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さんすくみっ!  作者: noonpa
畜生中学生になる
9/10

終幕

「ケッケッケ。おかえりー」

「……なんだよ、それ」

 顔をぐしゃぐしゃにした俺を嘲るように笑うそいつ。

 俺はあれから、山城という男に頭を下げた。最初は警察云々を言っていたらしいが、俺が会った時男は何故か笑顔で「うん。まあ、若い時はそんなこともあるさぁ」なんて言った。

 ある意味そのわけのわからなさが良かったのかもしれない。そうでなければ、また襲っていたのかもしれなかったのだから。

 そして、その理由はすぐに明らかになった。

「…………え?」

「ケッケッケ。俺からの入学祝いだ」


 俺の机の上にあったのは、一つの三味線だった。

 そう、その美しい模様も忘れもしない。あいつの──


「…………これ、どうしたんだよ?」

「買った」

「…………買っただと?」

「ああ、あのオッさん、十億も出したら喜んで差し出してくれたぜ。ケッケッケッケッケッケッケ」

「………………」

 何やら長く笑っていたが、最早、その声は俺の耳には届いていなかった。

「……お前に……教えたい『詩』があるんだ」

 俺はゆっくりゆっくりと、踏みしめるように三線に近づき、優しく抱きしめた。

「人間になって……俺は……いろんな『詩』を知った。……どれもこれも本当にすっげぇもので……。それでずっと……ずっと、伝えたくて……」

 ああ、クソッ。

 もう、出ないってくらい流した筈なのに。

 こんなみっともねえ面なんざ見せたくないのに。

「『ありがとう』。俺の子供を産んでくれて、俺と一緒になってくれて……本当に…………『ありがとう』」


 まだ涙が止まらない。


「これは?」

 三味線の側に置いてあった、それに気づいた。

 この独特な色合いには覚えがある。

「ケッケッケ。てめェが人間になった時にまだ腕の使い方もわからなかったくせに必死こいて握りしめていたカルシウムの塊だ。そいつをちょいと拝借してピックというやつにしたんだ」

 …………………。

「なあ?」

「ん?」

「こいつの弾き方を知りたい。学園に誰か教えてくれるヤツはいないか?」

「ケッケッケ。ああ、一人いるな」

「じゃあ──」

「ケッケッケ。それはお前が見つけろ。俺はお前のお母さんじゃねえ」

「……ああ、そうだな」

 『死ぬよりも辛い、生きるよりも笑える、そんな呪い』。

 俺は自分の右手を見る。

 蛇には無い人間の手。

 なあ『呪い』?

 あの時お前が言った言葉、最初はまるで理解できなかったが、今はほんの少しわかった気がするよ。

「なあ、『呪い』」

「なんだ?」

「『ありがとう』」

「ケッケッケ」



「ケロっ。ミーくん、ご飯食べよ?」

 あれから丸一日ほど経った。

 仮に俺達がどんなドラマチックでファンタジーな日常を過ごしたところで、当然だが地球の動きは変わることはない。

 まあ、だからと言って、俺達がまるで変わらないというわけでもない。

「わりぃな、カエル」

「ケロ?」

「今日はちょっと行かなくちゃならんとこが………………っておぃいいいいいいいいい!?」

「ゲロロロロロロロロロ」

 何かカエルが涙を流しながら胃袋吐き出してる!?

「てめェ、何してやがんだよ!?」

「ミーくんが私のこと嫌いに──」

「なってない。なってない。なってないから、それをとっととしまえや!」

「……ミーくん、マイ、フレンド?」

「イエス。イエスだから、お前これちょっと、これ小腸まで!?」




「おい、ゴリラ」

 なんか色々な臓器を吐き出してるカエルをなんとか保健室まで連れて行った後、俺はあの日の様に職員室まで足を運んだ。

「お前はもうそろそろ私を先生と呼ばんか。それに、私は純正の人間だ」

 うっせえよゴリラ。人間扱いして欲しけりゃ、まずその毛皮と、迸るもっさり感をなんとかしろ。

「まあゴリラ、聞け。なんとも素晴らしい心を持った生徒がなんと日頃の感謝を込めて、ゴリラのためにこんなものをプレゼントするぜ」

 そう言って俺が取り出したのは一房500円もする高級バナナである。なんか、登校中八百屋で売ってた。……まあ、死んでもそのことは言わんがな。

「……なあ、巳上」

「なんだよゴリラ。ありがたすぎて言葉も出ないか」

「いや……そうじゃなくてな?」

「なんだよ、とっとと言えよ」

「…………気持ちは凄く嬉しいんだ」

「べ、別に感謝とかしてるんじゃないんだか──」

「嬉しいんだが……」

 ………………が?

