益州に向けて ③
「玄徳殿。こちらが劉州牧からの書状にございます」
「おう。孝直殿しかと受け取った」
幾日か過ぎ、益州から法孝直どのと孟子敬殿がやってきた。書状によると、漢中の張魯が不穏な動きをしていると。戦から遠ざかっている益州兵たちは及び腰であり、漢帝室の同族として援軍を頼みたいという内容だ。俺としては単に援軍として行きたいんだがなぁ・・・。
「殿。この書状が殿を招いているように感じますが」
「龐士元殿の仰る通り。劉州牧は、治世であれば様々な判断を下せる主であると某は考えております。しかし、乱世を乗り切る力はない。そう思うのです」
「子敬の言う通りにございます。劉季玉に兵を抑える力はなく、先代に従っていた東州兵は民に対し狼藉を働くばかり。戦から遠ざかっているのでもはや兵ではなく賊徒と化しております。幾度か諫言を上奏してはおりますが、聞き入れられず。主だった将軍たちは旗下の兵を抑えることで、東州兵との差別化を図ってはいますが、民たちの不安、不満は増すばかり。どうか、益州をお取りになり民に安寧をもたらしてはいただけないでしょうか」
「「何卒。何卒伏してお願いいたします」」
「殿。ご決断を」
「うむぅ・・・」
先代とは少しだけ・・・ほんの少しだけ面識があった。劉君郎殿だったかな。彼の目は常にギラついていた印象だったなぁ。俺も若かったから、少し気圧された覚えがある。そんな彼が率いていた兵だ。確かに統率者が優しければつけ上がるのも無理もないな。でもなぁ・・・。同族の領地を攻めるってのはなぁ。
「殿」
「すまん士元。少し考えこんでしまった。法孝直殿、孟子敬殿。お二人の思いは確かに受け取った。しかし、すぐに行動を起こすことはできん。一度、劉季玉殿の人となりや益州の現状をこの目で確かめたい。無論、漢中への備えも行う。これでいかがか」
「・・・仁徳あふれる劉将軍ならではのお考えですな」
「おい孝直」
「道義に反する行いは、後の益州の統治に支障をきたすでしょう。益州への案内は、お任せくだされ。益州の窮状をしかと目に焼き付けてくだされ。民のためと大儀があれば、劉璋を降すことも容易です。我らのように統治に不安を持つ者は多くおります。臣民合わせて、劉将軍を心待ちにしております」
「お・・・おう」
「進発に関してはいつ頃を」
「士元。いつになりそうか」
「殿のご命令があればいつでも。三万の兵を動かすことができます」
「そちらの都合は」
「であれば、今日明日中にご案内が可能です。事前に龐士元殿とやり取りをさせていただいていた故。今回は軍船を率いておりますので」
「わかった。では、急だが明日には進発しよう」
「畏まりました。孔明にもその旨伝えてまいります」
「頼む。法孝直殿と孟子敬殿。遠路遥々お越しくださったのだ、少しばかりではあるが、労わせてくれ」
「「ありがたき幸せ」」
はぁ・・・。俺の知らないところで着々と話が進んでいたのか。士元も孔明も俺に内緒でよう。全く・・・。まぁ、確かに仲謀殿と曹操の間に挟まれたこの土地じゃ護るもんも護れねぇし、いろいろな限界はある。それに、仲謀殿には荊州の一部を渡してやらにゃいけないからな。益州の現状が思ったよりも悪かったら、三人の言う通りに行動するか・・・。はぁ・・・。癒しが欲しい。阿斗のところに行くとするか。