攻略体制と生産サポート(2)
週2更新頑張る習慣継続中。
プレイも一区切りついたところで、現実の体の方も休憩を入れようとおやつタイムにすべく準備していたら、2階の自室に行っていた妹が降りてきた。攻略から帰ってきたところでひと休みしようとのことになった、と本人は言っているがはたしてどうだか。匂いか何かでおやつの気配を察して降りてきた以外の行動パターンが思いつかない。おやつセンサー恐るべし。
お兄さんは森に虫捕りに、妹さんは遺跡に水汲みに行っていたので、桃太郎には出会わなかったものの、夏休みの小学生の宿題の付き合わせのごとく成果報告として簡単に初見の印象を話し合うことにする。
「雪ちゃん、ケーキ残ってるの食べる?どうせ野郎どもに渡してもたいして味も分からずに飲み込んじゃうだけだし」
降りてきた妹を出汁に、先ほどまでの恨みを晴らさんとばかりに戦端を開く涼音さん。だがしかし、食べ物/ダイエット戦線をフィールドに選ぶのは戦略設計としてまったくもって最善手に見えないのだがいいのだろうか?いつも思うがこの人は本当に笑いの王国関西で修業してきたのだろうかと、経歴の偽装を疑ってしまいたくなる。
テーブルに載るのは頂いたケーキの残りと、我が家のおやつコレクションからの在庫放出である。ゲームの中でたくさん動いたからケーキ食べてもOK、というまったくもって筋の通らない理論を展開する妹はさておき、年長組1名と年中組2名は、来客用のクッキーと紅茶を嗜むこととした。さすがにケーキをつまんでダイエットネタの隙を見せることはなかったらしい。このニセ大阪人め、いらんところで勘が働いたか。そしてさすがに妹一人で残ったケーキは食べつくせないのだが……余ったらまた明日でも食べるとするか。一日二日なら大丈夫だろうし、明日なら兄も手伝えるはずなのである。
ケーキ、紅茶、牛乳と謎の三角食べを繰り広げる妹曰く、初期装備でクエストをぐいぐい進めるのは少し戦闘の負荷が重いという。概ねは町で集めた意見と似ている。ただし、力押しせずに頭使って攻略することも十分可能で、むしろそうやってある程度知恵絞って工夫して進めることを前提に設計してるように見える、とのこと。遺跡に行く前の草原でも蛇型モンスターなど、強めの個体に当たると苦労したことから、遺跡では無駄な戦いを控え、慎重に進めてようやくクリア出来たとのことである。つまり、一部で噂されてるようにやたらと無理ゲーになっているのでは決してないというんが妹の意見であった。水汲みの目的地である、数か所ある泉のうち、手前のステップ1の泉に行って帰って脱落者は出なかったものの下手を打ったら危なかったとのことから力押しはこのゲームでは悪手であるとの感想と、最初のクエストは森に絞るくらいでもいいかも、とのことであった。
「正式版になったら調整入るかもだけどね。遺跡クエストの難易度を少し落とすか、最初は森に行くのを必須にするか。」
唇の端に残ったクリームを涼音さんにぬぐってもらいながら妹が答える。涼音さん曰く、妹が欲しかったけれども、あいにく弟しかいないので、遊びに来た時はついつい構ってしまうとのこと。妹とは、たまに一緒に買い物行ったりもしてるようで、妹の方も年の離れた親戚のお姉ちゃんのように接している。
難度の高さから、モンスターにやられることを繰り返しながら攻略ノウハウを溜めていく、いわゆる死にゲーなのかと議論になったが、妹は死にゲー説を一蹴していた。
「死にゲーにするには、少しデスペナがきつい気がする。短期間に死に過ぎるとアイテムロストの確率と範囲が広がって行くという作りみたいだけれど、やり過ぎで衛兵に止められたとの人がいたもん。プレイ時間の拘束を設定してるということは、やっぱり死にゲープレイも含めて単純な力押しを望んで作られてのではないように思うの。ひどいと装備品のロストもあるらしいし。」
デスペナルティ、ゲーム内で死んだ際にどのようなハンデや失点評価を行うかは、成長型のゲーム設計でも大事なポイントである。本作は、ゲーム難度が高いのでモンスターに倒されてしまう状況が起きることは想定しつつも、安易なプレイは許さないとの姿勢であろう。しかし、もうデスペナの仕様を探ってる連中がいるとは、他人のことは言えないとはいえモノ好きである。始まって高が数時間なので安易に決め込むことは無いとしても、なんとなく運営側の意思は分かった気がする。
