【寓話】口減らし
※本編とは別世界のお話です。
昔々、ある村に、
「ネナ」と「トウマ」という子どもがいました。
ネナはおっとりした女の子。
トウマはしっかりした男の子でした。
そんなふたりは小さいころに両親を亡くし、村の子どもとして、大人たちに育てられてきました。
「俺は木の実や果物を集めてくるから、お前たちはここにいるんだ」
とある日。
ふたりは町長の息子に連れられて、森の奥深くへとやってきました。
ふたりは男の言葉に、こくりと頷きました。
「お腹が空いたら、このパンを食べろ」
男はそう言って、切り株にパンの入った籠を置きます。
「だから絶対に、ここから動くなよ」
そして、男はそう念を押すと、
ふたりを置いて、森の中へと消えて行きました。
男が消えて、しばらく経ったころ。
トウマがネナに言いました。
「ネナ。安全な場所に行こう」
トウマの言葉に、ネナは首を傾げます。
「? 動いちゃだめって、言ってたよ?」
ネナはトウマを見つめました。
トウマはそんなネナにこう言います。
「……アイツは、ここが危険だって知らないんだ」
ネナにはそう言いましたが、トウマは知っていました。
村の大人たちが口減しのために、自分たちを捨てたことを。
「? 大人なのに?」
「うん」
ネナの問いに、トウマは頷きました。
ネナは「そうなんだ」と呟いて、ゆっくり辺りを見回します。
「トウマ、どこに行く?」
トウマは「あっち」と、太陽の方向を指差しました。
「わかった」
ネナは頷くと、男から渡された籠の中から、パンをひとつ取り出しました。
「ネナ、腹減ったのか?」
パンを両手で持つネナに、トウマは尋ねました。
「ううん」
ネナは首を振ります。
トウマは首を傾げました。
「じゃあどうして……?」
「念のため、迷子にならないように……」
ネナはそう言って、パンを小さくちぎりました。
「パンを、落としておこうかなと思って」
その言葉に、トウマは言いました。
「たぶん、鳥が食べる」
トウマの言葉に、ネナは目を丸くしました。
「あっ……そっか」
ネナは残念そうに眉を下げて、パンを籠にしまいました。
トウマはネナの頭をぽんぽんと撫でて、ゆっくりとしゃがみ込みました。
「……? トウマ、お腹いたいの?」
「ううん」
トウマは石を拾い上げ、また立ち上がりました。
「ネナの言う通り、迷子にならないよう、印を残そうと思って」
トウマはそう言うと、一番近くの木に近づきました。そして。
カリッ。カリッ。
木に、斜めにふたつの線を刻みました。
「! トウマ、すごいね」
ネナはふわっと笑いました。
トウマもうれしそうに、目を細めました。
「それじゃあ、行こう」
トウマは石を持つ手と反対の手で、ネナの手をそっと握りました。
「うんっ」
ネナはトウマの手を握り返します。
そして、反対の手で、切り株に置かれた籠を掴みました。
ふたりは太陽に向かって、歩き出します。
森の中では、
ふたりの静かな話し声と、木を削る音が、
しばらく響き渡っていました。
***
とある村で、ふたつの噂が広がっていました。
「隣の村、疫病が広がって人っ子ひとりいなくなっちまったんだって」
「それは恐ろしいね」
家の前で世間話をしている女たち。
後ろでは「モー」と鳴く、牛たちの声が聞こえてきます。
「森に住んでる子どもたちがいるだろう?」
「たまに村へ売り買いにくるあのふたりのことかい?」
「ああ。そのふたりのことだよ」
髪を頭巾にまとめ上げた女が、声を潜めました。
「どうやらそのふたり、元々隣の村にいたらしくてね。捨てられたんじゃないかって」
頭巾の女の言葉に、三つ編みの女が目を見開きました。
「ええっ?! 酷いことをするもんだね……!」
「ほんとだよ。きっと疫病で村がなくなったのは、その報いだよ」
頭巾の女は続けました。
「聞いた話だと——
村の近くで、子どもの亡き骸が複数出てきたって」
「あのふたりが初めてじゃなんだろうよ」
そう続けた頭巾の女に、三つ編みの女は悲痛な表情を浮かべました。
「神様は、ちゃんと見てくれてるんだねぇ」
三つ編みの女の言葉に、頭巾の女は深く頷きました。
後ろでは、牛たちが「モーモー」と鳴いています。
「そういや、アンタのところの牛、随分増えたねぇ」
三つ編みの女が言いました。
「そうなんだよ。これ以上増えたら飼料が足りなくなっちまうから、参っててねぇ」
頭巾の女は困った顔で牛たちを見ました。
牛たちは変わらず、「モーモー」鳴き続けていましたとさ。
めでたし、めでたし。




