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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第36章 防衛構築
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第21話 脱出を阻むゴーレム

 少しずつ稼働を始めるゴーレムの生産施設。

 片手間でミキサーという魔法道具を造るぐらいの余裕はあった。


「これが10体目のゴーレムか」


 スラム街でゴロツキたちを捕らえたゴーレムを含めて10体のゴーレムが整列していた。

 全てのゴーレムが鉄で造られている。

 一般的には土や岩で造られていることを思えば鉄人形(アイアンゴーレム)は貴重だった。


「でも、こんなに多くのゴーレムをどうするつもりなの?」


 今のところは使い道がないように思えるかもしれない。


「元々ゴーレムは鉱山フィールドで現れる魔物だ。鉱物はゴーレムにとっての好物だから採掘に訪れる冒険者が許せない……そういう設定だ」


 ゴーレムは人が魔法によって生み出した物や土や岩、鉱石に魔石が宿ることで形が変わる二種類がある。

 自然発生するゴーレムは魔力が豊富で、素材となる物が多い鉱山なんかに多い。

 そのため迷宮も同じようなルールが適用されている、と思われている。

 実際にはそのようなことはなく、どのような場所でも歩かせることができる。


「とりあえず完成した10体のうち5体を地下21階~25階にそれぞれ1体ずつ配置することにしよう。戦力として期待できるけど、それ以上に金属の塊であるゴーレムに釣られる奴が現れるはずだ」


 倒すことができなくても体を削るだけで鉄が手に入る。

 上層だがアイアンゴーレムを相手にできるぐらいの実力は持っているはずだ。


「で、残りの5体はどうするの?」

「余っているのなら2体ずつ配置すればいいのではないですか?

「門番が必要な所があるんだよ」



 ☆ ☆ ☆



 地下61階。

 迷宮主を利用しようと目論んだレンゲン一族が捕らえられている階層。

 そこは沼フィールドになっており、水気を含んだ土が多いことを除けば農業が可能な場所だった。山奥で普段は生活していたレンゲン一族にとって慣れるのは難しいことではない。


 隔離されてから既に数年。

 最初は何もなく、木に生い茂る葉を家の代わりにしていた。しかし、今は簡素ではあるものの木で組まれた家が建てられている。魔物を狩り毛皮から衣服も作られ、人の手によって食料も作られている。

 もう文明が形作られていた。


 だが、こんな文明は外にある生活に比べれば微々たるものでしかない。


「ねぇ、本当に行くつもりなの?」


 赤ん坊を抱いた女性が屈んで荷物の準備をしている男性に尋ねる。

 朱色の髪をした女性に後ろから声を掛けられた紅髪の男性は振り向くことなく準備を進める。


「子供だって生まれたんだ。いつまでも、こんな場所にいる訳にはいかないだろ」

「そう、かもしれないけど……」


 女性が抱いている赤ん坊は、二人の間にできた子供だった。

 若者も含めて数十人もの人間が閉じ込められて生活が作られるようになれば次第に時代が出来上がる。

 初めは戸惑った。明日はどのようになるのか分からない状況であるにも子供を儲けるなど許されることなのか。たとえ許されたとしても、子供を幸せにすることができるだけの能力が自分にはあるのか……

 だけど、生まれた子供の姿を見た瞬間に男性は決心した。


「ここを脱出しよう」


 迷宮内で生活しているのは危険すぎる。

 子供を満足に育てる為にも脱出は急務だった。


「でも、今まで誰も帰って来られなかったじゃない」


 レンゲン一族には迷宮へ挑んだ者が何人かいた。

 隠れ里から連れて来られた者たちの中には迷宮へ挑んだ者たちがいた。

 転移結晶にさえ触れることができればいい。


 奇妙なまでの自信を持っていた彼らは集落にしている場所から離れ……5キロほど進んだところで魔物に食われて死んだ。

 その後も無謀な挑戦を続ける若者が現れ、誰も帰って来ることはなく、死体を見つけることも叶っていない。魔物に食われた、というのもあるが迷宮で亡くなった者の体は迷宮に吸収される仕組みになっている。見つかるはずがない。そのことに彼らが気付くのは、集落内で誰かが亡くなった時だろう。


