第100話 積み上げた日々、信頼が建てた「新しい城」
いつも応援ありがとうございます。ついに、一つの大きな大きな節目を迎えました。
かつて自分たちで買い、大切にしていた前の家。Bランクパーティ『轟雷の牙』のシルヴィアはその地下の魔力源を狙い、執拗な買収提案を仕掛けてきました。
ですが、彼女たちは地下の異常事態から街を守るため、自らの手でその「大切な持ち家」を木っ端微塵に吹き飛ばす道を選びました。
その私心なき功績を認めた領主エルバート公爵から贈られたのが、今の立派な新居です。
家を失うことを恐れず街を救った彼女たちと、失われた権益を今も惜しむシルヴィア。
そして、ボロボロになった「大切な剣」をリトル・リンクに救われ、恩義を抱くエドワード。
第100話、リトル・リンクは(吹き飛んだ前の家の瓦礫から繋がった今を噛み締めながら)ちょっとだけ成長中!
リフェルナの朝。市場を抜けてギルドへ向かう五人の周りには、心地よい喧騒があった。
「おーい、クレア! 今日もいい天気だな。領主様からもらったあの家、住み心地はどうだい?」
「ミルちゃん、今日のレバーは最高にいいのが入ってるわよ。帰りに寄ってちょうだいね!」
市民たちの温かい声に、クレアは腰の剣を揺らしながら、にっこりと手を振り返す。
自分たちで買った前の家を吹き飛ばした時は涙が出そうだったけれど、街を救ったお礼に領主様が用意してくれた今の家は、庭も広く、何より街の人々との絆が詰まった「新しい城」だ。
しかし、ギルドの重い石造りの扉を潜った瞬間、その温もりは冷ややかな緊張感に取って代わられる。
掲示板前。そこには、鮮やかな法衣を纏ったシルヴィアと、銀色の鎧に身を包んだ大柄な男、エドワードが立っていた。
「……論理的に見て、……状況は……極めて不自然です。……シルヴィア様の……視線には、……依然として……『喪失感』と……『怨恨』が……混在していますね」
セインが眼鏡を押し上げ、静かに告げた。
シルヴィアは扇子を握りしめ、血走った瞳でクレアたちを睨みつける。彼女にとって、あの地下の魔力源を「家ごと吹き飛ばして消滅させた」というリトル・リンクの決断は、今なお許しがたい暴挙だった。
「……信じられないわ。自分たちで買った家を、あんな迷いもなく爆破するなんて。おかげで私が手に入れるはずだったリフェルナの魔力権益は、文字通り塵になったのよ……!」
震える声。だが、その隣に立つエドワードの反応は違っていた。
彼はシルヴィアの憤慨に加担することなく、ただ静かに、けれど深い敬意を込めてクレアたちを見つめていた。
あの時、街を救うために自分たちの家を捨てた彼女たちの潔さ。そして何より、彼が駆け出しの頃から愛用し、ボロボロになって寿命を迎えようとしていた「大事な剣」を、ケットルたちが新品同様に、いや、それ以上に磨き上げ、命を吹き込んでくれたあの日のこと。
「……ん。……空気、……まずい。……でも、……あの大きな……人。……レバーの……匂い……じゃなくて、……『守る』……匂い、……する。……家を、……壊した時、……真っ先に……駆け寄ってくれた……匂い。……直した……剣を、……大切に……握ってる……匂い」
ミルが、無表情のままエドワードを見上げた。
爆発の煙の中で、茫然とする自分たちに「見事な決断だった」と最初に声をかけてくれたのが、敵対するはずのこの男だった。そしてその手には、ケットルが丹精込めて打ち直した、あの剣が握られていた。
「ガハハ! シルヴィア様、まだそんなこと言ってるのかい! 家なんてのはね、壊れたらまた建てりゃいいんだよ。おかげで領主様からこんなに立派な家をもらえたんだ。アタシたちにとっては万々歳さ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**をドスンと置いて豪快に笑う。
「……エドワード、何を黙っているの! この、何も分かっていない猿どもを叩き潰しなさい!」
命じられたエドワードは、ゆっくりと一歩前へ出た。
周囲の冒険者たちが息を呑む。だが、彼は剣を抜く代わりに、腰にあるその「直してもらった剣」の柄にそっと手を添えた。
「……シルヴィア様。……形あるものはいつか壊れる。……だが、彼女たちが守ったのは、この街の『今日』だ。……その誇りを汚す真似は、我ら『轟雷の牙』であっても許されん。……俺はこの剣に、二度目の命を貰った身。不義理はできん」
「なっ……! あなた、私に意見する気!? エドワード!」
エドワードはシルヴィアの叱責を静かに受け流し、クレアに向かって、わずかに首を垂れた。
「……クレア。……ケットル。……お前たちの選んだ道は、……今のこの家の輝きが……証明している。……そしてこの剣の……鋭さが、……お前たちの真心だ。……感謝している」
低く、重厚な声。それは最大級の敬意だった。
「……ありがとう、……エドワードさん。……また、いつでも遊びに来てね。……新しい家、……広くなったから、……剣の修行にも……いいかもね」
クレアが、晴れやかな笑顔で応える。
「……チッ、もういいわ! 気が狂いそうだわ、こんな所!」
シルヴィアは激しく扇子を閉じると、足早にギルドを去っていった。エドワードは最後にもう一度、リトル・リンクの面々を深く見つめ、その後を追った。
「……ふぅ。……家を……吹き飛ばした時は……どうなるかと思ったけど、……間違ってなかったね」
カノンが銀靴の踵を鳴らし、ようやく安堵の溜息をつく。
「よし! せっかくの節目だ。仕事を見つけて、夜は新しい家で盛大にレバーパーティだよ!」
クレアの明るい声が、ギルドに響き渡る。
守るべきものは、資産価値でも家でもない。隣で笑い合う仲間との、今この瞬間。
リトル・リンク、今日も(一人の男の誠実さと、直した剣の煌めきを胸に)ちょっとだけ成長中。
第100話をお読みいただき、ありがとうございました。
「ボロボロの剣を修理してもらった恩義」というエドワードの背景を物語の核心に据え、シルヴィアの執着とリトル・リンクの高潔さを描きました。
エドワードにとってその剣は自分自身の歴史。それを救ってくれた彼女たちへの感謝は、シルヴィアの命令すらも退けるほどに強固なものでした。
「エドワードの不器用な誠実さに痺れた!」「ミルの『直した剣を大切に握ってる匂い』という表現に感動w」と思ってくださった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援いただけると励みになります!




