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限界オタクが悪役令嬢に生まれ変わって最推しに出逢えて尊い!ので、推しの闇落ちルートを全力回避します  作者: 睦月のにこ


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第二部・王都でマスカレードが開かれました。

 翌朝。

 キャルロット公爵邸内の小さな教会の中で、祈りを捧げる青年がいた。

 最近雇われた庭師、ヨハネスだ。


「天にまします神よ。

 ……なんて、他派の教会で祈ってもな」


 ヨハネスは、青薔薇の蔦が絡まった十字架に一人毒づく。


「おはよう。朝からお祈り?

 元神父様らしいわね、ヨハネス」


 カメリアは半ば呆れながらも声を掛ける。


 何故なら、ヨハネスは元々正統な聖十字教会の神父だからだ。


 かつてのローズベル王は、聖十字教会の教皇の許可なく離婚と再婚を繰り返した挙げ句。

 とうとう国教として先祖の青薔薇の聖女を担ぎ上げた。


 王宮近くの青薔薇の聖女の亡骸と墓があるブルーシャトー大聖堂を本拠地とした、青薔薇の聖女派なる宗派を立ち上げたのだった。


 ただ、主である神や救世主を青薔薇の聖女、光の聖女に置き換えただけの信仰。国家装置。


 それが青薔薇の聖女派ブルーシャトー大聖堂教会である。


 ローズベルでは、ただ『大聖堂教会』と省略されているが。



「ここで祈った所で、誰が聞いてくださるんだ?

 青薔薇の聖女か?あんな世話の焼けるお嬢さんに?

 それとも光の?」


「現役の青薔薇の聖女、セルシアナエリーゼお嬢様は聖職に就く気はないし。

 光の聖女は……うん、前途多難よね。この国も」


「……セルシアナエリーゼお嬢様は人が良すぎる。

 教会には向いていないだろう。

 ロジーもいつまで持つか……


 聖十字の神だって、何処をほっつき歩っているのだが。

 それに異端審問官もこの国ではお休みだな。


 ドルンゲンの狂帝……こっちでは悪帝だったか?

 いつまでも野放しにしてはおけまい」


「そんな事言って。

 ねぇ、ヨハネス貴方の信じる神様って何?」



「俺の信仰する神は、ただあのお方一人だよ」


 そう言って、ヨハネスは胸元に掲げていたロザリオにキスする。

 その顔は深い絶望と憤怒に満ちた表情だった。


「……全く、怖い人。ドージェから連絡は?」


「来たさ。

 次のターゲットは……仮面舞踏会で。

 ……ん。何やら表が騒がしいな?


 またセルシアナエリーゼお嬢様が、何かやらかしたかな?

 全く世話の焼ける」


※※※



 朝イチから、お屋敷の庭園の方が騒がしいわね。


 寝室の窓から外を見ると、前線帰りの包帯だらけ傷だらけの青年が叫んでいたわ。


「愛するアニータ!

 どうか僕と仮面舞踏会に行かないか?!」


「だから再三お断りしているじゃないですか?!」


 バッサリお断りするアニータ、不憫な青年である。


「君が学園を卒業するまで、いや君が振り向いてくれるまで待つ!

 だからどうか、僕と一生を共に……!」


「迷惑です!

 そんなに動いたら傷口が開いてしまうでしょう?

 帰ってください!」



「ええと、マスカレード?

 仮面舞踏会?

 珍しい催しだわ」


 ロジーと一緒に、モーニングティーを持ってきてくれたリオが簡単に説明してくれたわ。


「アドリアーノ海沿岸国のヴェネティア共和国の元首を務めていたベルフェッティ家が、ローズベルに亡命していてな。


 せっかくだから、自国風の舞踏会を開きたいと企画したそうだ


 元はヴェネティアの謝肉祭だったかな?」


「それで、何故会場はドルシュキー家のボールルームなの?」


 リオは呆れながらため息をついて。


「おおよそ、アイツが安請け合いしたのだろう。

 あれで寂しがり屋だから」


「それにしても、また来たのね……」


 リオは感心したのか、頷きながら。


「毎日求婚に来るもんな。律儀な事だ」


「アニータとしてはちょうどいい話じゃない?」



 戻ってきたアニータは困った顔をして。


「嫌ですよ、リオネル王子!

