父と子
うぅん・・・やっぱりこの書物はおかしいよなぁ。今まで過ぎてきたこと。例えば、法孝直どのがここにやってきたことなんかは、物語調で書かれているんだけど・・・。
「紙を繰ると白紙なんだよなぁ・・・。これってやっぱり妖書の類なのかなぁ・・・。それにこれを渡してくれた人って・・・。あれ?誰だったっけ?うぅん・・・」
「おっ!?おい阿斗!どうしたんだ唸り声なんかあげて!腹でも痛いのか!?」
書物を床に置いて、横になってながら読みをしていたら、いつの間にか父上に抱きかかえられていた。誰かが入ってくるのを気づけないほど集中していたのか。
「あっ!父上!お腹はいたくないですよ」
「はぁ・・・そうか。あまりにうぅんうぅんって声が聞こえてるから、子龍が飛んできそうな勢いだったぞ?あんまり心配させてやるなよ。まっ俺も心配して慌てて入ってきたくちだがな」
「あはは・・・ごめんなさい」
俺が異常がないことを伝えると、父上は安心した様子で、床に降ろしてくれた。子龍まで飛び込んで来ようとしていたとは・・・。大きな心配事に発展していたようだ・・・。反省反省。
「良いってことよ。子どもは親に心配かけるくらいが丁度いい。お前さんはできすぎで、落ち着き払っているからよ。大丈夫か?ってこっちが心配になるくらいだ」
「そう・・・かなぁ?」
「まっあまり孔明や子龍の胆を冷やすようなことはしないでくれよ?」
「肝に銘じます」
「どうだかなぁ?まっ俺もよく子龍の目を搔い潜って、市中を歩き回ってたからな。さすがは俺の子だな。血は争えないってやつか。それよりも、益徳んとこの娘だ」
「ん?蛍?」
「ほたる?そんな名前だったか?まぁいっか。将来は美しくなるぞ。細君が美人だからな。しかし、酒癖が悪い可能性があるからな。気をつけろよ?」
「義叔父上の娘ですからねぇ」
「おうさ。ところで、何に唸っていたんだ?」
なんだか色々な話に脱線していったけど、最初に戻ってきた感があるな。どうしよう・・・。小首を傾げながら心配そうに父上はこちらを見てくれるけど・・・。この書物、妖しさ満点なんだよなぁ。正直に言ったら取り上げられるかな・・・。それは・・・なんだかよくない気がするんだよな・・・。
「ん?あっ!もしかしてその書物のことで悩んでんのか?」
「んえ!?う・・・うん」
「そういやこの間・・・誰かから譲ってもらって来たって言ってたな」
「はい!悩んでいたのはそのことで・・・誰から譲ってもらったのか思い出せなくて、唸ってたんです」
「はぁん。そうかいくら賢いって言っても、忘れることもあるんだな」
「だって、まだ子どもですよ?誰だって忘れることくらいあるでしょう・・・」
なんか父上に馬鹿にされた?気がしたからムッとしてしまった・・・。断片的な記憶が残っているけど、もともとは20になるかならないかの若者だったんだぞぅ!記憶力には自信があったのに・・・。まぁ、大半の記憶を失っている?靄がかかっている?そんな状態だし、目の前の人物には到底言えない内容だよね・・・。だって・・・本来の阿斗様は・・・。
「おいおい!急に泣きそうな顔になるなよ・・・」
「へ?そんな顔してました?」
「おっおう・・・。(なんだ?一瞬物凄く悲しげな表情を浮かべていたと思ったら、話しかけた途端に表情が明るくなって・・・。本当に不思議だな。あながち、あの話は本当だったのか?阿斗が生まれる時にあいつが言っていた話は。あんまり信じないんだがなそういうのは。でも、当たっていそうな気もするが・・・)」
「どうしました父上?急に黙って・・・うわぁ」
急に黙った父上に無言で抱きかかえられて、頭を少し強い力で撫でられた。あぁ・・・腕も長いし耳も大きい。本当に劉玄徳なんだなぁ・・・。
「いや。気にするな。しかし、嘘はつくなよ?曹操みたいになっちまうからよ。間違っても花嫁泥棒はするなよ?」
「?」
「あはは!わからねぇか。それよりもだ。その書物、たしか・・・左元放とかいわなかったか?」
「あぁ!そうだ!その人だ!ありがとうございます父上!」
「おう。思い出せてよかったな。それで、それがどうしたってんだ?」
「実は・・・」
俺は、正直にこの書物の話を聞かせた。聞いている間、難しそうな顔をしながら唸っていた。あっ。俺もこんなに大きな唸り声をあげていたのか。これは確かに心配される大きさだわ・・・。人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもんだ。客観視って大事なんだな――――。




