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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第36章 防衛構築
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第6話 恩返しのしたい子供

 翌日。

 冒険者ギルドのソファに座りながら施設内で繰り広げられている会話に耳を傾ける。こういった些細な話の中にこそ人々が追い求めている情報がある。不自然にならないよう酒場で軽い料理を注文して食べながら耳を傾ける。


「マルスさん!」

「……ん?」


 近付いて来る気配には気付いていた。

 それでも最低限しか気にしていなかったのは慣れた気配だったからだ。


「どうした?」


 振り向いた先にはいたのは、エルマーとジェム、それからジリーとディアの4人だった。

 今朝も顔を合わせているため見慣れた姿だった。


「どうした、ではありませんよ! 昨日、ハーピィクィーンの卵を採取したみたいですね」

「誰かから聞いたのか」

「皆が噂をしていますよ」


 噂話が好きな冒険者がギルドには多くいる。

 珍しいハーピィクィーンの卵が納品されたと知れば噂することもあるだろう。


「採取依頼ぐらい僕たちがやりますよ」

「……なに?」


 だが、冒険者としての経験が薄い……と言うよりも俺たちに憧れている節があるエルマーたちは、俺が採取依頼を受けたことが気になったようだ。

 採取依頼と言えば魔物を必ず倒さなければならない訳ではないため簡単にできる依頼の方が多い。だから初心者向けだと勘違いしている者も多い。けれども、今回のように一定以上の実力がなければ手に入らない物もあるので全ての採取依頼が簡単な訳ではない。

 その辺がエルマーには分かっていない。


「今回のハーピィクィーンの卵は、お前たちのレベルで手に入るような代物じゃない。実力を弁えないような奴にアイラたちは育てなかったはずだぞ」

「う、でも……」

「そもそも学校はどうしたんだ?」

「今日は休みですよ。学校へ行かせてもらえているのは嬉しいですけど、それ以上に僕たちは稼げるようになってマルスさんに恩返しがしたいんです」


 エルマーの言葉にジェムとジリーも頷いている。

 ディアが3人と行動を共にしているのはエルマーに付き添っているだけであり、俺との関係は未だに一定の距離を保っている。


「俺はたしかにお前たちを引き取った。けど、それは都合のいい手駒にしたかった訳じゃなくて不遇な立場の子供たちを不憫に思っただけのことだ。恩返しとか考えなくていいんだよ」


