伯爵様の訪問
ヒーロー参上!
ある、天気のいい日の事だった。
エリックはいつものようにお手伝いに来てくれていて、リリアはまたもや脱走してきた、と笑顔で言ってミシェルの作業着を着ていて、ミシェルは変わった花を探しに旅に出ている母に手紙を書いていた。
城下町も庶民たちの声で賑わっていて、ルイスフラワーズも上々の売り上げだった。
今日は、子爵家の方の注文が入っているだけで花の入荷も昨日終えたところなのでみんなゆっくりと過ごしていた。
お昼休憩になり、みんなでリリアが持ってきた紅茶を味わいながらサンドイッチを食べていた頃だった。ミシェルたちはお昼ご飯の時間を少しずらしているので城下町は朝よりその時間帯はあまり人通りは多くないのだが、『きゃー!』と女の人達の大きな悲鳴が聞こえた。
何事かと、エリックとリリアの目を合わせれば、二人も驚いた様子で、慌てて店の前に飛び出した。
そこには人だかりと、その人だかりに埋もれた馬車だった。ミシェルは馬車があるので大きな花束を注文していた子爵様がきたのかな、と思ったのだが、それにしては人が騒ぎすぎていた。城下町では貴族が歩いているのは普通なので、これは不自然だった。
すると、女の人の間から金髪を一つに結んだ綺麗な男性が現れた。これは人が集まるのも当たり前だ、と感心していると。綺麗な男性は、こちらに近づいてくるので慌ててリリアに助けを求めるように見ると、リリアは警戒したように相手の男性を見ている。
そしてリリアはミシェルの手を握り、エリックもミシェルのとなりに立って相手を見ている。
「どうもこんにちは、お嬢さん。」
綺麗なテノールの声だった。その美貌と雰囲気になんだかくらくらしそうだが、この人は花を買いに来ただけ、と思い聞かせいつも通りに営業スマイルで「こんにちは」と、小さな声でミシェルは言った。
リリアとエリックは無視だ。二人の顔をちらちらミシェルがみると、二人はハッとした様子でお辞儀をして店の奥へ行ってしまう。男性と私一対一になってしまった。そう思い、困ったミシェルは困惑しながらも「何をお求めでしょう?」と聞く。
かなり階級が上だろう男性は上等な服に、ステッキを片手に持っていて。仕草までも洗練されていた。
ああ、きっと素敵な女性の方にプレゼントするものなんだわ、と一人勝手に浮かれてどんな方かを想像することにミシェルは脳を働かせていた。
「なにかおすすめは、ありますか?」
男性はたくさんの花を見回してミシェルに微笑みかける。
ミシェルも上客と勝手に想像した素敵な相手のプレゼントのために微笑み返した。
「プレゼント用ですか?」
「ええ、花束にしてプレゼントしたいのです。」
そういった男性にミシェルは嬉々として頷き、これはどうですか、と指さし、一輪を男性に見せてみる。それは紫色の小さな花で私の一番好きな花で、これを土台に大輪の花を組み合わせていく。ああ、想像するだけで花束が作りたくなる。心が浮きだつのを感じながらミシェルは想像を膨らませる。
「これを土台にするとなんでも綺麗に仕上がるんです、他の花は―――…」
「では、これを花束にして下さい。」
「え?」
小さな花なのでこれだけでは物足りないのでは、と困惑するが、男性はお願いします、とミシェルに託すだけ。
夢に描いていた花束は消えて無くなり、男性に「少々お待ち下さい。」といいその紫の小さな花を手に取り花束を作る、その間にリリアを呼んで男性の相手をお願いすると、リリアは顔をしかめた。
「無理。」
「いや、無理じゃなくてリリア、」
「あの人、性格がとんでもなく悪い伯爵様よ。」
「え?」
「いつもタウン誌で賑わせているアレン・フィッシャー様よ。」
なんだか聞いたことがあるが、タウン誌はあまり読まないので思い出せない。
うーん、と手を動かしながら唸っていると、
「性格がわるくてすまないね、男爵令嬢」
綺麗な美声を響かせ背後に近づいてきた男性にミシェルもリリアも気付かず、リリアは悲鳴を上げて、ミシェルは驚いて目を見開き固まる、そしてついさっきまで消えていたエリックがリリアの悲鳴を聞きつけ、こちらに飛び出してきた。
求婚はまだ。