「ところで雪、お前のところのギルドってβテストメンバーで生産職いたのか?」
記憶を探りつつ妹に問いかける。確か、テスト参加のメンバーは攻略邁進タイプが多かったはず。
「そう。サブクラスで取った人は何人かいるけれども、育ててないから能力的に十分じゃないのと、やはり専門に伸ばしている人がいた方が良さそうなのでどうしようかみんなで相談しようとしてるところ。誠一さん、鍛冶周りはお願いね。もちろん、お姉ちゃんも。」
「おう、構わないぞ。他ならぬ雪ちゃんの頼みだ。まだたいして試してないので、任せておけとは言い難いが出来る限りは。」
どうやら、大塚は有望顧客を獲得したようである。生産職は相手がいないと試せないところなのでこれはいい取引であり、役割分担だろう。調査的にもありがたい。いずれにせよ、自分たちとしても各分野での調査が進めやすくなるのはありがたいことである。
この話面白いから他のメンバーとも一緒にやりたい、と2階に戻ろうとする妹の初動をすかさず見切って首根っこを捕まえる。
「ぐえっ」
蛙の潰れたような、との比喩はどこの誰が考えたか知らないが、なかなかに面白いテンプレである、などと益体のないことも考えつつ妹に伝える。
「戻るのなら、歯磨きとまでは言わんがうがいくらいはしていけ」
ふふっ、と楽しそうにこちらの様子を見ていた涼音さんが自分のと合わせてお皿を片づけてくれていた、大塚と同様、妹繋がりもあって我が家に立ち寄る機会の多い涼音さんにとっては勝手知ったるなんとやら、である。洗浄機にセットするのはもう少し皿がまとまってからでいい、と伝えて流しに揃えて貰うまでにして、妹ギルドの面々とも話し合うべく、我々もゲーム内に戻ることにする。
ゲーム内で、妹のギルドホールを訪問し、せっかくだからということで(ゲーム内の)外で買ってきたおやつアイテムや飲料アイテムで気持ちだけお茶会を開くことにする。ステータス補正のない食糧関係アイテムは、スタミナ値と空腹値の管理上必要であるがシビアなプレイポイントには設定されていないようで、そこそこ安価に買える。よって、ポーションなどの消耗品をひとつふたつ買うのを我慢する程度で軽めのパーティ風味の集まりも出来る一種のジョークアイテムの役割も担っている。ジョークだろうことが良く分かるのは、グラフィックの出来で、見た目はともかく、お茶から湯気が出てるとか冷やしたもの(があるのもそもそも驚きであるが)は、しばらく時間が経つと容器に水滴が付くようになっている。まったくもって誰得なのか、開発リソースを割くのにGOを出した感覚に頭を抱えたくなる凝りようである。
話の中身自体は街で収集していたものと大きくは変わりなく、プレイヤースタイルごとの所感や、お互いのフィールド情報の交換など、理解を深めるのに役立った。また、中規模ギルドまでだと生産職を内部に十分に抱え込むのは楽ではないだろうとの意見が妹ギルドでの概ねのコンセンサスとなっていた。攻略メンバーも含めて、2ケタ以上の人数をコンスタントに決まった形で動かすのは、ゲームを遊ぶ時間の相互調整が面倒になることから、それであれば、役割分担して生産特化ギルドと手を組むなりの方がおそらく楽である、と。となると、先の予想通り中間に上手く入る商社のような立ち位置は有り難がられることだろう。涼音さんも乗り気のようだし、商人プレイはもうちょっと真面目に考えてみるか。
ひとしきり話して、仮想のおやつも食べ尽くした頃、雨が降ってきた。
「雨、降ってきましたね。ほんとに降るんですね。」
あざみさんが誰ともなくつぶやいたのを受け、メンバーそれぞれが窓の外を眺めている。雨が降るだろうことは、占い師のスキル説明からも予想が立てられていたことであった。
「しっかし、降るのはいいとして、これ何の意味があるのかね。雰囲気変わるのは面白いけれど。」
妹ギルドのリーダー、重戦士の志摩さんがそうこぼす。まったくだ、とあざみさんを含めて頷く周囲の面々。天気が分かる占い師にしても、レアクラスみたいだけれどいったいなんのためなのだか、などと呑気に話していたのもこの時までであった。
このゲームの本領が発揮されるのは、まさにこの雨降りからだったのだから。