 私は来年度学園大学の医学部に入る予定なのに。


 助けて下さい、エリーゼお嬢様。

 あの方から直々に仮面舞踏会のお誘いが来まして……」


「うん、見てたわよ。

 ものは試しに、受けてみたら……?」


「受けたら全ダンス通しで踊る羽目になった挙句、周りの目がある所で求婚されます。

 逃げ道がないじゃないですか!」




 朝食の席で。


 アレクセイ様がいらしてるせいか、心なしか朝食が豪華だわ。


 ケジャリーや、キドニーのグリル。卵料理に、冷製肉。

 マフィンやトーストはいつもより良い物を使っているわ。


 コンソメのスープが出たけれど、これって食材から何時間かけて煮出したのかしら……。


 デザートはイチゴやブルーベリーのジャムやコンポートを乗せ、シナモンとメープルシロップをかけたフレンチトースト。


 その名も、プアナイツオブウィンザー。

 凄い名前よね、貧乏騎士団って。



 それをアレクセイ様はお上品に食べながら、眉をひそめて仰ったわ。


「朝から賑やかでしたね。


 しかし、あんな反逆者の息子が軍に入るなんて。

 フィオナ新国王陛下はお優しいことで。


 ドルンゲンなら一族郎党皆殺しですよ、見せしめにね?」


 と、ガッツリと釘打たれたわ。

 けれど、その直後。


「……ところで、デザートのお代わりいただいても?」


 真顔でお代わりの催促をして、追いメープルシロップも頼んでいたわ。


 アレクセイ様、気に入ったんかい。



「そういえば、本日ヴェネティアの仮面のお祭り、マスカレードがあるそうですね。

 興味があるな。


 よろしければ僕と一緒に見物に行きませんか?

 あまりこういった異国に出た事がなくてね。


 ああ、麗しい侍女の貴方も。

 もし良かったら、一緒に是非」


 こうして急遽、アレクセイ様をマスカレードに案内する事になったのでした。


 その瞬間、カメリアが竦み上がったのは何故かしら?




 マスカレードパレードが開かれた王都ブルーシャトーへ繰り出したわ。


 流石に冬だから薔薇の季節ではないけれど、公園や庭先でパンジーやビオラ、水仙、スノードロップなどが目を楽しませてくれる。


 私、王都の道案内役のロジー、お目付け役として付いてきた侍女のカメリアはちょっと裕福な商家のお嬢さん風のドレスを着たわ。


 リオと、アレクセイ様は非番の騎士風。格好良いわね。



 それにしてもアレクセイ様のスタイルというか、ガタイが良いわね。


「アレクセイ、やはり軍人だな。よく鍛えてるな」


「そうですよね!

 鍛え抜かれた身体はアタシ憧れます!

 アレクセイ様!」

 


「えぇ?そうですか?

 日々のトレーニングのおかげでしょうか?


 お褒めいただき光栄ですが……

 なかなか、気恥ずかしいものですね。


 あと、名前呼びは不味いかと……

 こちらのアレックス、アレクサンダーなんてどうでしょう?」


「なら私の事は、リヤとお呼びください」


 と、カメリアも言い出したわ。



 それにしてもパレードの迫力が凄いわね。


 鳴り止まない鐘の音、多くの拍手と歓声。


 王都を貫く大河に、意匠を凝らした船が行き交うわ。

 仮面を付けた女王が王座に座る船、オーケストラを奏でる船、舞踏会の様にワルツを踊る船……。



 王都の大通りでも、黄金の仮面と船を模した山車が幾つも大通りを通っていく。


 中には黄金の翼獅子が先頭の山車もあるわ。


 その上で、白い孔雀の羽をまとった貴婦人達がレースの扇を優雅に扇いでいる。


 中世近代のボリュームのある優雅なドレス、きらびやかな仮面、装飾の凝った扇……。

 男性も昔の貴族の格好をしていて、とても面白いわ。


 動物の仮面をした軽業師が、軽い身のこなしで大通りを飛び跳ねていく。


 各家から祝祭を祝う色とりどりの帆布が風にたなびく。

 ヒラヒラと宙を舞う紙吹雪が、非日常を彩るわ。



 広場に出ると、楽団に、歌姫、ダンスパフォーマー、手品師、喜劇の小舞台もあるわ。


「賑やかね。まるでロマンティックな異国の様だわ」


 なのだけれど、●浜の某夢の国リゾートを思い出すのは何故かしら。それも海の方。


 流石にポップコーンやチュロスの売り場はないよね……。


「ねえ、エリーゼ様!リオ様!

