外伝・ウィンゼル様とシスター・セリーヌのためにパフェを作りました。
「それで、ウィンゼルとシスター・セリーヌっていつ結婚するんだい?」
あの一件の後。
国王陛下になられたのに、王宮に詰められるのが嫌で、キャルロット公爵家に逃げ出してきたフィオナ陛下。
ウチに遊びに来ていたセリーヌ・フォレスティエ嬢と、陛下を連れ戻しに来た風の貴公子ウィンゼル様が鉢合わせしてから、すぐの発言よ。
ちなみに、光の聖女ローズティアは、実家の……正確にはご近所の方で、やらかした妹のキャスリーンさんの事で揉めてしまい、ご実家から離れているのよね。
教会の方でも聖女と、そのやらかした妹さんの取り扱いについて揉めているとも聞くし。
それで学園の学費のために、何故かウチの公爵家でメイドとして働いていますわ。ロジーったら、聖女なのに何故?
「フィオナ陛下が気にかける事でもありませんよ。
この事はキチンと父上と話し合います」
「ウィンゼル、でも旦那様がお許しになるはずが……」
なにやら揉めている様子ね。
「あの二人、難航しているみたいね」
「……まあ、あの二人は大丈夫じゃないかな」
フィオナ陛下がボソッと言う。
「陛下?どうしてですか?」
「フォレスティエ商会が無くなった時、その才能を惜しんで、ウィンゼルの父君だけでなく、父上も悔しがっていたからね。
ならば、上手くすれば、ウィンゼルにフォレスティエの名を継がせるかもしれない。
その方がウィンゼルにとっても良い事なのかも知れないな」
「殿下……?笑みが大変悪うございましてよ?」
フィオナ殿下がすっごい悪い笑みを浮かべてらっしゃるわ。
「兄上、まさか、諸侯にゴリ押しして結婚させるつもり……」
「エリーゼ、リオネル。王宮でちょっとしたお土産を作ろう。
何、バニラビーンズを使ったカスタードプディング。あと、あの青薔薇一株でいいんだ」
株って。根っこごと持っていく気だわ。
そして王宮の厨房へ。
「フォレスティエ家は、貿易商の成り上がりでね。
主にバニラビーンズや香辛料を扱っていたんだ
主に王宮や貴族に卸していたんだ。
まず話を通さなければならないのは、ロゼ女公爵、グリーンアイル家の当主ウィンゼルの父親」
「お二人は甘い物がお好きなの?」
「好きだと思うよ。ロゼ公爵に関してはアフタヌーンティー好きで有名だから」
「でしたら、殿下。名案がございますわ」
「まさか、エリーゼ。
君が厨房と私の氷魔法を借りて、氷菓子を諸侯に披露するなんて」
「やはり駄目でしょうか?」
「うーむ、まあ、部下は私の顔があれば大丈夫だろう」
「まず、卵黄を三つ、グラニュー糖と混ぜます」
「白身は使わないんだな」
「卵黄を使わないラング・ド・グシャや、フィナンシェ、メレンゲ菓子もついでに作ればいいんじゃないかな?」
「次に、ミルクにバニラビーンズとさやを入れて、弱火で沸騰するまで煮立たせます」
「沸騰させないんだね、難しい」
「二つの液体を混ぜます。
漉し器を通してお鍋に液を入れます。漉し器がなければザルでもOKよ」
「……ザルとはなんだ?エリーゼ姉上」
「液をお鍋に入れて弱火にかけながら10分混ぜます。焦げないように注意。これがアングレーズソースね」
「10分混ぜるのも大変だね」
「粗熱をとって、生クリームと混ぜます……生クリームってこの世界にある?」
「冷蔵冷凍が魔法で使える所は使っているよ。
例えば私みたいな水や氷の魔法を使える者がいると……高頻度で冷蔵庫代わりに使われるんだ。
そう、この王宮だと私がね」
「そうだったのですか……いつもお疲れ様です。
次は氷水に生クリーム入りアングレーズソースを入れたボールを、氷水に付けて撹拌する作業なんですけれど、時間かかりますよ?」
「それこそ私の出番だろう?
