第70話 禁忌の共鳴、沈みゆく水都の咆哮
セインの『広域環境上書き』によって勝利を確信した瞬間、宿敵グレイが禁忌の魔導具『深淵の共鳴石』を発動させます。
書き換えられたリフェルナの循環系は「自爆装置」へと変貌し、水都は内部から崩壊を始めました。
石畳を割り、運河を溢れさせる黒い濁流。
逃げ場を失った塔の上で、五人は街を救うための、絶望的な賭けに出ます。
セインの放った『広域環境上書き』によって、リフェルナの街全域に青白い魔力の網が張り巡らされていた。
塔を取り囲んでいた自警団の魔導武装は機能を停止し、グレイの紫煙もまた、書き換えられた大気の中へ霧散していく。
「……はぁ、はぁ。論理的に見て……制圧、完了です。……街の魔力供給路は、……完全に私の指先にあります」
セインが膝をつき、激しく肩を揺らす。ハーフエルフの白い肌は、膨大な情報の逆流に耐え、熱を帯びて赤く染まっていた。
「……セイン、……大丈夫。……魔力、……私が、……支える」
ミルがふらつく足取りでセインの背中に手を添え、自らの吸血鬼としての生命力を魔力へと変換し、セインの魔導ブースターへと流し込む。
「ガハハ! 見たかよ、あたいらの『環境上書き』の威力を! ……さあ、バザル、大人しく回路を諦めて、お縄につきな!」
ケットルが洗浄砲の銃口を、呆然と立ち尽くすバザルへと向けた。
だが、その沈黙を破ったのは、グレイの狂気に満ちた哄笑だった。
「……クク、……ハハハハ! なるほど、街のシステムを乗っ取ったか。……だが、娘。お前が掴んだその『心臓』は、あまりに巨大すぎたようだな」
グレイが懐から取り出したのは、赤黒く脈動する不気味な魔晶石――『水底の蛇』が禁忌として封印していた『深淵の共鳴石』だった。
「な、何をするつもりだ! グレイ、それは……!」
バザルが恐怖に顔を引きつらせて後ずさる。
「お前たちが回路に執着する間、俺たちはその『出口』を探していた。……セイン、お前が循環系を繋ぎ直してくれたおかげで、ようやく……この石の波長がリフェルナの深奥へ届く」
グレイが共鳴石を床に叩きつけた。
パリン、という硬質な音と共に、赤黒い霧が塔の床を侵食し、セインが張り巡らせた青い魔力網へと絡みついていく。
直後、地底からリフェルナそのものが悲鳴を上げているような、凄まじい地鳴りが響き渡った。
「……嫌な、……音。……水が、……泣いてる」
ミルの瞳が、かつてない恐怖に揺れる。
運河の水位が急激に上昇し、石畳の隙間からどす黒い水が溢れ出し始めた。セインが正常化させたはずの循環系が、グレイの放った「呪い」によって暴走し、街を内部から破壊し始めたのだ。
「論理的に……不可能です! 私の解析を、……逆流させて、……街全体を自爆させる術式……!? ……そんなこと、……リフェルナが沈んでしまいます!!」
セインの眼鏡が、過負荷による魔力の閃光でパリンと割れた。
「沈めばいい。……手に入らぬなら、塵に帰すまで。……さあ、溺れ死ぬがいい、リトル・リンク!」
グレイの身体が黒い霧に呑み込まれ、音もなく夜の闇へと消えていく。
「……みんな、……逃げなきゃ! 塔が、……崩れる!」
カノンが悪魔族の直感で叫び、クレアの腕を掴んだ。
足元の石造りの床が、地下から噴き出す水の圧力でひび割れていく。
「……逃げないよ。……うちらが、この街を預かったんだもん。……ここで逃げたら、……魔道具師の弟子が廃るでしょ!」
クレアが『切ない剣』を強く握りしめ、溢れ出す黒い水の中へ足を踏み入れた。
「……セイン、……ケットル! ……この暴走、……止められるよね?」
「……ギギ、……論理的に言えば、……確率は……一パーセント未満……。……ですが、……私は軍師です。……不可能を可能にするのが、……私の『コスト計算』には入っていません!」
セインが割れた眼鏡を捨て、青白く発光する瞳で黄金の回路へと手を伸ばした。
リフェルナを飲み込む黒い濁流。
拠点を失い、今度は街そのものを失いかけた五人の、真の限界突破が始まろうとしていた。
リトル・リンク、今日も(沈みゆく街と、己の限界の狭間で)ちょっとだけ成長中。
第70話をお読みいただき、ありがとうございます!
スカッとする逆転劇の直後、グレイの狂気が街全体を道連れにするという最悪の展開に突入しました。
拠点を失ったばかりの彼女たちが、今度はリフェルナそのものを救うために、命の灯火を燃やします。
セインの計算を超えた「奇跡」は起きるのか……。
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皆さまの星が、暴走する循環系を止める楔となります!
次回、第71話。
水底に眠る「魔道具師の家」の真実。
そして、ケットルが放つ、最大・最強の「洗浄」。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




