第7話 鬼ごっこ-前-
「さ、始めようか」
「どうしてもやらないとダメですか?」
「これは試験みたいなものだ。思えばアイラに任せ切りで俺が何かを教えてあげたことはないからな。どれだけ戦えるのかテストしてあげるよ」
収納リングから砂時計を出す。
10分で砂が完全に落ち切る。
「こんな問答をしている時間はないんじゃないかな」
「それでも、本当に4人掛かりでいいんですか?」
「ハンデとしてはちょうどいいくらいだ」
「……! そういうことなら俺も容赦しませんよ!」
ジェムが剣を構えながら突っ込んでくる。
未成熟な体。成長した時に合わせてプレゼントした剣であるため、ジェムの持つ剣は大きく、体格差を考えれば剣に振り回されるように思える。それでも強く握り締めたジェムはしっかりと剣を振るう。
振り下ろされる攻撃に対して横へ1歩動いて回避する。
自然と無防備なジェムの体が晒されることとなる。
「え……」
クルッとジェムの体が回転させられる。
腕を掴んで引っ張ったところを下から力を加えることで簡単に投げ飛ばすことができる。技術的な事もあるが、それ以上にジェムの体が軽かった。
「へぇ」
突然の事態だったにもかかわらず、受け身を取りながら俺から離れる。
さすがにシルビアから何度も攻撃をいなされて転ばされていただけはある。
「お前は仲間が倒されたところを非情になって急所を狙うのはいい」
迷いなく首を狙って振るわれた短剣。
後ろからの攻撃に対して頭を前に倒す。すると、首の後ろを通り過ぎて行くのが分かる。
「思い切りがいいのは分かる。けど、狙いがワンパターンだ」
「このっ……!」
前へ跳びながら体を反転させるとディアが両手に持つ短剣で突いてくる。
なるほど。
「お前もシルビアから教わったか」
短剣の扱い方がシルビアそっくりだ。
「だから読み易い」
「え、きゃっ!?」
全ての攻撃を回避し、横から足を引っ掛けると転ぶ。
「……っ!」
転がりながらナイフが投げられる。
「安心しろ。これでも合格にしてやる」
ポケットから取り出したハンカチで飛んできたナイフを包み込むと手で触れることなく地面に落とす。
「当たれば、の話だけどな」
「けっこう自信があったんだけど」
「体の動かし方、攻撃や敵意は全く問題なかった」
それでも俺に攻撃を当てるには足りない。
「お前たちは動かないのか?」
既に30秒が経過している。
その間、エルマーとジリーは動いていなかった。ジリーは俺へ攻撃することを躊躇しているのかオロオロするばかりだったが、エルマーは何か考えているのか観察するように見ていた。
「一つ確認ですけど、攻撃はしないつもりですか?」
「迎撃の為に手を使うことはある。けど、基本的に回避しかしないつもりだ。スキルの類も使わないから安心しろ」
「では、遠慮なく攻撃させてもらいます」
エルマーの持つ剣から派手に炎が噴き上がる。
「魔法剣か」
感心せずにはいられない。
魔法に適性を持っていたエルマーは、メリッサからも色々と教わって魔法が使えるようになっていたことは『島』での戦闘で分かっていた。
「いきますよ--」
右手に炎を纏う剣。
空いていた左手を俺へ向け、手から電撃が放たれる。
「凄いな、【火】だけじゃなくて【風】にも適性があるのか」
『島』では【土】も使っていた。
三つもの属性を使いこなすことができるのなら十分に魔法使いを名乗ることができる。
けれども、エルマーの本質は剣士にある。魔法はあくまでも補助でしかない。
いくつもに分かれた電撃が訓練場の床を弾いて荒れ狂う。
電撃に対して体を縦にすると横を電撃が通り過ぎて行く。
直後、エルマーが正面から斬り掛かってくる。
「電撃は牽制。あくまでも炎の剣で仕留めるのが本命」
「……そのとおりですよ」
炎の剣を回避すると火と熱が飛んでくる。
「これはカウントしないからな」
飛んできた火を払い落とすと目の前にエルマーが迫る。
「もちろんですよ」
突き出された剣を後ろへ飛んで回避する。
すると、剣から炎が放射されて周囲を焼き尽くす。範囲も俺を巻き込める広さに留められている上、頑丈に造られている訓練場だから耐えることができている。
派手な魔法を使ったエルマーだが冷静だ。