 何だ? 何か雲行きが……。

「……その、なんだ。私は……バナナアレルギーなんだ」

 …………………はあ?

「はあああああああああああああああああああああああ!?」



 結局のところ、俺は人間を好きにはなれなかった。今だって機会があれば、あの野郎を殺したいとも思う。

 だけど、そんな俺もどこからどう見てもただの人間で、そして、俺の大好きな奴らも漏れなく人間だった。

 俺はいつの日か、あいつらと同じように、いやその半分でいいから人間を好きになれる日が来るのだろうか。

 ……いや、きっと来るのだろう。

 なんたって、あんなたくさんの素晴らしい『詩』を作るような生き物だ。好きになれない筈がない。

「このバナナどうしたもんかな」

 俺は溜息混じりに、結局貰ってもらえなかった黄色い果実を見る。流石に一人で食う量ではない。

 つかあのツラでバナナダメとかおかしいだろ。遺伝子的な何かが突然変異でも起こしてるに違いない。

「…………うん」

 まあ、あいつらと分けりゃいいか。

 俺は携帯を取り出し、あいつに電話をする。



「ゲロォオオオオオオオオオオ」

「………………」

 なんつーか、アクロバッティングだ。何? 人は胃袋を口から出すと、あんな風に戻さないといけないわけ? …………俺は一生胃袋を出さんぞ。

 再び保健室に着いた俺は、治療? 中のカエルを横目に、あいつの到着を待った。

 同じ校内だ。数分もしない内にあいつは来た。

「失礼します」

 相も変わらずのキザな声が、カエルの胃酸でネットリとした保健室に響く。

「ミーくん、招いてくれてありがとう」

「なあに。いいってことよ。まあ、ゆっくりしていけや」

 俺は空いた席にあいつ──ナメクジを促す。

「フフ。今日はぁいつにも増して、紳士的ですねぇ」

「だろ?」

「ああ、そうそう。そんな紳士的なミーくんにお土産があるだよ」

 そう言って、ナメクジは持ってきたバックから、一冊の本を取り出す。

「これは……」

「『蛇の巣』。半世紀前に英国人の書いた短編小説さ。この前お風呂場で言った本だよ。是非読んで、感想も聞かせて欲しい」

「『蛇の巣』……ねぇ」

 洒落が効いているというかなんというか。

「ちなみにどんな内容なんだ?」

「読んでみてからのお楽しみ……なんだけど、そうだね。強いて言うなら、とある男性と女性の痴話喧嘩を描いたものだよ」

「……なあ? ずっと訊きたかった事があるんだが」

「なんだい?」

「……てめェは男なのか?」

「うん」

「……てめェは女なのか?」

「うん」

 ………………うん、じゃわからねぇえええええええええええええ!

「便所はどっちに行くんだよ!」

「んー。気分かな」

「気分ってなんだぁああああああああああああああああ!」

「アハハ」

 何が可笑しいんだ、このナメクジが。と、その時だ。

「ゲロォ。私抜きで楽しそうにしないで」

 おお、カエル。意外と早かったな。最悪、昼休み中は無理だと思っていたのに。

「バナナがあるんだ。てめェも食えよ」

「…………ケロ」

「ボクもいいかな?」

「ダメなら呼ばねえよ」

 そう言って、俺は一本ずつバナナを回す。

「おお、なかなかいいバナナだね」

「そんなことわかるのかよ?」

「ホンモノは匂いが違うからね」

 ……いや、バナナにホンモノもニセモノもないだろうがよ。

「ケロ。でも本当に美味しそう」

 当然だ。なんせ、俺のなけなしの金が込められてる。

「さて」

 俺はゆっくりと胸の前で両手をあわせる。

 カエルとナメクジもそれに習った。


「「「いただきます」」」


まず、ここまで読んでくださった方々に深い感謝を。ありがとうございました。

個人的に小説というのは『作者が読者へ一方的に伝えたいことを伝えるデバイス』ものだと考えてます。恋愛や感動もそれを助けるオプションに過ぎません。

で、今回私が伝えたかったことは、『いただきますは大事だよ』ってことです。改正後かなり変わってしまいましたが。くだらねーというツッコミはナシの方向で笑。

続きは書くとしたら、暁さんの方で一定以上の評価を頂いたらということにしようと思ってます。書きたいことは結構あるんですけど、望まれていないものを書くのもねぇ笑


それでは皆さん、二度目になりますが、ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。

また機会があればよろしくお願いします。

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