かけがえのない日常
二日続いたお祭り騒ぎ。
これは、お祭りが終わった翌々日の出来事だった——
「フィン。今日、あたしたちは探偵よ」
フアナが朝からやってきて、突然そんなことを言い出した。
「たんてい?」
「そう。今日一日、あたしたちはひっそり隠れてぇ——
トーマの秘密を暴くのよ」
ニヤリと、悪い顔で笑うフアナ。
トーマの秘密って、
フアナ、何のことを言ってるんだろう?
(よく分からないけど、何だか楽しそう!)
ぼくは初めての遊びにわくわくして、胸が高鳴る。
そうして、ぼくとフアナ——後からフアンも来て、
一日限定のちびっこ探偵団が発足した。
AM 10:00
ネナとトーマが出掛けた。
行き先は少し先のお婆ちゃんのお家。
中に入って、お婆ちゃんと少し会話をすると、すぐにまた移動を始めた。
「どこに行くのかしらぁ?」
「ふわあ……」
興味津々なフアナと、まだ眠そうなフアン。
フアナと一緒に、足元がおぼつかないフアンを引っ張りながら二人の後を追った。
「水場?」
水汲み場で足を止めた二人。
ネナとトーマは協力しながら水を汲み始めた。
といっても、汲んでいるのはトーマで、ネナは水でいっぱいになった容器の蓋を閉めているだけだった。
手伝おうとするネナを、トーマが頑なに拒んでいる。
(トーマ、特訓してるのかな?)
そんなことを考えているぼくの横で、フアナが何かを書きながら、
「ふんふん。1ポイント」
と呟いた。
何のポイントだろう?
容器十個分の水を汲んだ二人は、トーマの『すまほ』に水を仕舞った後、再び来た道を戻っていった。
そう、お婆ちゃんの家に戻っていった。
(お婆ちゃんに水を汲んであげたんだ!)
うれしそうに笑うお婆ちゃんの顔に、ぼくも気づいたらにっこりしていた。
PM 12:00
トーマがお昼ごはんの準備を始めた。
ぼくたちはフアナが持ってきた果物を食べながら、トーマの観察を続けていた。
(トーマ、今日は何を作ってるんだろう?)
何かを焼いている。
段々と香ってくるいい匂いに、自然と涎が垂れる。
ぼくも食べたい……。
トーマがネナを呼んだ。
側でぼーっと日向ぼっこしていたネナが、ゆっくりと腰を上げた。
トーマがスプーンを差し出す。
ネナがそれを口に入れた。
(うわあ、ぼくも食べたい〜!)
ネナは美味しそうにもぐもぐしている。
トーマはネナを見て笑ってる。
横でフアナが「2ポイント」と呟いた。
PM 13:30
お昼を終えてしばらく経った頃。
ネナが傘で素振りをしはじめた。
ブンッ! ブンッ!
「……」
ブンッ! ブンッ!
真顔で傘を振り続けるネナ。
ちょっとこわい。
トーマはそんなネナを時々そっと見てる。
ぼくは横にいるフアナをちらっと見た。
「♪」
フアナ楽しそうにネナを見ている。
フアナの奥にいるフアンも、じーっとネナを見ていた。
どうしてだろう。
ぼくはネナとネナを見る四人の様子を順番に見続けた。
PM 14:30
素振りをやめて再び日向ぼっこをしていたネナが、うとうとし始めた。
横に座るトーマが、ぐらぐら揺れるネナの頭をそっと自分の肩に引き寄せる。
「さ、3ポイント……」
横でフアナが、ゴクリと喉を鳴らした。
フアンも二人をまじまじ見ている。
(ぼく、ちょっと飽きてきちゃった……)
よく見る光景。
特に何かあるわけでもない、変わらない日常に、ぼくは「ふわあ……」とあくびを一つこぼした。
PM 15:00
変化のない二人に、こっくりこっくり頭を揺らし始めた時、ネナが起きた。
『すまほ』を見ながら何かを話す二人。
すると、ネナが『すまほ』を覗き込もうとして、透真の足の間に移動した。
「「?!」」
フアナとフアンは咄嗟にお互いの口に手を当てた。
ネナは真剣な顔でトーマの『すまほ』を見ている。
トーマも真面目な顔をしているけど、ほんの少しだけ、顔が赤い。
フアナは興奮した様子で、空いている片手をブンブン振りながら指を四本立てた。
(持ち物のかくにんだぁ)
いつもはここに、ぼくも入る。
ぼくがネナの前に座り、ネナが『すまほ』を持って、三人で持ち物チェックをする。
(ぼくもいきたい……)
PM 15:30
二人は既に離れていた。
ネナは干していた洗濯物を畳んで、透真は寝袋を洞窟の奥に引っ込めている。
(きっと今日も、太陽の匂いがする)
ぼくは寝るときのいい匂いを思い出した。
しばらくすると、二人はまた出掛けた。
ぼくはまた二人の後を着いて行こうとしたけど、フアナが止めた。
「洞窟の中に潜入するわよ」
フアナの言葉に、ぼくは首を傾げた。
「ここじゃあ何を話してるのか、
ぜ〜んぜんっ聞こえない」
不満気にそう言って歩き出すフアナに、ぼくとフアンは大人しく着いていった。
「ここに隠れましょ!」
フアナが指差すのは、さっきまで干していた寝袋。
どうしてここに?
首を傾げると、それに気づいたフアナが笑った。
「探偵ごっこ飽きた!
ネナたちをび〜っくりさせる方が、絶対楽しいわ!」
ひひひ、と笑うフアナにフアンが、
「ほんと姉さんって、自由だよねー」
と呆れた顔で呟いた。
でも、そんなことを言っても、フアンは迷うことなく寝袋に入っていく。
ぼくも、"探偵ごっこより楽しそう!"と、いそいそと寝袋の中に入った。
「ネナたちが近づいてきたらぁ、
同時に"ばあ!!"って出るのよ?」
「うんっ!」
「はいはい」
ぼくはドキドキしながら、二人の帰りを待つ。
(ネナとトーマをびっくりさせるぞー!)
PM 17:30
「……あれ?」
岩羽の崖の頂上に登って、次の進路方向を確認してきた私と透真。
洞窟に戻ると、奥に置いてある寝袋が三つとも不自然に膨らんでいた。
透真と顔を見合わせる。
——たぶん、フアナたちだ。
私たちは三人にバレないように、くすりと小さく笑った。
そして、私はそのまま静かに、三つの膨らみへと近づいて——
「……!」
"わっ!"
と驚かせようとして、寸前で踏み止まった。
三人が、気持ち良さそうに眠っていたから——
「ふふ」
かわいい三人の寝顔に、思わず笑みがこぼれる。
透真も私の後ろから三人を見て、ふっと笑みをこぼした。
(お友だちが増えてよかったね、フィン)
むにゃむにゃと口を動かすフィン。
幸せそうなその表情は、平和の証——。




