第153話 至高の晩餐、黄金の滴と「魔力のフルコース」
ギルドからずっしりと重い金貨袋を抱えて飛び出した五人が向かったのは、街で最も高い時計塔の麓にある老舗レストラン「碧い月」でした。
普段なら冒険者が足を踏み入れるのを躊躇うような白亜の門構えも、今の彼女たちにはただの「エサ場」への入り口に過ぎませんでした。
「……ふぅ。……きた。……ここ、……いい……におい。……鉄分……、……お花の……香り。……ミル、……もう……椅子……座る前に……お肉……注文……したい。……よだれ……、……止まらない……一秒前」
ミルが、ベルベットの敷かれた椅子に深々と沈み込み、テーブルクロスを握りしめました。
吸血鬼の彼女には、厨房でじっくりと焼き上げられている「最高級黒毛猪のステーキ」から立ち昇る濃密な魔力の湯気が、視覚化された黄金の糸のように見えていました。彼女の瞳は、空腹の極致でルビーのように輝いています。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! こんな上等なナプキン、アタシの油まみれの手で触ってもいいのかい! ――セイン、今日は計算なんて抜きだい! 一番高い赤ワインと、一番デカい肉を、片っ端から持ってきてもらおうじゃないか!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**を足元に放り出し、豪快にメニューを広げました。
ドワーフの彼女にとって、良い仕事の後には良い酒と飯が不可欠です。職人としてのこだわりを一旦脇に置き、彼女は厨房の奥から漂う香ばしいガーリックの香りに、すでに喉を鳴らしていました。
「……論理的に見て、……現時点での……栄養……吸収効率は……最大値……です。……構造解析……。……っ、……この……スープ……! ……薬草の……配合が……完璧……です! ……環境上書き……! ……私たちの……空腹……信号を……至福の……満腹感……へと……変換……しなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で黄金色の「味覚解析術式」を展開しました。
ハーフエルフの理性が、運ばれてきた前菜の一口で早くも崩壊しかけていました。素材の持ち味を極限まで引き出したプロの技法に、彼女の論理的な脳は、ただ「美味しい」という単一の結論を導き出していました。
「……あはは、……やっぱり……あっちに……賭けて……大正解……だったねぇ!! ……ねえ、……クレア……、……ミルの……お皿が……空っぽに……なる……速度に……銀貨……三枚……!! ……あたい、……一番……高い……パフェ……狙っちゃうよぉ!!」
カノンが、銀靴を脱いでリラックスしながら、運ばれてきた銀のトレイを指さして笑いました。
ギャンブル好きの彼女にとって、戦利品を「最高級の体験」へと変換するこの瞬間こそが、人生最大の勝ち戦でした。彼女はすでに、食後のカジノへの軍資金を計算しつつも、目の前のフォアグラのムースに目を細めていました。
「……うん、……美味しいね。……みんな……、……本当によく……頑張ったもんね。……この……お肉……、……とっても……温かいよ」
クレアが、虹色の輝きを放つ**『銀竜の絆』**を椅子の傍らに立てかけ、柔らかなステーキを口に運びました。
かつての彼女なら、こんな贅沢は自分には不相応だと、縮こまって食べていたでしょう。でも今は、自分の力で、仲間の力で勝ち取ったこの報酬を、心から誇りに思って味わうことができました。
リトル・リンク、今日も(二ヶ月分の苦労を最高級の味に溶かして、絆をさらに深めながら)ちょっとだけ成長中。
第153話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに念願のフルコース!
ミルの「限界一秒前」だった胃袋も、最高級の肉と魔力で満たされていきます。
金貨150枚の威力は凄まじく、街一番のレストランでも遠慮はいりません。
カノンのギャンブル心も、豪華なデザートへの期待で最高潮に。
しっかり英気を養った彼女たちは、次なる冒険――空中庭園のさらなる深部、そして三層への手がかりを求めて、再び動き出します。
でも、今夜だけは、この幸せな満腹感に浸らせてあげたいですね。
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