彼女の死後 3
「ケイト来たのね」侯爵夫人の言葉にフレデリックが振り返った。確かにフレデリックがエリザベートを尋ねた時、彼の姿をみると奥に走って行っていた娘だった。
「ロザモンドの忠実な侍女だそうだな」と王太子が冷たい声で言うと、侯爵夫人は慌てて、
「い・いえ・ちが・・違います。ケイトはエリザベートの侍女です。わたくしはエリザベートが小さい時にケイトを侍女と致しました」と言った。
しかし
「違います。ロザモンド様の侍女です。だいたい不公平です。あんな出来の悪い人の侍女とか・・・・・わたしまで他の侍女から馬鹿にされるんですよ・・・・王太子妃にふさわしくない人の侍女なんて損ですよ」とケイトが言った。
「王太子妃にふさわしくない・・・・・誰がそう言っていたのか?」とフレデリックが言うと
「奥様です。いつも頬をぶってました。あの人ずうずうしいんですよ。ロザモンド様が王太子様をリックと呼ぶとやめるように言うんですよ。王太子様が笑っているのに。でも奥様が頬を三回も四回もぶって叱った時はざまみろって思いました」
「いや・・あれは・・・」と夫人が言おうとしたが、
「ほんと胸がすっとしました」とケイトが手柄顔で言った。
「お前はいつも俺が侯爵邸に着くと、ロザモンドに知らせに行ってくれていたんだね」とフレデリックが笑いかけると
「はい、ロザモンド様に少しでも早く知らせたくて・・・」
「エリザベートには誰も知らせに行かなかったのかい」とフレデリックが問いかけると侯爵夫人の顔色がますます悪くなった。
「いえ、前に来ていた侍従が小声でうるさく言うので仕方なく」とケイトが答えると夫人は少しほっとしたようだ。
「エリザベートの侍女に任命された事は覚えているかい?」と王太子が優しく問うと、
「はい、一応は・・・でも奥様もわたしがロザモンド様にお仕えしてるのはよくご存知でした。暗黙の了解ってことだと思います」とケイトが答えた。
「ケイト。夫人を連れてロザモンドの部屋に戻れ。古代ギリー語の初級読本を届けるから、侯爵夫人とロザモンドに教えて貰い侍女全員が暗唱できるようになれ。できぬものはムチだ。エリザベートがされていたように・・・・
簡単だよ。エリザベートでさえ出来た事だ」
貿易交渉に来ていた一行は、エリザベートが亡くなった事を聞いた。迷ったが、知った以上知らんふりも出来ぬと葬儀まで、王宮に滞在した。
第二王子は、植物好きだった婚約者を偲んで、庭を散歩していた。
はずれの寂れた一角で下働きらしい少女が二人。地面に棒でなにかしているのが見えた。少女の一人は見事な赤毛だった。ふと好奇心に駆られて近寄った。
二人はなにやら楽しそうに、
「百合ってきれいだから死んだ人は喜ぶかも」
「死んでるのに喜んでるとかわからないと思うけど」
「うーーーん。そうかも」とか話していた。
ふと第二王子に気がついた二人は、途端に地面に這いつくばって
「あの・・・えーーっと」とか言いながら泣き出した。
「いや、咎めるつもりはない、なにしてるか気になって・・・・その泣くな」と彼は言ったが、ひとりが手に持っている紙を見て、
「それを見せてくれるか?」と手を出した。
「どうぞです」と手渡された。
『隣国では百合は葬儀に用いる花です。刺繍や装身具に使わないように』
「これをどこで?」
「ゴミ箱です・・・でございます」
「どこのゴミ箱?」
「お妃様の・・・・」
「そう、ありがとう。字の練習?」
「はいです」
「この紙もらっていい?かわりのお手本あげるから」
「・・・・・どうぞです」
後に二人には子供用の字の練習セットが届いた。
第二王子はフレデリックに書き付けを渡して帰国した。
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