冷やしながら撹拌する魔法を開発したんだ。
アイストルネード!」
「兄上陛下、お見事です」
「ふふふ、国王手づからアイスクリームを作る国なんて……ウチぐらいなものだろうなぁ」
お菓子作りが趣味な将軍様でしたら、いましたね。前世に。
……思ってたより、苦労させられてない?フィオナ国王陛下。
王宮の一室に、スターリングシルバー公爵、グリーンアイル卿を呼んで。
「スターリングシルバー公爵、グリーンアイル卿、折り入ってお願いがございます。」
「ほう、国王陛下が直々に珍しい。
なんだね?言ってみなさい」
ロゼ女公爵、お父様と婚約解消してからしばらく独り身だったらしいけど、最近結婚なさったのよね、お美しい方だわ。
頬にバッテン傷ついてましてよ。お父様に振られた腹いせで戦場でこさえた傷らしいですわ。
「先日、行方が分からなくなっていたフォレスティエ家のご令嬢が見つかりました。
修道院でシスターとなっておりまして、ウィンゼルが後見を務めております」
「何と!良かった。フォレスティエには世話になったから心配していたのだよ」
「つきましては、ウィンゼルとフォレスティエ令嬢を結婚させ、フォレスティエ家及び、フォレスティエ商会を再興させてはいかがでしょうか?」
「なんと、商会を?」
「ええ、フォレスティエ商会は南方の香辛料を主にした海外貿易のエキスパートです。
再興するにあたり、資金を王宮から提供し、ここで恩を売っておけば、こちらから経営に口を出しやすくなりますし、後々国有化するのにも有利かと」
なんだか、企業買収を狙う大株主みたいな話になってきてるわね。
セリーヌさんが海外貿易に通じてるかまでは今の所分からないと思うけどなー。
ちなみに、ここまでグリーンアイル卿、だんまりよ。ウィンゼル様に気難しいとは聞いていたけれど。
「エリーゼ」
「はい、こちらがフォレスティエ商会の商品の一つ、バニラビーンズを使ったカスタードプディングと、バニラアイスクリームです」
「バニラビーンズ?」
ロゼ女公爵は銀製スプーンを手に取って、まずはアイスから食べ始めた。
「何と素晴らしい香りと、濃厚な味わい……他の材料は?」
「ミルクと砂糖、卵にございます」
「むぅ、それだけか」
「レシピはエリーゼが異国の本で見つけたものですが、あまり広まってはいません」
正しくは前世の料理番組です。
「ふうん?君がロベルトとマリヤカトレアの娘か。大層ヤンチャと聞いているが」
ケラケラ笑うロゼ様。
「他にも、幾つかご用意しました。
カカオを混ぜ込んだチョコレートアイス、紅茶、ベリー、ミント、そして我が国特産の薔薇のジャムを混ぜ込んだものです」
「ほうほう、こんなにも違う種類のものが作れるのか」
「そして、これらを組み合わせると……」
アイスクリームやカスタードプリン、チョコレートソース、スポンジケーキやドライフルーツ、オーツ麦シリアルで作ったパフェを献上する。
「なるほど、これは面白い!」
「ええ。これを王宮の晩餐会にお出ししすれば、必ずや王侯貴族のご夫人方がこのデザートやバニラを求めるでしょうね」
「このバニラの香りは香水としても良いのです。王宮御用達にして、そのブランドで売り出せば……」
だんだんフィオナ国王陛下がやり手の営業さんに見えてきたわ。
「むうぅ……」
「それに、このカスタードプディングは、食事も取れなくなったリオネルの命を救ったとやエリーゼから聞き及んでおります。
この件を承諾していただけた暁には、青薔薇の聖女が編み出した、ブルーローズである神と精霊との契約の苗木もお付けしましょう」
「リオネル王子の……そうだったのか。
