控えめなだけ
※透真視点
戦いが終わり、静かな時間が流れ始めた頃。
——いつも通りの平和がまた騒がしくなるのに、
そう時間はかからなかった。
「姉さんは何でネナさんのこと、そんなに気に入ってるの?」
フアンのそんな一言が発端だった。
「だって! 強いだけじゃなくてぇ、
美人でぇ、やさしいじゃなぁい?
ま・さ・にっ、完璧! 理想の大人の女でしょぉ!」
目を輝かせて語るフアナ。
憧れというより、崇拝し始めていないか?この子。
そんなフアナに、
フアンが真顔で残酷な事実を突きつけた。
「でも胸は小さいよ」
子どもは——残酷だ。
「前に姉さん、グラマラスな女になりたいって言ってたじゃん。
それなのに、完璧なの?」
この子は音凪に恨みでもあるのか?
フアンの冷静なツッコミに、フアナがハッとする。
「確かに、ネナっておっぱいない」
フアナは自分の胸に両手を当てて、真剣な顔で呟いた。
「あたしそれはネナと違くてもいい」
悪気のない二人の会話に、俺は居ても立ってもいられず、つい口を挟んでしまった。
「あのな、“ない”って言うのは語弊がある。
——“慎ましい”って言うんだ」
二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「慎ましいって言うのは美徳だ。それに、ちゃんとしたメリットがあるんだぞ?
例えば、風の抵抗だって受けにくい。音凪があれだけ身軽に動けるのだって——」
そう言い聞かせていた時、
「——何の話をしてるの?」
突然現れた音凪に、心臓が跳ね上がった。
フアナとフアンも気まずそうに目を逸らす。
(まさか、聞かれてないよな……?)
冷や汗がダラダラと流れる。
フアナが横目でフアンを見た。
「フアンがお淑やかな女とイチャイチャしたいってぇ」
「は?」
(! ……フアナ、よくやった!)
話題を逸らしたフアナに、心の中で称賛する。
フアンが子どもとは思えないほど冷たい表情でフアナを見下ろした。
「あー! フアンが切れたぁ!!
逃げろーーっ!」
「っ! ——待て!!」
二人は洞窟を飛び出して、空で追いかけっこを始めた。
「本当にフアナは人をからかうのが好きなんだから」
くすくす笑う音凪に、俺はこっそりと息を吐く。
よかった……聞かれてなかったみたいだ。
そう安心したのも束の間——
「ねえ、透真」
そう切り出した音凪に、嫌な汗が伝った。
「"慎ましい"って
——何かな?」
「私が身軽に動けるのはどうしてだと、透真は思ってるの?」
笑ってはいるけど、何故だろう。
どことなく、目が据わっている気がする。
(……終わった)
俺は、これから始まるであろう地獄の時間に、絶望するしかなかった……。
〜おまけ〜
音凪(ちょっと人より、控えめなだけだもん……)




