攻略体制と生産サポート(1)
なんか用語説明とかの番外編的なものの更新した方が良いでしょうかね。
森の入口への移動ショートカットを使えるようになり、生産素材を揃えるべく森への遠征を何度か繰り返したり東の草原をチラ見したりしているうちに、周囲にも初期クエストを終えたチームが増えてきて、互いの情報交換が活発化していた。攻略組の意見として強まってきているのは、レベル上げを過度に進めた場合を除き、普通に攻略を進めていくには生産職のサポートが重要になってくるのではという意見である。
まずはシンプルに装備。豊島区から来たキャラクターネームまりもさん20代大学生のコメント。いや、別に豊島区いらないのだが。そういう位置づけなのだろうか、豊島区。
「遺跡行く途中でももう、けっこう大変で、なんだっけ?あの蛇みたいなやつ。みたいなじゃなくて蛇なのか。あれもう強いの。斬っても叩いても全然効かないの。戦わなくても遺跡にはいけるみたいだけれど、戦うとねー。もう蛇だけでへとへと。なので遺跡も途中で打ち切り。準備したらまた行くつもりなので。」
確かに、生産プレイに調査を切り替えた投資家二人と別れて、草原で単独行のテストを兼ねて散歩しているときに遠くから射かけてみたところ見事なまでにノーダメージだった。これはいかん、無理だ、と諦めて草原は文字通りの散歩までに留めたのは記憶に新しい。草原ごときで止まってるもの問題となると、弓も何か強化をしたい。
はじまりの町にあたり、βテストの当座のフィールドとなっているコルトーは、ただいま周辺都市との流通にトラブルが出ているとのこともあり、装備品の供給が制限されている。町の中で作れる数打ちの武具は手に入るものの、それ以上のものが店頭に並ばないせい(との設定)で、購入のみでは装備の強化が十分に進められないようになっている。比して、森の奥地にいる狼とたまたま遭遇戦をやって自分でも分かったのが、町のすぐ近傍はともかく、少し離れたエリアのモンスターが相対的に強く、連戦を前提に攻略を進めるのは相当にしんどい。装備を充実させる手としては、町売りが駄目なら鍛冶屋などの職人に依頼しての手元装備の強化やオーダーメイドを進めるしか消去法として方法は無くなる。つまり、生産職との連携が、素材供給も含めて十分に行えるかが、パーティやギルドの戦力を左右することになる。βテスト開始後、現実世界における数時間が経過した時点で、あっと言う間に鍛冶屋など装備品系生産職のモテ期が始まっていた。大塚をいじって遊ぶチャンス到来である。
また、ポーションなどの回復アイテムについても、町売りのものでは回復量が十分ではなく、採集中心の活動ならともかく、戦闘と攻略を軸に考えると強化品が欲しいとのこと。次は田中さんギリギリ10代男性のコメント。田中が本名なのかキャラクターネームなのかもはっきりしないが、ギリギリってなんだ。こだわる必要があるのか。
「マジやべーよ。モンスターつえーよ。ちょー気張って耐えてんのにポーション飲んでも飲んでも追いつかねーの。ひどくね?……みたいにコメントすればいいの?これ。いまいち分からないのであとは適当に使って!じゃ!攻略行くからまた!」
どこに向かいたいか良く分からない田中さんのキャラづくりへの疑問はさておき。他にも何人かに聞いてみたが、アイテムについても大筋のコンセンサスと言ってよいだろう。
つまり、単にモンスター退治にやたらとあけくれていればゲームが進むというのではなく、装備品や消耗品を上手く揃えていくバックアップサポート、軍隊でいうなら兵站やロジスティックと言える分野の体制作りが出来る必要がある。心持ちSLGっぽい。消耗品については、強化品を作りだしたプレイヤーはまだいないが、生産スキルの向上ペースから、回復ポーションLV1+aくらいであればほどなく可能になるだろう、との予測が立てられている。こちらもそのうち、ポーションモテという新しい属性が解放される展開が容易に予想される。ついに私の時代が到来ね!などとまったく良く分からない勢いで残念属性を発揮済みのエセ大阪人の涼音さんにモテ期が来るという構図は実に想像しにくいがこれまた楽しみである(ネタ的な意味合いにおいて)。
「高宮、この感じだと商社も作れるんじゃないか?売買の仲介から、調達代理まで、自分のやりたいプレイスタイル以外の部分を請け負うビジネスが幾らでも出来そうに思う」
生産システムについて議論を重ねていると大塚が冷静な口調でさりげなくアグレッシブなことを言いだした。おいおい、お前は鍛冶屋じゃなかったのか。
アイテム生産もゲームシステムに含まれたMMORPGの場合、生産と攻略、と二つに分かれてのロールプレイに分化してどっちかだけに特化した遊び方が出てくるのは珍しくない。生産だけやりたい、攻略だけやりたい、つまりはその他諸々の雑事に煩わされずに好きなことをやりたい、ゲームなんだからめんどくさいことなんてこれっぽっちもしたくない、とのプレイヤー感情は実に良く理解出来る。無駄な面倒を上手く避けられるようなゲーム設計が出来るかも、作る側の腕の一つといって過言ではない。そういった、プレイヤーの自然なニーズがあることを一定程度存在するのを踏まえると、生産と攻略を上手く取りまとめて結びつけて繋げるバックアップ体制や、アイテム作るのはやりたいけれども素材集めも面倒だし更にはプライベートクエストで集めるのも面倒、とのニーズに応じて、素材集めの部分を代行するアウトソーシングがひとつの活動形態として成立しそうである。ゲームとはいえ、現実社会を何か反映したものになるので、こういった人間の素直な感情を下地にした活動設計は特別変わったものにはならない。世の中の仕組みや現象を丁寧に観察していると、理解するためのヒントはそこかしこに転がっている。