ふむ、内務大臣はまだいるかな。呼んでくれ。少し検討してみよう」
ちょうど居合わせたお父様も巻き込んで、ちょっとした幕僚会議となってしまいましたとさ。
あと、やっぱりグリーンアイル卿は一言も話さなかったわ。
何故って一生懸命アイスクリームやパフェを食べていたからです。
後日、ウィンゼル様から生徒会のサロン室に呼び出されました。
そこにはセリーヌさんもいらっしゃったわ。学園の学生服を着ていて、とても似合っていましてよ。
「その、フィオナ陛下。リオネル王子。お嬢。改めてご報告を……。
セリーヌとの婚約が決まりました。
父上や公爵家からの太鼓判までいただき、俺が婿養子としてフォレスティエに入る形で、フォレスティエ家とフォレスティエ商会を再興する事になりました。
改めてご挨拶とお礼を申し上げます」
「父が一代で成した財が認められただけの、一代限りの名誉貴族でしたのに、こんな厚遇まで……なんだか申し訳ありませんわ。
本来であれば身分の低い私は、ここには来れない身なのですが。
今回特別にと学園の……こんな特別な所にまで。
本当にありがとうございます」
「セリーヌ嬢、そんな事言ってはいけないよ。
君の父上が今もご存命であれば、君もこの学園に通えた筈なんだ」
「うん?エイガス先生に、フォレスティエ嬢の入学なら条件が揃っていると聞いたが」
「……ええ、本当に?私が、学園へ?」
「一年遅れにはなるが。寮も整えている。良ければ願書を取り揃えるが、来るか?」
「……はい、正直気後れしますが。是非」
「父は貿易商で、東方はお茶を、南方のバニラやカカオ、胡椒など香辛料を取り扱っていましたのよ?」
「うん、それでウチとも王宮とも懇意にしてたんだよねー」
「皆さんは流石にご存知でしょうけど、父のフォレスティエ商会は悪どい商法には一切加担していません。
現地人を従業員として育て上げ、子供達には教育を施し、生活が成り立つ給与を支払っております。
決してあの商売敵達の様に奴隷貿易なんて加担してませんわ。
そもそもウチの商会の船は密輸出来るほど大きくありません!
大体、ウチは資金繰りに苦労するほど貧乏でしたもの!」
おお神よ!ありがとうございました!
「やった!婚約おめでとう!結婚式はいつ?」
「何言ってるんですかお嬢、当分先ですよ。
まず俺とセリーヌが学園卒業して、商会の仕事を安定させないと。3〜4年かかっちゃうかなぁ」
「……それで、俺らの為に陛下を買収したっていう、例のアイスクリームとやらは食べさせてもらえるんですかねー?」
「ウィンゼル?
それはウチの宮廷料理になる予定のもので、君がおいそれと口に出来るものではないんだよ?」
「ふふっそんな事もあろうかと思って、学園の食堂で働いているシェフに作ってもらいましたわ。
そろそろローズティアさんが持ってきてくれるはず……」
「皆様お待たせしました。
こちらバニラアイスクリームパフェと、チョコレートアイスクリームパフェでございます」
「ローズティアさんありがとう、一緒に食べましょう」
「いいんですか?やったー!」
「本当におめでとうございます!ウィンゼル様、シスター・セリーヌ様!」
推しカップルと皆で食べるパフェ。とっても美味しいわ。
少し塩っぽい涙の味もするけれど。だって宿願叶ってガチ泣きしてるからね。
ゲームシナリオ通りであれば、お互いに想い会いながらも、死に別れてしまう悲恋になるはずだった二人。
私は、仲睦まじく笑い合っているウィンゼル様とセリーヌさんを見ていると、この選択をして後悔しなくて良かったと思っているわ。
「末永く幸せにね!」