 リヤと、それにアレクセイ様……いえ、アレックスも。

 せっかくだからヴェネティアンマスクつけましょうよ!」


 露店には杖や扇、仮面がズラリと陳列されているわ。


 ロジーは薔薇の花をモチーフにしたコロンビアーナというハーフマスクを。


 私は蝶をモチーフにしたマスクと、ふわふわの扇を買ったわ。


「わぁ!エリーゼ様素敵です!」


「ありがとう、ロジー」


 ……くすん。誰もこれを選んだ理由を突っ込んでくれないわよね。

 元ネタは、●々夫人ではないわよ。


「ねぇリヤ?もう少し可愛いのにしない?」


「いえ、わたしはこちらで結構ですわ」


 カメリアったら既にフルフェイスの仮面、バウタを付けているわ。


「リオ……?

 なんでアノニマ……いえガイ・フォークスのお面なの?」


「何となく、フルフェイスだから」


 もう身分や顔を隠さなくても良くなったはずでしょ?


 アレクセイ様はメディコ・デッラ・ペステの仮面、つまりは。


「アレクセ……アレックスも、何故ペストマスクを?」


「ええ?これがそうなのですか?

 なかなかカッコいいなって、僕は思って……」


 たまに天然なのよね、アレクセイ様。

 ちょっと死神みたいで禍々しいです、なんて言えないわよね。


 カメリアがボソリと。

「……趣味がちょっと変わっているのは相変わらずなのね……」


 と、呟いたけれど、何の事かしら?




 飲食店や屋台ではアドリアーノ海の食べ物……例えばピッツァやパティスリー、パンナコッタ、ビスコッティ、クロスタータなどが提供されているわ。


 でもパスタは無いのよね。あれは庶民の食べ物って位置づけらしいわ。

 カルボナーラも炭焼き職人が由来なぐらいだものね。


 でもイカ墨パスタぐらい食べさせてよ。

 流石に明太子パスタは無理よね……。


 パネトーネが売ってる。あれ結構好きなのよね。

 ジェラート屋さんも!

 せっかくだし、買おうかしら?



 なんて、ふらふらと街ブラ見物しながら歩いていると、石畳に躓きひっくり返りそうになったわ。


「セルシアナエリーゼ嬢、危ない!」


 慌ててその手を伸ばし、抱き寄せて私を助けてくれたのはアレクセイ様だったわ。


 アレクセイ様の腕の中に、すっぽりと私の身体が収まってしまう。


 男性特有の胸の厚みと、温かな体温。

 アレクセイ様の香りに包まれて、安心感を覚えてしまうわ。


 その直後、馬車が背後を通っていったわ。

 本気で危なかった……!


「全く、危なっかしい方ですね。貴方は。

 僕の側に」


「アレクセ……いえ、アレックス、ありがとうございます。

 助かりましたわ!」


 思わず、腰が抜けそうになる私だったわ。


「お嬢様、お怪我はありませんよね?」


 カメリアは血相を変えて私の身体に怪我が無いか確認してくる。


「アレックス!他人の婚約者に何を……!」


 リオが抗議して、私をアレクセイ様から引き離して抱きしめてきました。

 アレクセイ様と比べるのは悪いけれど、リオってだいぶ華奢よね……。


 何よ、この展開は。乙女ゲーか?

 乙女ゲーの世界だったわ。


 だが、言わせていただきたい。

 そういう乙女ゲーイベント仕草は次作ヒロインにやって。

 私は前作の悪役令嬢で、もうモブキャラなのよ。



「確かにこの雑踏だと、疲れちゃいますよね……。

 あ!例のティールーム発見!

 少し足を休めましょうよ」


 ロジーがティールームに吸い寄せられていくわ。



 お店の中に入ると。


「いらっしゃいませ……

 あら!オーナーのセルシアナエリーゼ様!」


「はぁい、セリーヌさん。お店の方はどう?」


 そこにはティールームを切り盛りしているセリーヌさんがいたわ。


「なかなか順調ですね。

 特に、フィオナ新国王陛下の戴冠式に合わせて、スペシャルブレンドの茶葉を発売したら売り切れ続出で!


 こんな一等地で、これほどの規模のお店を、ウチのフォレスティエ商会が経営出来るだなんて!

