06 結婚式の準備 1
ロザモンドの結婚の準備は、母の侯爵夫人も城へ来てもらって二人で準備してもらった。エリザベートは一度目で懲りたのだ。疲れ果てたあげくの・・・・・もうごめんだ。
ロザモンドは城に来る時に侍女を二人連れて来ているし、王宮からの侍女もいる、侯爵夫人も二人連れて来ているし、人手は足りているのだ。
式もパレードもその後の夜会も国の行事なので、文官が取り仕切る。ロザモンドは結婚衣装を整える程度でいいはずなのだが、教会に飾る花の色の希望を出し、次に種類の希望を出し、それを変えてと言うのを繰り返す。侍女に伝言させるが混乱している文官が気の毒だ。
結婚衣装もレースをどれにするか毎日悩んでいる。一度つけたのをつけかえるのを既に二度やっている。
侯爵夫人は侍女を寄越して手伝うように言って来るが、忙しさを理由に断っている。
そんなある日、とうとう侯爵夫人はエリザベートの執務室にやって来た。
「エリザベートなにを考えているの妹の結婚式より大切なものはないわ。ラウブル王家の一員としても」
都合のいい事に王妃殿下の侍女がそこにいた。王妃殿下はエリザベートに仕事を押し付けようとしていたのだ。文官もいた。こちらも彼女に仕事を押し付けようとしているのだ。
「姉として妹を大事にできないなんて、そんなの後にしてすぐにいらっしゃい」侯爵夫人はそういうと出て行った。
一緒に来た侍女はいつもの侮蔑の笑いをうかべてエリザベートを見ると夫人の後を追った。
「みなさまがいて良かったですわ。普段だとぶたれてますもの」と言うと先ず文官の書類をパラパラ見て、
「これは宰相の分・・・・これはあなたがたの分ですね」と突き返した。
その中の一枚は結婚式のパレードで沿道に向かって投げる花の予算案だ。前回は費用が予算の十倍に膨れ上がり、各方面からエリザベートが非難されたのだ。
ロザモンドも、
「お姉様が良いと言ったから」とか言い出してエリザベートの立場は完全になくなったのだ。まったくごめんだ。
『宰相さん通したいならご自分で』とエリザベートは帰って行く文官の背に言った。
王妃付きの侍女は文官とエリザベートの会話を聞いて、書類を渡せずに帰って行った。
それからエリザベートは、キャリーをロザモンドの所に行かせた。
侍女のケイトを迎えに行かせたのだ。ケイトに着替えさせて貰わないとロザモンドの部屋にこの格好で行けない。
いや、行けるけど、行かない。
ロザモンドの部屋には、結婚式の衣装の刺繍の図案の四回目の打ち合わせで縫製責任者のディング子爵夫人が来ていた。
それと、もう一人沿道に花を植えたプランターを置くのは、無理だと説明する為に文官が来ていた。彼の顔の隈はくっきりと黒かった。
侯爵夫人とロザモンドは髪型を決める為に何度も髪を結ってはほどき、結ってはほどきしている所だった。
そこにキャリーが来た。
「なんですってお姉さまから・・・もうほんとに・・・早く言いなさい」とロザモンドが喚いた。
「はい、侍女のケイトさん、着替えをするから戻って来てと言うことです」
「どうしてケイトが戻るの?」とロザモンドが言うと
「エリザベート様の侍女だからだと思います」とキャリーが答えた。
それを聞いた侯爵夫人は思い出した。エリザベートが自分に侍女がいないと言ったことを・・・・
ケイトはずっとここにいた。主人であるエリザベートに仕えていない。知っていながら放置していた。自分の落ち度に夫人は気がついた。
あの縫製責任者のディング子爵夫人も怪訝な顔をしている。
侍女をつけずに嫁がせた恥ずかしい家と思われてしまう。
ケイトは昔から、実家の侯爵家にいる頃から、ずっとエリザベートの侍女なのだ。
「すぐ戻りなさい」とケイトに向かって侯爵夫人が言うと
「ロザモンド様の髪はわたくしが一番上手に結えます」とケイトが言った。
「エリザベート様には実家からの侍女がいないようですね。よろしければ助手をお貸しします。着付けくらいできますわ」とディング子爵夫人が言うと侯爵夫人が返事をする前に
「お願いします。わたしは着付けがまだ出来なくて」とキャリーが返事をした。
「エミリー、エリザベート妃殿下のお手伝いへ行って」エミリーはうなづくとキャリーについて部屋を出た。
着替え終わったエリザベートがロザモンドの部屋に到着する前に、新手のうわさが広がり始めた。
セントクレア侯爵家では、長女のエリザベートには形ばかりケイトをいう侍女をつけていたが、ケイトは侯爵夫人の意向を汲んで次女のロザモンドについていた。
結婚後も第二妃の世話は一切せず、ロザモンドのそばで働いている。もちろん、侯爵夫人はそれを知っていると言うものだ。