 アイラもエルマーに剣を教えるのは楽しかったと言っていた。

 子育てにおいて、それなりに予行演習になったのは間違いない。


「僕たちだって実戦を経験して強くなりました。だからこそ、そんな雑務みたいな依頼は僕たちが--」

「強くなった、ね」


 エルマーたちは魔物を相手に戦うことができる。

 アイラたちから戦い方を教わったおかげで年齢からは考えられないことだが、Dランク冒険者と同等の力を持っている。けれども、信じられないのは同年代と比べた時の話だ。


「どうやら勘違いしている奴らに現実を教えてやる必要があるみたいだ」


 カウンターから離れてギルドを奥へ進んで行く。

 4人もどうすればいいのか分からず、ついてくるしかない。


「訓練場ですか」


 冒険者ギルドの奥には訓練をする為の場所がある。

 弓や魔法を撃つ為の的が設置された場所、武器を打ち込む為の人形が置かれた場所などがあるが、俺が向かっているのは摸擬試合を行う為の場所。


 長さ30メートル、幅15メートル。

 訓練場はいくつもあったのだが、全て埋まっていた。


「ちょっと待っていろ」


 適度に体を動かしたところで訓練は終わる。

 利用が終わるのを待っていようとしたところ、入口に最も近い場所で摸擬試合をしていた4人組が俺に気付いた。

 俺と同年代の若い冒険者。たしかコウカクという名前のCランク冒険者だったはずだ。


「マ、マルスさん!?」

「よう」

「もしかして、訓練場を使うつもりなんですか?」

「そのつもりだったけど、全部埋まっているなら空くのを待つことにするよ」

「そういうことなら、ここを使ってください!」


 コウカクが頭を下げてお願いしてくる。

 本来なら譲ってもらう立場の俺が頭を下げるはずなんだけど、立場が逆転してしまっている。


「そういう訳にはいかないよ。お前らだって訓練の最中だったんだろ」

「そうですよコウカクさん。今日は俺たちに付き合ってくれるはずじゃなかったんですか?」

「僕たちも早く強くなりたいですからね」

「……」


 俺の言葉に仲間である二人の男が追随し、無口な女の子が無言で頷いていた。

 元々コウカクの仲間だった者は別にいた。だが、少し前に負った怪我が原因で仲間の二人が引退を余儀なくされ、契機だと思った一人が冒険者を止めて実家を手伝うことにした。

 それでも冒険者以外にできることがないコウカクは新しく仲間を募ってパーティを組むことにした。

 今いるのは駆け出しの冒険者。コウカクの冒険について行けるよう鍛えているところなのだろう。


「それに、どうしてそんなに下手なんですか。あんな見るからに弱そうな奴を相手に下手に出る必要はないですよ」

「あ、おい!」


 その言葉にコウカクが慌て、他の場所で訓練をしていた冒険者たちも体を止めて俺たちの方を見る。

 ある程度以上の実力があるなら体を動かしながらでも新しく訓練場に入ってきた人間には気付ける。それが普段は訓練場を利用しない俺なら尚更だ。


「……なんですか?」


 新人もようやく訓練場の異様な雰囲気に気付いた。


「あの人は、今のアリスターで一番強い冒険者だよ」

「え、この人が『黒星(こくせい)』?」

「一部では、そんな呼ばれ方をしているらしいな」


 全くの無名だったにも関わらず帝国との戦争に介入し、その名を一気に知らしめることとなり頂点に立つ人物。

 俺の髪と装備が黒いことが合わさって、そんな二つ名が付けられていた。

 あまり気にしないようにしていたんだけど、実際に言われるとちょっと恥ずかしい。今さら恥ずかしがっていたイリスの気持ちが分かった。


「俺と戦うよりもこの人の戦いを見ていた方が為になる。場所を譲ってあげてもいいけど、あなたたちの訓練を見学させてください」

「それは構わないけど、為になるかな」

「むっ、それは俺たちがあなたたちの訓練が参考にならないほど弱いっていうことですか!」


 憧れているコウカクが下手に出ているせいで俺に対して卑屈になっている男の子が突っ掛かってくる。


「そういう訳じゃないさ。ただ、今から摸擬試合を行う訳じゃないからだよ」


 せっかく譲ってくれるのだから訓練場を使わせてもらう。


 訓練場の中心に立つ俺、少し離れた所に立つエルマーたち。

 そんな様子をコウカクたちが見学しており、他の場所で訓練をしていた冒険者たちまで俺の行動に注目している。


 まあ、無理もない。実力も一部が知られて、有名になったというのに俺たちは仲間内では冒険者ギルドの訓練場を利用しない。ここを利用するよりも迷宮を利用した方が効率はいいからだ。

 俺の訓練が気になって仕方ない冒険者たち。


 申し訳ないけれど、訓練をするつもりはない。


「今から『鬼ごっこ』をしよう」

「鬼ごっこ、ですか?」

「ルールは単純。この訓練場の内側で、お前たち4人が鬼になって俺に手か武器で触れること」


 エルマーは剣、ジェムは大剣、ジリーは杖、ディアは短剣を用いている。

 それぞれが自分の武器で触れられれば勝ち。


「じゃあ、模造武器を取ってきますね」


 訓練場には刃を潰した多種多様な武器がある。

 間違っても致命傷を与えないようにするためだ。


「必要ない」

「でも……」

「試しに本気で斬ってみるといい」

「いや、そんなことをしたら……」


 剣を握ったまま震えるエルマー。

 いくら俺が大丈夫だと言ったところで心の優しいエルマーでは躊躇してしまうだろう。


 キン!

 胸に当たったナイフが弾かれて床に落ちる。


「ディア!」

「これでも本気で投げたんだけど……」

「これで分かったな。俺の装備は対刃装備になっているし、お前らの攻撃程度で傷付くような防御力をしていない。本気で来い」

「……分かりました」


 仕方なく納得させたエルマーが剣を握る。


「俺の勝利条件は、制限時間の5分間を逃げ切る。それまでに攻撃を当てられなかった時には俺の言うことを聞いてもらおうか」

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