お姫様になりましょう
「あんたって、顔も貧相だけど、体も貧相なのね。」
「…………」
淡いピンク色のドレスに着替えるとき。彼女は馬鹿にしたような顔ではなく、哀れむような顔でミシェルをみた。その顔をみたミシェルはため息をついた。むしろ哀れるのではなく、馬鹿にしてほしかった。
自分の体のことは良く知っている。一向に成長しない体つき。背だけはまだあるのに体系が目の前にいる彼女のようにならないのだ。
「伯爵ってロリコンなのかしら……、」
「ろ、ろりこん?」
「ロリコンしらないの?あら、じゃあ言わないでおくわ、あたしは伯爵の味方だし。イメージダウンになるようなことは言わないわ、」
『ろりこん』の意味がとても気になるし、ミシェルにとっても失礼な言葉のような気がしたけれど、あまり追求しないことにした。
「気にすることないわ、あたしの天才的なセンスであなたの体系はあたしがカバーしてあげる。」
「……あ、ありがとうございますっ」
「まぁ、一番カバーしたい相手はとっくにばれているだろうけれど。」
「え?」
「……伯爵よ。」
ミシェルは脳内が一時停止しかけたが、腰のリボンを思いっきり締められた息苦しさで停止は免れた。
「く、くるしいです。」
「あら、ごめんなさいねー」
たしかに、違和感があった。彼女は私のウエストなどを測らなかった。そして今着ている服はサイズぴったりだ。なぜ?いや、もしかしたら彼女はすごい腕の持ち主なので客のウエストを測らなくていいのかもしれない……。
「伯爵は女をみただけで、わかるらしいわよ。」
「…………。」
「すごいわよね、この仕事をしているあたしには望ましい能力だわ」
アレン様がなぜそのような能力を身につけたのか、聞かない事にしておこう。
ミシェルは心の中で誓った。
* * * * * * * * * *
「顔は動かさないっ!」
「はっ、はい」
美女に怒鳴られ思った。私ってお化粧をこんなにきちんとしたことがないかもしれない。
いつも遊び半分でリリアにされたことならあったが、すぐに落としてしまうし。誰かにそんな姿を見られるのはリリアくらいだ。
ミシェルは鏡の中の自分を見つめる。唇には淡いピンクが塗られ、頬が赤く染まっている。
キラキラしている。そう思った。
「なかなかね、まぁ当たり前だけど。」
「…………。」
「化けるわね、小娘。」
「………ど、どうも。」
「あたしの技術があってのことなんだけどね。」
美女はミシェルの髪をいじりだす。
「あら髪は、以外ときれいな髪なのね、」
しみじみとミシェルの髪をみて美女は言った。
は、はじめて褒められた……!ミシェルは感動しつつも美女の言葉にうなずいた。
「か、髪には気を使っています。」
「ふーん。」
美女はミシェルの髪を編み始めた。編みこみが終わると服に合うようにと花飾りをつけて。ミシェルを椅子から立たせて、鏡の前に連れて行った。ミシェルは驚いて、鏡に映りこむ自分の姿をしみじみと見た。
「す、すごい。」
小さいときに憧れていたお姫様には程遠いけど、十分自分の理想だった。
「あなた、もっと自分の手入れをしなさい。」
美女はミシェルの肩に手を置き、鏡越しでミシェルに言った。
「仕事で忙しいのはわかるけど、自分の手入れをきちんとしないとお客が来ないわよ」
「で、でも花屋です、し。」
「花屋でも、お客さまをお相手するでしょ」
美女はそういって、ミシェルに袋を手渡した。
なんだろうと、ミシェルが首をかしげると美女は悪そうなえみを浮かべた。
「あたしの特性クリームよ。お風呂上りに全身つけなさい、きれいになるから。」
ミシェルにウインクした美女は、「あんたいろんな男性から言い寄られるようになるわ」と付け足した。ミシェルは美女にたいしての高感度がぐんっとあがった。
「あ、のお名前を伺ってませんでしたが……。」
「あら、それは失礼。王家御用達の紅い薔薇の店主ジュリア・スカーネット、以後お見知りおきを。」
美女は丁寧にミシェルに向かってお辞儀をした。
「え、っとジュリア様。」
「ジュリアで結構よ。」
「じゅ、ジュリアさん、ありがとうございます。」
「あんたがお礼を言う必要ないわ、伯爵のご命令だから。」
ジュリアはミシェルの手をひっぱった。
「………はやくきなさい、王子が待ちくたびれているわ。」
「は、はい。」
「あと笑っておきなさい。あたしがきれいにしてあげたんだから。」
そういわれて、ミシェルがジュリアに微笑んでみせると、ジュリアがそうよ、と笑い返した。真っ赤なカーテンが開かれてジュリアが言った。
「たのしんでいらっしゃい、お姫様。」
ミシェルの前にはアレンが微笑んで待っていた。
伯爵!変態!