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93.義賊の華麗なるやり方


「ああギギさん……! この美しい星々のもと、貴女を最後まで守り抜きます……!」


 エーリクはひとり舟の上、愛しの竜人を想って夜空を仰いでいた。


 義賊『君に捧ぐ一番星』のやり方は優雅に行かなくてはならない。なぜならその方が女の子へのアピールになるから。

 もしその場に女の子がいなくても、油断してはならない。……なぜなら夢に見ていてくれるかもしれないから。そう、今まさに! 眠るギギさんがこの英雄の姿を夢に見ているに違いない……!


 一目惚れだった。彼女との出会いが、エーリクの根本を変えてしまった。


 子供の頃から美少年だと持て囃されて育った彼は、母に言われた『きっと世界中の女の子がエーちゃんに恋しちゃうわね』という言葉を信じた。……エーリクはちょっとばかしマザコンだったのだ。

 それから彼の快進撃が始まる。ただでさえイケメンだった男が女の子に紳士的にふるまいだしたのだ。エーリクはモテにモテた。彼の思い込みは加速した。


 そう──本当に、世界中の女の子が自分に恋するものなのだと!


 もちろん彼は振られることもあった。しかしそれはその女の子が優しいから自分以下の顔面の男と付き合ってあげているのだと解釈していた。……ちなみに稀に現れる自分と同等レベルの顔の男は、女の子を惑わす悪魔だと思っている。エーリクの敵だ。


 そんな彼がギギと出会ったときに覚えた衝撃は、すさまじいものだった。

 エーリクは実力者である。ひと目で彼女の実力が、その場の誰よりも高いことを見抜いた。男性体の竜人であるトトよりも遥かに強い。彼女はエーリクなど、そのへんに歩いている蟻をプチっと潰すように、簡単に殺してしまえるだろう。

 確かな恐怖と同時に、だがしかし……その無邪気な表情に、そして大きなおっぱ……いや、豊満な美しい体に目を奪われた。セクシー&キュート……ジャスティス。ビッグラブ。ラブオール。直後に抱きしめられ天国を見たエーリクは、吊り橋効果もあいまって確信した。


 彼女が運命の人に違いない、と。


 そして思った。誰よりも強いギギさんだが、それじゃあそんな彼女を誰が守る? ……僕だ。僕以外にいない。

 彼は衝動のまま勝手に誓った。絶対に彼女を守り抜く。


 エーリクは標的の船を鋭く見据え、自身の乗る小舟を変形させた。それはそれは戦闘特化のいかつくかっこいい船……もうほぼ戦艦のような姿へと。

 土の魔術は本来その場の土地を素材として使う。が、術者の魔力が豊富であれば、火や水の魔術と同じように土そのものを作り出すことができる。──エーリクは最高峰の土の魔術師だ。


「な、なんだあれは!?」


 帝国の船からすれば、突然巨大戦艦が現れたように見えただろう。見張りが叫ぶと同時に魔術師たちが甲板に出てくる。エーリクは素早く敵に女の子がいないことを確認した。


「よし、沈めよう」


 敵船に直接乗り込んで白兵戦なんて馬鹿なことはしない。彼は魔術で作られた投石機から、これまた魔術で作られた硬くて尖った巨大な石を躊躇なく射出する。

 ドゴオオォォォン!


「ぎゃああああぁぁぁぁ!?」

「ひいいいぃぃっ!!」


 クリティカルヒット。容赦ない投石によって帝国の船はまっぷたつに割れてしまった。我ながら素晴らしい威力だとエーリクは悦に入る。……見てますか、ギギさん!

