第98話 氷の沈黙と、銀靴が刻む「本当の価値」
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巨大な『水底の蛇』の成体を、ミルの圧倒的な氷結魔法で打ち倒したリトル・リンク。
立ち入り禁止区域に静寂が戻る中、腰を抜かして震える『銀翼の隼』の若者たちと、彼女たちは向き合います。
「最弱」と呼ばれながらも、自分たちの居場所を守り抜いた五人。
彼女たちが、生意気な後輩たちに見せた「背中」とは?
自由と誇りをかけた勝負、ついに決着です!
巨躯が完全に凍りつき、リフェルナの湿原に巨大な氷の彫像が完成した。
あまりに圧倒的な魔力の余波に、周囲の泥濘さえも白く霜を纏い、しんと静まり返っている。
「……ふぅ。……演算終了。……論理的に見て、……完全勝利です。……成体の魔石回収、……忘れないでくださいね」
セインが、熱を持った解析端末っをパタンと閉じ、眼鏡を指で押し上げた。
環境上書きという大魔術を、一分の狂いもなく維持し続けた彼女の額には、薄っすらと汗が浮かんでいる。
ハーフエルフの理知的な瞳は、勝利の余韻に浸るよりも先に、すでに次の「効率的な撤収作業」へと向けられていた。
「えへへ、あたいの洗浄砲も空っぽだよ! でも、あの蛇の鱗、あんなに綺麗に剥がれるなんて思わなかったな。……あ、でも、あの子たち……大丈夫かな?」
ケットルが、パチンコを大きな背負い袋にしまいながら、少し離れた場所でへたり込んでいる『銀翼の隼』の面々を指差した。
ドワーフの可愛い女の子らしい、純粋で真っ直ぐな心配の眼差し。
だが、その視線の先で、金髪のリーダーは自分の震える拳を見つめたまま、一言も発することができずにいた。
「……ひっ、……あ、……あんなの……。……俺たちが、……束になっても……傷一つ……つけられなかった相手を……」
絶望と、自分の慢心に対する恥辱。
若さゆえに積み上げてきたプライドが、ミルの氷よりも脆く、音を立てて崩れ去っていた。
自分たちが「腰抜け」と蔑んだ彼女たちは、自分たちが手も足も出なかった怪物を、まるでお掃除でもするかのように片付けてしまったのだ。
「……あたい、……あんたたちのこと、……嫌いじゃないよ」
カノンが、銀靴を鳴らして彼らの前に立った。
背中の小さな羽をパタパタと動かし、どこか呆れたような、けれど優しい苦笑いを浮かべている。
「……必死に……上を目指すのは……いいことだと思う。……でも、……誰かの居場所を……奪ってまで……手に入れる『名誉』なんて、……一秒も……持たないよ」
「……っ……」
「……あたいはね、……居場所をなくす怖さを知ってる。……だから、……今のこの家と、……この仲間が……何よりも大事なの。……誰かに……認められるために……戦ってるわけじゃないんだ」
カノンの言葉に、金髪の少年はガクンと頭を垂れた。
『一秒間の虚空静止』。
逃げるためではなく、大切なものを守るためにその場に「居座る」彼女の強さを、彼は身を以て知ったのだ。
「……ん。……カノン、……いいこと、……言った。……ご褒美に、……レバー、……一本、……あげる。……だから、……早く帰る。……お腹、……鳴るの、……限界」
ミルが、グゥゥ、と今日一番の大きな音を響かせながら、クレアの服の裾を引っ張った。
『もう壊さない杖』を無造作に肩に担ぎ、彼女の意識はすでにリフェルナの屋台へと飛んでいる。
吸血鬼の彼女にとって、戦場での手柄よりも、冷めないうちに食べる夕食の方が、遥かに重要な価値を持っているのだ。
「……ふふ、そうだね。……行こうか、みんな。……私たちの『自由』を、……お祝いしなきゃ」
クレアが剣を鞘に収め、仲間たちに微笑みかける。
そして、最後にもう一度だけ『銀翼の隼』のリーダーを見つめた。
「……君たちが、本当の意味で『この街を守りたい』と思うなら。……次は勝負じゃなくて、一緒に戦える時を……楽しみにしているね」
その言葉を背中で聞きながら、五人は夕暮れのリフェルナへと歩き出した。
名誉も、地位も、他人の評価もいらない。
ただ、自分たちの足で歩き、仲間と笑い合いながら、温かいご飯を食べる場所があればいい。
リトル・リンク、今日も(生意気な後輩に背中で語りながら)ちょっとだけ成長中。
第98話をお読みいただき、ありがとうございました。
生意気だった『銀翼の隼』との因縁に、ひとつの区切りがつきました。
カノンの「一秒も持たない」というセリフは、かつて居場所を失った彼女の過去を知っていると、より深く心に響きますね。
自分たちの幸せの形をしっかり持っている彼女たちは、もう誰に惑わされることもありません。
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