第一話 帰ってきたVRMMORPG
VR。
それは現実で感じるような刺激を電脳空間に落とし込んだ最新技術を使ったもの。
ゲームというには過小評価であり、第二の現実と呼ばれるほど強大になっていた。
初期はあるアニメから、漫画から、小説から、有名ゲームから世の中に多々提供されていった。
その中でも特に人気を博したゲームジャンルがある。
VRMMORPG。
今までPCのグラフィックでどこまで軽く高評価を得られるのかが最大の肝だったと言えよう。
VRでも、フルダイブ技術が確立されない以上は現実でコントローラーを振り回していただろう。
フルダイブ技術が世に発表されたのは、十年ほど前になる。
当初はゲームではなく、軍事シミュレーターと医療機器におけるリハビリの為だった。
一般公開をされてからも庶民には到底手を出せる値段ではなく、勿論娯楽の対象など夢のまた夢だった。
娯楽と化したVRゲームが発売されたのは八年前。
ある有名ゲーム会社が三社合同のチームを作り、ゲーマーたちの長年の夢を叶える結果となった。
その頃は単価五十二万円という値段にも拘らず、売り切れが続出し予約待ちが相次いだ。
ゲームが出るということはそれに続いて他の会社も奮闘する。
勿論不良品など様々で、脳が焼き切れる、サーバーダウンによるログアウト不可など、世間を騒がせた事件は両手足を合わせても足らないだろう。
しかし、中止になることもなくVRが開発されてかれこれ十年は経った。
VR機器もベッドタイプからヘルメット、ゴーグル、ヘッドフォンタイプと進化し、派生してARという技術まで提供された。
耳と目の間にマイクロチップを埋め込んで脳と直接つなぎ、眼球に直接投影した端末も開発された。
中にはどちらか片方の目そのものが端末だという者もいる。
そんな中VRゲームは未だなお進化を続けており、世の中を掻き乱している。
今年の春、長らく提供されていなかったVRMMORPGが更に進化して発売される。
長らく、というのはある社会問題がVRMMORPGによって生み出されたからである。
解離性混在型仮想現実症候群、自己不認知型仮想現実症候群、想起性仮想現実恐怖症である。
一つ目の解離性混在型仮想現実症候群とは、読んで字の如く、現実と仮想現実の区別がつかなくなる症状である。
これは、社会に何らかの不満、不安、障害を抱えている者に多く見られ、一時期精神疾患だとされたものの全人類が起こり得るものだとして世に報道された。
二つ目の自己不認知型仮想現実症候群とは、仮想現実内で早く走る、剣や盾などの武器を振る、身体を酷使するといった行為に対し、現実へ戻った際疑似筋肉痛やゲームと現実では差が出過ぎていたため、日常生活がままならないとした。
三つめの想起性仮想現実恐怖症はPTSDに近いだろう。
どれほど残酷描写を消したとしても他者を傷つけることや、死ぬという経験を複数回行うことにより、現実に帰還した際も凶暴性が増す者とは反対にトラウマに陥ってしまう者も沢山いた。
これらにより、VRMMORPGは製造を中止され、世に提供されることは無くなった。
しかし、この春それが解禁されるという。
ARを始めとしたVR技術が進化し、人々の身近になった今、試験的に提供してみようという政策になった。
これに対し賛否両論の嵐だったが世論はどうであれ押し切る形で再発売が可能になったのだ。
売り出すゲーム名はReSW。
restart world。
解禁された世界の名にはふさわしいだろう。
世界環境はファンタジー。
剣と魔法の世界。
人々が待ちに待った世界である。
三社合同チームで作ったこの世界はサーバーが今までより遥かに大きく、スーパーコンピュータを搭載しているため、人間の負担も少なく実現することが出来た。
ここで何をするのも自由なのはどの会社でもキャッチコピーにしていたが、結局はレベルを上げないと次の段階には行けず、モンスターや敵勢力といった存在を倒すという残虐描写が最終的には必要だった。
しかし、この世界は過去最大級のサーバーにより、AIも豊富でレベル上げの種類も豊富、つまりモンスターや敵勢力を倒すことなく次の段階に進むことも可能だということである。
言葉にするのは比較的楽だが、実現できたのは三社が惜しみなく協力したおかげだろう。
この刺激を受けた人々は何を思うのだろうか。
何を感じるのだろうか。
ここにも一人刺激を欲するものがいる。
これから綴るのはこんな世界のたった一人のちっぽけな男の話。