表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

追憶と希望

※モリス視点


「じいちゃん。これ、ここに置いておくから」


「ありがとう」


テオドールは森で集めてきた木の実をキッチンの前に置くと、再び外へと出掛けていった。


(あの子は働き者だな)


ゆっくりと閉まるドアを見つめながら、目を細めた。



——フィン達が旅立ってから、二十日以上が経った。


テオドールはあの日から、頻繁に森に帰ってくるようになった。


『そろそろ冬支度もしないとだろ』


そう言ってはいたが、あの子なりに私を心配してくれているのだろう。


スッ。


無意識に、自分の膝を撫でた。


(あと何年、あの子達の成長を見ることができるだろうか)


二年前のことを思い出す。

あの子達の両親が死んだ、あの日のことを——





パキンッ!



「!!」



突如鳴り響いた音に、チェストの上を見た。

そこに置かれているのは、息子家族の写真と一つの指輪。


指輪の周りで、光の粒が舞っていた。


(魔石が……割れている)



『父さん、これを預かってほしい』



息子のウィリアムはそう言って、

自身の指に着けている指輪と同じ指輪を差し出した。


この指輪は、数年前にウィリアムが妻のソフィと揃えて誂えた物だった。


息子達に頼まれて、

片方が死んだ時、もう片方の魔石が割れるよう——私が施した。


『なぜこれを』


『念のためだよ』


そう言って、ウィリアムはいつものように微笑んだ。


そしてそのまま、

ウィリアムとソフィはこの場所を後にした。


「……っ。 ウィリアム……」


私が預かったのは、ソフィの指輪だ。

少なくとも、ウィリアムは死んでしまった。


息子は、こうなることを知っていたのだろうか。


「っ」


あの時、止めていればと後悔が襲う。


「おじぃちゃ?」


幼い声に息を呑む。


一拍。

私は動揺を見せないよう、静かに振り向いた。


「……フィン」


「おじぃちゃ」


フィンは私に近づくと、両腕を大きく広げて抱きついた。


ウィリアム達が預けた、

二人の息子のうちの末っ子、フィン。


「兄はどうしたんだい?」


(テオドールと一緒にいたはずだが……)


そう思い、フィンに尋ねてすぐだった。


「うっ……」


部屋の外から、押し殺すような声が聞こえた。

微かに、鼻を啜る音もしている。


(まさか……)


私はフィンを抱え、ゆっくりと部屋の外に歩いていった。


「おにぃちゃ」


フィンが手を伸ばした方向。

そちらを振り向くと、


「ううっ……」


テオドールが泣いていた。

腕で目元を押さえて、必死に堪えようとしている。


ウィリアムたちは、

兄であり12歳のテオドールには、話していたのだろう。


自分たちが、二度と帰れないかもしれないということを。


「テオ……」


名前を呼ぶ。

テオドールは腕を下ろし、そっと私を見た。


「じい……ちゃん……っ」


「っ」


気づけば、テオドールを抱きしめていた。


テオドールは一瞬肩を揺らし、

間もなくして、堰を切ったように泣きじゃくりはじめた。


「テオ、待とう。

 報せがくるまでは、諦めてはいけない」


まだ、ソフィだけは無事かもしれない。


一縷の望みに、縋るしかなかった。


「おにちゃ、いたいいたい?」


何も知らないフィンが、テオドールの頭を撫でる。

その姿に余計、胸が締め付けられた。


ウィリアム達に何があったのかは分からない。

しかし少なくとも、

ここにいる間は、この子達は安全だ。


「うあああ!」


「おにちゃっ……うわぁああああん!!」


テオドールにつられて、フィンも泣きはじめた。


(ウィリアム。君達に、何が起こったんだ)


私は二人を抱きしめる手に、力を込めた。



——それから二日後。


他の羊族から、

二人の死を報せる手紙が届いた。





(フィンは今頃、どうしているだろうか)



フィンを彼らの旅に連れていくことを頼むのは、簡単に決めたことではなかった。


ウィリアム達に何があったのかは、未だ分かっていない。


その状況で、フィンをラウハから出すということ。

それは普通の旅以上に、危険を伴うものだった。


それでも決めたのは、

二度目の未来が見えたからだった。



静かに、瞼を閉じた。



(私は、信じている)



未来は変わる。

そう教えてくれた、君たちを——。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