阻害が使用されているのか接触したことがあるはずの二人が顔を見せられても詳細を思い出すことができずにいた。
「……こんな奴がいたのか」
ボソッとボルドーが呟いた。
神出鬼没な冒険者が現れるようになったのは彼が前線を引退した後で、ギルドマスターをしていた頃は威張り散らすばかりで受付嬢がいるような現場で囁かれるだけの噂については興味を示していなかった。
残念ながらボルドーからは有益な情報を引き出すことはできそうにない。
「何でもない。彼らの手掛かりになるような情報を持っていないか?」
ようやく得られた手掛かり。
これが無意味に終わった場合には、もう敵の迷宮へ乗り込んで戦う以外の選択肢がなくなる。
しかし、敵の正確な目的も分からない状況で乗り込むなんて無謀な真似はしたくない。
「そういえば……」
「何か思い出したのか」
「あ、はい」
頭を悩ませながら思い出したレミネ。
「あんな容姿をしているので『貴族なんですか?』って尋ねたことがあるんです。そうしたら、『自分は貴族みたいなものだった』って言っていたのを思い出しました。もしかしたら、本当に没落したどこかの貴族だったのかもしれません」
冒険者ギルドを利用する『貴族みたい』な人。
最初に誰もが想像するのは『没落貴族』だろう。本人も『だった』と過去の事として語っているので『元貴族』を連想する。
しかし、別の意味が含まれている可能性がある。
「俺も一つだけ思い出した事がある」
「何だ?」
「リーダーの男と会った時に一度だけ模擬戦を申し込んだ事がある」
冒険者ギルドの訓練場を利用した戦い。
お互いにギルドが提供している模造武器を手にしての戦闘。どちらかの体へ決定的な一撃を与えるまで続けられる戦闘だったのだが、明らかに手加減をしていると思える戦い方をしていたらしい。
そして、その時に相手が手にした武器の使い方に手掛かりがあった。
「奴が手にしたのは剣だった。これでもSランク冒険者だから騎士や兵士の剣術指南なんていう依頼も請け負ったことがある。だから、そいつらの太刀筋については知っているんだ」
模擬戦で受けた相手の太刀筋が騎士たちと全く同じだった。
「そうなると騎士だった人間の可能性があるな」
「だった……?」
「そうだ。お前も、奴と相対したなら分かるだろ」
リオの言葉に違和感を覚えて呟いた俺の言葉に答えてくれた。
「奴は本気でガルディス帝国を滅ぼそうと考えている」
たしかに彼の言葉に嘘や誇張は含まれていないように思えた。
本気でガルディス帝国を滅ぼす為の手を打ったことが分かる。
「騎士なら、そんな事は考えない」
心の底では様々な思惑を考えている者はいる。
それでも、本気で国を亡ぼそうと考えて実際に行動を起こした者を同僚が見逃すはずがない。
「これでも皇帝だ。成り立てだったとしても人を見る目ぐらいはある」
普段から騎士に守られているリオが騎士ではない、と断言する。
「ガルディス帝国剣術を扱う主と元貴族に近しい立場だった眷属、か……」
今のところ分かった情報はそれぐらい。
言葉にしながら考えをまとめたリオは3人へ退出するよう促す。
「情報は渡したんだ。ちゃんとポストは用意してくれるんだろうな」
天幕を出て行く直前にボルドーが振り返りながら確認してきた。
老齢に差し掛かろうとしている彼にとって権力ある立場は魅力に映ってしまう。
「もちろんだ。オネイロス支部のギルドマスターを要請する」
「その言葉、絶対に忘れるなよ!」
叫ぶボルドー。
恥ずかしそうにするレミネに連れられて出て行った。
それだけ必死だということなのだろうが、大声で叫ぶような真似をすれば何らかの密約があったと自分から言っているようなものだ。
「そっちこそ忘れるなよ」
ボルドーに対してリオが誰にも聞かれないよう小さく呟いた。
その言葉に込められた意味が分かっているだけに少しだけ同情した。
「オネイロス支部はたしかに用意する。人員だって避難してきたガルディス帝国の人間がいるから十分だろう。支援金だって十分な金額を出してやるんだから簡単に軌道には乗るだろ」
一見すると好条件に思える。
けれども、作られる冒険者ギルドが一つだけという所に問題がある。
「ギルド一つに対して国にある何十というギルドから避難してきた人たち。当然、全員が空いているポストへ殺到することになるだろうな」
席の数は限られているのだから奪い合いが起こる。
そんな状況で最高位のギルドマスターの椅子が決められている。そこに座っているのが自分たちを助けてくれたグレンヴァルガ帝国の人間なら大多数は納得できたかもしれない。
けれども、自分たちと変わらない立場にいるはずの人間が座っているとなったら人々はどのように思うか。
「批難轟々だろうな。さっきの大声がなかったとしても俺との間に密約があったのは誰もが疑う。いや、密約自体は実際にあったんだけど」
そんな状態では、問題なく纏めるだけでも苦労する。
そして、皇帝と密約を交わしてまで就いたギルドマスターの地位を蹴るような真似をすれば皇帝に恥を掻かせたことになり処分される可能性がある。リオが望んでいなかったとしても誰かがやってしまう可能性がある。
「ま、自分は有益な情報を渡すことができなかったのに受け取る気満々だったのが気に入らない」
事前に『有益な情報の対価』だと言っていた。
だが、ボルドーからは何も得られなかった。
「有益な情報を教えてくれた二人は優遇しよう」
既に冒険者ギルドで働いていたレミネなら教育する必要もない。即戦力として帝都の冒険者ギルドで働かせることができる。
バスディンにも祖父のアルケイン商会を紹介することにしよう。俺たち孫には甘いあの人なら、孫からの紹介を無碍にするはずがない。
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