 これもセルシアナエリーゼ様のおかげです!」


 はい、そうです。

 私、新生フォレスティエ商会のオーナーで、このティールームの出資者となりましてよ。

 経営の方はセリーヌさんにお任せしていますわ。


 フィオナ国王陛下、ウィンデール様はもちろんフレイ様、まさかのエルレン様も出資者として協力してくださったのよね。


「今日はマスカレードで特に混んでますので、よろしければ奥の個室へどうぞ」




「このティールーム、品揃えが凄いですね。

 各種の紅茶はもちろん、極東の島国の抹茶、緑茶、ほうじ茶や、清国の高級烏龍の茶葉、ハーブティーまで取り揃えていらっしゃるなんて」


 紅茶のシフォンケーキと、チョコチップスコーンをモグモグと食べながらアレクセイ様が仰るわ。

 この紅茶のシフォンケーキとチョコチップスコーン、私の提案で開発中なのよね。


「エルレン様……共同出資者の一人が、抹茶や緑茶が好きだったので……

 そうだわ。開発中の抹茶のフィナンシェもいかがですか?」


 エルレン様が、まさかの浮世絵コレクターだったのにはびっくりしたわ。抹茶がお好きだとか。

 おかげさまで、東洋のお茶が好きな方々からご好評いただいているのよね。


「大量のバターに砂糖……異国の高級な茶葉。

 なかなかに贅沢な文化ですね。


 戦争とは無縁だからこそ出来るのですかね?

 ……それとも、その逆かな」


 アレクセイ様の物言いに、少し身じろいでしまいましたわ。

 私の手に持つティーカップや、紅茶も少し波立つわ。


 提供された紅茶は、フィオナ新国王の戴冠式限定の茶葉で、ダージリンをベースとした特別ブレンド。


 華やかな香りとは裏腹の濃厚な重さが、今の私の心に引っかかるわ。


「アレクセイ、口が過ぎるぞ」


「……むう。少し食べ足りないですね。

 お代わりいただいても?

 紅茶はオレンジのフルーツアイスティーで」


 アレクセイ様、やっぱり気に入ってたじゃないの。




 このティールームには、美味しいと評判のチョコレートのお店も併設している。

 そちらに移動して、チョコの出来栄えを視察する。


 そういえば前世のこの季節だと、バレンタインデーよね。


「リオ、ミントとチョコレート好きよね?

 はい、プレゼント」


 そう言って渡したのはチョコミントである。

 まだ試供品段階のものだけれど、スタッフにはウケがいいのよね。


「ありがたくいただくよ。

 君のプレゼントなら何でも嬉しい……」


 大げさね。前世でも画面越しにバレンタインデーのチョコをあんなに渡したのに。

 食べるのは私だったけれど。


「ロジーにも。こっちはイチゴ味のチョコよ」


「わあ!ありがとうございます、エリーゼ様!嬉しいです!」


 ロジーにも。友チョコだわ、これ。



 一方アレクセイ様は。


「そうだ。麗しの侍女の君も何か食べるかい?

 どの様なチョコレートがお好きかな?」


「……いえ、結構ですわ」


「そう言わずに。貴女の名前を聞いても?」


「……皆はリヤ、と呼びますわ」


「ではリヤ嬢。

 ホットチョコレートでもどうです?


 すいません、ホットチョコレート2つ」


 アレクセイ様が侍女のカメリアにも気を利かせているわね。

 カメリアってば、なんでそんなに頑ななの?



 お店から出ると広場の一角で、演劇が演じられていたわ。

 今流行りの劇ね。

 疑り深い将軍と、清廉な姫の恋物語だわ。


「素晴らしい舞台だったね、リヤ嬢?」


「えぇ。素敵でしたね。アレックス様。

 ……何故、わたしばかり構うのですか?」


「……そうですね。

 愛しい彼女の面影を感じるから、かな?」


 アレクセイ様が寂しそうに呟く。


「あぁ、彼女と来たかったな……」


「アレックスさん、彼女ってどなたです?」


 恋バナ大好きなロジーが、ワクワクした様子で聞き返す。

 カメリアがソワソワと妙な挙動をしているわ。


「僕の婚約者だったんだ。

 幼い頃から一緒に黒い森で遊んで……


 僕からプロポーズして、婚約して……当然の様に結婚出来るものと思っていたんだ。


 なのだけれど、それは国内の大人達の都合、戦争や内乱で立ち消えてしまった。


 今でも、生き別れになってしまった彼女を探しているのだけれどね。


 なかなか見つからなくて……もう、手遅れかも知れないな」


「なにそれ素敵……!」


 ロジーが感極まってますわ。


 だからそれって、次作ヒロインの事ですよね?!


「アレックス、よろしければその話もっと詳しく!

 なんなら私達がそのご令嬢を探し出すお手伝いをしますわ!」


「えぇ、いいんですか?嬉しいな。

 こんな僕の恥ずかしい身の上話に……

 ありがとうございます」


 顔を真っ赤にして、はにかむアレクセイの微笑み。


 その時、あまりの尊さに私の脳が焼ける音がしましたわ。


 


 その背後でカメリアが。


「……バレちゃう助けて。ヨハネス……!」


 と、小さな悲鳴を上げていたなんて気が付かなかったわ。


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