「はぁ!」
剣の代わりに電撃を纏った左手を突き出しながら突っ込んで来て床へ手を叩き付ける。
雷撃を纏った手は床を砕くが、俺には当たっていない。いや、周囲へ拡散された電撃が髪に当たって髪がチリチリしている。
「魔法はともかくとして拳は認めてくれますよね」
「格闘家だっているんだから、それぐらいはいいさ」
「それにしても、本当に当たりませんね」
魔法の余波はともかくとして一撃も当てられずにいる。
改めて実力差を痛感してくれたかもしれない。
「エルマー」
「大丈夫?」
心配したジェムとディアの二人が疲労した様子のエルマーの隣に立つ。
メリッサから鍛えられて魔法が使えるようになったエルマーだったが、未成熟な体では先ほど使用した魔法は連発するには負担が大き過ぎた。
ただし、エルマーは消耗を気にせず攻撃をしている。
「二人とも全力で攻撃して下さい」
「私は全力でやっているよ」
「そういう意味ではありません。この後の事なんて考えず、これからの5分間に防御なんか考えず全力を尽くして攻撃してください」
「え……」
そんなことをすれば戦闘後に倒れてしまう可能性が高い。
それが分かっていながらそんなことを言えたのは、エルマーには俺が自分に課した制限が分かったからだ。
「マルスさんは逃げ切ることしか考えていません。そして、自分から動くつもりなんかはなく、回避に専念します」
多少の迎撃はする。
ただし、それで動けなくなるようなことはなく、多少のダメージを負うだけだ。つまり、防御に関しては気にする必要がない。
そのことを俺の行動から見抜いていた。
本気で攻撃を阻止したいなら気絶でもさせてしまうのが手っ取り早いことを理解しており、俺にはそれが可能なことを分かっている。
「その考えは間違っていない。けど、そんなお喋りをしている余裕があるのか」
「余裕はありませんよ。これは全力を尽くす為に必要な作戦会議です!」
足に電撃を纏ったエルマーが一気に踏み込む。
訓練の様子を見ている人には、エルマーの姿が一瞬で消えたようにしか見えない加速。魔法を剣での戦闘に利用するエルマーらしく利用し、加速して懐へ飛び込むと炎の剣を大きく振るう。
「よっと」
横薙ぎにされた剣を上へ大きく跳んで回避する。
すると、上へ跳ぶのを見て投げたディアのナイフが迫る。全力で投擲された3本のナイフ。
普通なら回避することのできない空中。このまま刺さるのが普通であるため、大きなダメージを避ける為に腕などで受けるのが正解。まあ、俺なら空を飛べるため回避は難しくない。
しかし、それをした瞬間に訓練の勝利条件を満たしてしまう。それに空を飛ぶような魔法はやり過ぎだ。それだけは絶対にダメだ。
「はぁ!」
腕を勢いよく振り下ろす。
発生した風圧が飛んできたナイフを叩き落とす。
「惜しかったね」
「まだまだぁ!」
着地したところを狙ってジェムが迫ってくる。
大振りにされた剣による攻撃だが、しっかりと俺を見据えて振られている。エルマーから言われておかげで注意力が上がっていた。
「ディア!」
「分かっている!」
左右からジェムとディアの二人が同時に攻撃を繰り出してくる。
大振りの攻撃ながら大きな剣を使っているジェム、短剣により何度もの攻撃が可能なディア。
こんな風に攻撃へ専念するなんて迎撃された時の事を考えると危険なのだが、二人ともエルマーのアドバイスを信じて躊躇していない。
「なかなか信頼関係ができているじゃないか」
「それは、どうも……!」
「くぅ……余裕なのがムカつく!」
左右からの攻撃を全て前後に1歩ずつしか動かずに回避する。
二人とも攻撃をできているのだが、連携の方はあまり考えられていない。
「さて、お前の方は準備が整ったかな」
「ええ」
エルマーの頭上で燃え盛る人よりも大きな火球。
とても訓練場で使うような規模の魔法ではない。
「魔法は迎撃するんですよね。回避するのは結構ですけど、周囲に被害が出ないよう迎撃してくださいね」
「やっぱり、お前は頭がいいよ」
被害を出さないよう動く事まで計算して全力の魔法を使用した。
だが、あまりに派手すぎる。
足元に気配を感じて見てみれば床から這い出た鎖が蛇のように絡み付いていた。