 まさに圧倒的。そして無敵。これで惚れない女はいない。もう完全に勝負はついたとエーリクは思っていた。


「……おや?」


 ──海が凍っている。

 なるほど、そう簡単にはいかないらしい。海の一部を凍らせたその上に、魔術師3人と剣を持った男ふたり。……残りは海に落ちたようだ。

 大きな水の魔石を手に、魔術師たちが声を張り上げた。


「我々はストレリチア帝国皇帝、レズリー陛下の命令を受けて動いている! それを妨害するとは何事か!」

「僕は義賊『君に捧ぐ一番星』のリーダー、エーリクだ! 愛するギギさんを守るため、貴様たちはここで潰す!」

「は?」


 ギギさんって誰? と魔術師たちが首をかしげる。しかしエーリクにはそんなことはどうでもいい。

 投石第二弾だ。先ほどよりは小さいが複数の鋭利な石を一斉に投げ込む。魔術師たちは慌てて氷で盾を作った。……だが。


「フッ……どこまで耐えられるかな」


 続けて今度は特大の岩をお見舞いする。さすがに氷の盾は割れ、直撃は免れたものの魔術師たちは悲鳴をあげた。


「貴様っ! なにが義賊だ! こんなのただの蛮族だろう!!」

「失礼な……見ていてください、ギギさん。僕が帝国を圧倒する姿を!」

「だからギギさんって誰!?」


 たしかあの水の魔石を壊せばいいんだったな。エーリクは敵に放った岩や石が神の骸の近くにも散乱しているのに目をつけた。それらを鋭く変形させ、敵が対処する前に一瞬で巨大な魔石を刺し貫く。

 音を立ててあっけなく水の神の骸は割れた……が、まだ少し大きいか。


「なに!? くそっ……核だけは確保しろ! 撤退しつつそれぞれ迎撃!」

「了解!」


 リーダーらしき魔術師が指示すると、敵はそれぞれが割れた水魔石を手に取った。……しまった、下手な割り方をしたので攻撃手段を増やしてしまったようだ。

 敵の氷が船を形作っていく。同時に、エーリクの船を大波が襲った。


「……仕方がない」


 エーリクは魔術師であると同時に、この島で育ってきた海の男だ。瞬時に船を小型化すると、まるでサーフィンでもするかのようにその大波を泳ぎだした。


「きゅ、急に消えた!?」

「どこだ!?」


 敵はいきなり船が小さくなったので、エーリクを見失ってしまったらしい。これ幸いと彼らの元へと一気に近づく。


「そこか! ……え!?」


 エーリクは帝国の者たちをその氷の船ごと丸っと土の壁で包み込んでしまった。分厚く硬いその壁は、剣や氷ごときではどうにもできない。

 エーリクは土の魔術で好き放題しているが、本来この力は守りで使われることが多いのだ。堅固な壁はたいていの攻撃を防ぐことができる。……それで囲ってしまったのだから、もう彼らは袋の鼠だ。

 カン、カン、と中から攻撃しているらしい音がする。しかし壁はビクともしない。このまま中の彼らを文字通り潰すこともできるが──さすがに、義賊はそこまで残酷なことはしない。酸欠で倒れるのを待ってから、悠々と神の骸を回収してしまえばいいのだ。


「フッ……我ながら完璧だ。……ん?」


 星が流れる中、上空からなにかが近づいてくるのが見えた。敵かと身構えたが、聞き覚えのある声に警戒を解く。


「おーい!」

「やあ、ルージェナの騎士くんじゃないか。そちらは片付いたのかい?」

「見ての通りっすよ」


 ちょいちょい、とツィリルが足元の風の魔石を指差した。それから土で囲った謎の球体の上に佇んでいるエーリクを見て、引きつった顔をする。


「えーっと……もしかしてその土の中には……」

「お察しの通りさ。もうちょっとしたら窒息するからそれを待ってる」

「うわ、エグ……」

「失礼な。死ぬ前には解放してやるよ。……ところでキミはあの嫌な男と一緒じゃなかったか?」

「あ、その嫌な男はヤバい強敵の相手してくれてるんで。それよりこれドーゾ」


 投げ渡されたのは奇妙な模様が入った風の魔石だった。エーリクは「なんだいこれ?」と首をかしげる。


「そいつが核ってやつみたいっすよ。それ持ってると風魔術が使えないらしいんで、あんたに預ける。適当にお嬢から離れといてくれ」

「まあ別に構わないけど……」

「じゃ、おいらはお嬢のとこに戻るんで!」

「あ、おい!」


 止める間もなくツィリルは飛んで行ってしまった。エーリクは残されたその魔石を見つめる。……中の模様から、確かに得体の知れない奇妙な力を感じた。


「……なるほど。これを壊すのは無理そうだな。さて」


 今のところ奇襲は大成功だと言っていいだろう。風は確保した。水ももう手に入れたも同然。


「あの小さいのは大丈夫かな?」


 エーリクはなにげなく、土の魔石を相手にしているだろう少年が向かった方向を眺めるのだった。


なんと通算100話です。お読みいただきありがとうございます

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