「面白そうね、それ。思いっきり趣味プレイにもなりそうだけれど、別にじゃんじゃん儲けないといけない訳でもないし、ニーズ調査してみる?」
大塚のアイデアに涼音さんが乗ってきた。わざわざゲームなんて投資対象に加えようとしているところからも分かるが、やはりこの二人はどこか遊び好きである。敢えて言えばゲームなんて無駄な活動である。無駄な活動に攻略の効率性や最短距離を考えて突き詰めていくという冷静に考えると矛盾した動きをしてしまうのも人間の性であるが、無駄の中に更に無駄を詰め込むのもまた興であろう。いい意味で無駄なんだったら、もっと盛大に気持ち良く無駄にしようというのは一周回って正しい態度なんじゃないか。そう思っている。
「他の調査事項との兼ね合いもあるが、自由度テストとしてはいいかもしれんな。他のテスターもいきなりそこまで変なプレイスタイルに突っ込んでくることもないだろう。やるなら競争の緩いうち。生産職繋がりが出来てきたらざっとでいいのでヒアリングして貰えると助かる。」
二人とも乗り気ということは主目的を阻害しない範囲では試してみても問題無いだろう。二人には実際にモノになりそうかの調査をお願いする。投資に限らず、商売するのに当たりがありそうか探るのは当然のアクションである。
利益としては涼音さんの言う通り、現実の商社業と同じく、大規模に展開しない限りは微々たるものに留まりそうではある。しかし、お金のことはあまり気にしないのなら立派な商人プレイになる。ビジネス形態を考え、事業アイデアを競う一種の事業シミュレーションと捉えたらこれはこれで面白い。商社に限らず、単に物品の製作販売に留まらないアプローチは、そのうち誰か仕掛けてくるんじゃなかろうか。お金が溜まってからであるが、素人的にも考えついてやりそうなのが金融業。というかシンプルに金貸し。資金ニーズがどれくらいあるかは不明であるが、装備品のローンとか設計すると面白いかもしれない。借金まみれの戦士とか、創作ものにありがちな構図が作れてしまう。敢えて借金まみれプレイというのもロールプレイとしてはベタでいい。借金ギルドなんて通り名がいつの間にか出てくるようなのもいい。誰かやってくんないかな。思いつき杓子定規に遊ぶよりも、こうしてさまざまに工夫を重ねてプレイスタイルを開発していくのもこの手の大規模ゲームの醍醐味である。せっかくなので、ここは面白そうな方向への舵を模索してみよう。
いずれにせよ、生産プレイは趣味プレイ用のおまけではなく、攻略の重要な一要素であるとの理解が定着しつつあった。攻略中心で進めようとしているところから、前線攻略の手を一旦止め、各種装備の生産体制を先に整える方針に切り替えるギルドが早速出るなど、いい具合にプレイヤーの動き方がばらけてきている。これらの動きも含めて、生産プレイヤーの動向についても調査せねばなるまい。ゲームによっては攻略担当偉い、生産はおとなしく俺たちを支えろ、みたいに変に威張る勢力が出てきてギスギスすることもあるが、みんなそれぞれがいい具合にゲーム内に役割を得られると当たり前であるがユーザーは定着する。所詮はゲームで立場の上下などあるはずがないのだ。プレイスタイルの多様性をゲームシステムとしても柔軟に許容できるとしたら、このタイトル、最初のハードルを越えてユーザーが上手く馴染んでいい具合に評価されるんじゃないだろうか。面白くなってきた。
その他、フィールド設計周りでは、
・「水汲みのついでに奥の方に行こうとしたら上のレベルのモンスターが出てきて慌てて引き返してきた」(キャラクターネームクロウさん20歳男性)
・「森の奥を探検しようとしたらあわや瞬殺かとのモンスターが出てきた。冷や汗ものだった」(キャラクターネームまたたびさん24歳男性)
・「水汲みの泉の奥に抜けると遺跡の地下に行くルートがある様子。とてもいけなかったけれども遠くから見つけるだけ見つけたとのパーティがいると聞いた。」(ギルド「風ふくろう」の面々)
という歯ごたえに次ぐ歯ごたえとの感想コメントが多い。初心者排除型ゲームになってないと良いのだが、もう少し様子を見つつ評判については判断しよう。少なくともこれまで出会った人たちはβテスターであるとのバイアスを除いても楽しんでいる様子だった。ぬるゲーとマゾゲーの境界はいつだって難しいもので、万人が納得するラインなんて引けないものなので、安易な評価判断は禁物である。
そうそう、スクロール商人についても幾つか分かったことがある。まず、生産はやっぱり出来無さそうであること。新規生産についてはショップでしか出来ないので生産職ではない。代わりに、商人との名前の通りであるが、スクロールの中古売買が出来る。スクロール無いのスキルの設定や書き換えは出来ない。よって、まったくもってスクロールショップの代わりにはならない。代わりに、値段設定も必ずしもショップのものに準じる必要は無いので、質屋的な遊び方が出来る。喧嘩にならない範囲で質流れとかを一種のロールプレイとしてやってみるとか面白そうである。友達前提で、且つ心血注いで育てたスクロールでやったら体育館裏に連れて行かれることになりそうなのでやらないが、予備や余りを使っての越後屋プレイとかやってみたい。あんまり攻略には関係なさそうなので趣味にはなるが。クラス成長して何か出来ること増えないかちょっと楽しみである。