「だからと言ってこんな場所に居続けるつもりか! ここで生きていたって未来がない。俺は、こんな場所に子供を置いて死にたくない」


 誰もが生きる為に必死になり自分で物事を考えていた。

 それが、もっと早くにできていれば対応を考えてもよかったのだが全てが手遅れだ。

 彼らが未来を手にするには自力で脱出するしかない。


「どうにかして脱出する」

「そんな装備で脱出するなんて無理よ!」


 男が手にしているのは石を削って造り出した剣、鏃が石で造られた矢と弓。

 こんな装備が迷宮攻略にどれだけ役立つのか分からない……いや、普通に考えて役立つ訳がない。


「……それでも俺は行く。こんな俺だけど、生まれた娘とお前の事が何よりも大切なんだ。だから、命を懸けてでも脱出する」

「本気、なのね」

「ああ」


 男性が本気であることを悟った女性は説得を諦める。

 子供と共に二人が集落の外へと歩く。


「何だ?」


 すると、これまでには目にしたことがない物を目にすることとなる。

 自然の溢れる沼フィールドには相応しくない金属製のゴーレム。そんな物が転移結晶のあると思われる方向に5体並んでいる。

 脱出する為にはゴーレムの横を通り抜ける必要がある。


 何もない平原。

 ゴーレムに見つからず通り抜けるのは不可能だ。


「行ってくるよ」


 それでも、男性の決意は変わらない。

 女性が見守る中、ゴーレムへと接近する男性。しかし、前へ進んでもゴーレムが動く様子はない。


「よし--」


 ゴーレムまで20メートル。

 動かずに待機したままだったゴーレムが動き出した。


「……っ!?」


 咄嗟に男性が身を翻して繰り出されたゴーレムの腕を回避する。武器がしっかりしていれば防御するという選択肢もあったが、彼が手にしているような脆い武器でゴーレムの攻撃を受け止めるような真似をすればポッキリと折られることになる。

 鍛えられた巧みな動きでゴーレムの攻撃を掻い潜って着地をすると、もう片方の腕も跳んで回避する。


「襲ってくるのは1体だけか」


 男性を襲っているのは最も近くにいたゴーレムのみ。

 他の4体のゴーレムは動いてすらいない。


「それは……好都合だ!」


 足に魔力を溜め、爆発させると一気に駆け出す。

 隠密能力と逃げ足に長けた男性だったから可能なゴーレムからの逃走だ。これが普通のゴーレムを相手にしていたのなら逃げられただろう。


「が、あぁ……!」


 背中に走る痛みに男性が地面に倒れる。

 振り返って見れば腕を突き出しているゴーレム。手からは煙が出ており、熱を発していた。


 そして、自分の周囲に鉄の弾丸が転がっているのを確認する。

 貫通力を落として相手へ衝撃によるダメージを与えて動けなくすることが目的の弾丸。

 そんな物を背中に受けてしまったため男性は倒れてしまった。

 致命傷ではないが、すぐに動き出せるような状態ではない。


「俺も、ここまでか」


 ゴーレムが近付いて来ているのが足音で分かる。

 覚悟を決める男性。だが、ゴーレムは男性の体を掴み上げると集落のある方へと投げ飛ばす。

 衝撃で体のあちこちを痛める男性だったが死んではいない。


「あ、おい……!」


 集落から脱出を目論む男性を見ていた人たちが救出するべく出てくる。

 しかし、元の位置に戻ったゴーレムが動き出すことはない。


「まさか……俺たちを外へ出さないのが目的なのか……?」


 集落にいた壮年の男性が呟く。

 まさしくその通りで、ゴーレムに与えられた命令は『レンゲン一族の脱出を阻止すること』。ゴーレムへ近付かなければ攻撃はされることはなく、大人しくしていれば怪我をすることもない。

 現に負傷した男性は集落へ運ばれて安静にしているよう言われる。自分たちだけで生活していたレンゲン一族には医術に長けた者がいたおかげで脱出を目論んで食われた者以外に亡くなった者は今のところいない。


「そんなに私たちを閉じ込めておきたいですか」


 子供を抱いたまま恨めしそうにゴーレムを見つめる。

 何もかもを忘れた頃になったら脱出を考えてあげてもいいが、彼らが生きている間に訪れる保証は低い。

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