第1話①「プロローグ」
これは、俺が“真実”にたどり着くまでの物語だ。
***
ノイズ混じりのニュース映像。
完璧に整えられた証拠。
AIが生成した笑顔。
合成された記憶。
でっち上げられた犯罪。
そして――。
嘘か本当かわからない人生。
かつて人間は、事実を確かめるために自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の頭で考えていた。
だが、そんな時代は終わった。
フェイク技術が発達し、画像も、音声も、映像も、記録さえも簡単に改変できるようになった。
何を信じればいいのか。
誰の言葉を信じればいいのか。
人々は、真実そのものを見失っていった。
そして――。
人間は「真実を判定する仕組み」を作った。
その名も、
《シン統治システム》
AI。
人間。
そして確率。
異なる存在による協議によって、さまざまな情報を検証し、ひとつの判断を導き出す。
その理論を作り上げたのは、歴史上でも類を見ない天才的な科学者――らしい。
詳しい仕組みを知る者は、ほとんどいない。
ただ、人々はその結果を信じた。
いや。
信じるしかなかった。
そして、シン統治システムの判断結果を確認するための公式アプリがある。
その名は――
《VERITAS》
ラテン語で、「真実」を意味する言葉だ。
この名を付けた意図が、祈りなのか、それとも、皮肉なのかは、わからない。
人々は何かを疑うと、まずVERITASを開く。
『これ、本当?』
そう入力する。
しばらくすると、シン統治システムによる判断結果が表示される。
街角では、人々が端末を眺めている。
「真実」と表示されれば、安心したように胸をなでおろす。
「虚偽」と表示されれば、失望し、その情報を疑う。
警察は、集めた証拠の裏付けにVERITASを利用する。
裁判では、提出された証拠だけではなく、証言の信憑性を検証するためにも利用される。
ニュース番組でさえ、報道内容の確認にVERITASを使っていた。
いつしか、それは当たり前になった。
何かを判断するとき。
何かを疑ったとき。
何かを信じたいとき。
人々は、自分で答えを探す前にVERITASを見る。
そんな世界だ。
***
フェイクだらけの世の中。
捏造された画像。
偽装された音声。
改ざんされた記録。
存在しない記憶。
誰もが「何が本当なのか」を見失った。
だから、人々はシン統治システムという名の新たな「神」にすがった。
自分たちでは判断できなくなった「真実」を、システムに委ねたのだ。
それは、ある意味では合理的だった。
自分で考えなくてもいい。
迷わなくてもいい。
答えを出してくれる存在がいる。
――考えようによっちゃ、何でもありで面白い時代なのかもしれない。
真実と嘘の境界が曖昧になった、カオスな時代。
そんな世界に、俺は生きている。




