外伝・セシリー嬢とエイガス先生の事情
あれから、二年とちょっとたって、卒業間際。
珍しく、リオと喧嘩してしまったわ。
少し一人で学園のローズガーデンで本でも読もう。
頭を冷やそうかな。
……美しいはずの花の色や、香り。
前はあんなにもきらめいていたのに、どうしてこんなにも色あせて見えるんだろう。
リオがいないだけで、なんでこんなに楽しくないんだろう。
「セルシアナエリーゼ様?こんな所にお一人で。
どうされたのですか」
「セシリーさん……」
「まるで迷子のような顔をしてらっしゃいますわね」
「私には難しい事は分かりませんが……悩む、迷う事は、そんなには悪くない事ですのよ?
セルシアナエリーゼ様のお好きなようになされば良いと思いますわ」
「でも」
「セシリー、ここにいるのかい?」
珍しいわ。エイガス先生がセシリーさんに声をかけてきましたわ。
「担任のエイガス先生?」
二人とも、挙動不審になるなんて。この甘い雰囲気はなんだか怪しいわ。
「ひょっとして、エイガス先生とセシリーさん。
付き合ってらっしゃる?」
「え?!いえ、そんな関係ではないです!」
「ちょっとエイガス先生!酷いわ!散々お付き合いしましょう、婚約しましょうって言ってるのに!」
「駄目です!
あの、セルシアナエリーゼ様?
セシリーの名誉のために言いますが、僕たちお互い清いままですからね?
これでも僕は元聖職者だったのですよ?
彼女とは卒業して、大人になってから……まずはお友達としてのお付き合いから、ね?
まあ、その頃にはセシリーに飽きられてしまうかもですね……」
「なんでそんな事言っちゃうのよ、エイガス先生!」
へー、エイガス先生ってそうだったんだ。還俗したのかしら?
すると、セシリー嬢は観念したかのように。
「あの、エリーゼ様。その節は大変申し訳ありませんでした。
リオネル王子とセルシアナエリーゼ様の熱愛の噂、ご迷惑でしたよね?
実は、あの時からわたくし先生の事が好きで。
片思いでしたけれど、わたくしたちは文通をしていて。
なのに、わたくしたちの関係を嗅ぎ回っている方がいて……」
「ああ、目眩しというか煙幕代わりに、リオと私の熱愛話を使った、と?」
「はい。本当に、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「気にしてませんわ。
むしろあのおかげでリオとの距離が近くなりましたもの。
……秘密の恋、ナニソレ尊……」
「ふふふ、セルシアナエリーゼ様も一つや二つ、秘密や隠し事おありでしょう?」
ギクッとする。転生者だとバレたかしら?
「実はね。僕は、教皇様の隠し子ってやつなんです」
「……えっ」
重くない?その話、いきなりぶっ込む?
「そう、お恥ずかしながら愛人との間の子どもでね。 本来であれば……こんな所で教師なんてしてはならないのだけれど、結構な魔力があったからね」
教皇様の息子さんと言えば。
「それじゃ、エルレン様とは……」
「弟ですよ、腹違いの。
あの方には妾から産まれたと、毛嫌いされていますが。ははは」
「そんな、先生は立派な方です!
生まれなんて関係ありません!」
「そう言っていただけるなんて、誠に光栄です。
公爵令嬢セルシアナエリーゼ様。
でも残念ながら、世間は貴女のように高潔ではないのですよ。
私、なにせハーフエルフなんですよ。
エルフほどではないのですが、長命で。
実は年齢感覚で言うと、君達とさほど変わらないんですよね。
セシリーも同い年感覚で。
駄目ですよね。
先生と生徒なんだから、線引きしないといけないのに」
「なんですと……!」
とんでもねぇ美貌の担任だな?とは思っていたけど、ハーフエルフ!
そんな隠し設定があったとは!
「ははは、父上もやってくれましたよねー。
醜い好奇心、侮蔑、嘲笑……子供の頃から散々受けてきましたが。
まあ慣れとは怖いですね。
もう何とも思わなくなってしまった。
受け流して、父の名声を上手く利用して、ここまで何とかやってこれました」
エイガス先生は苦笑する。
「きっと、それはリオネル王子やフィオナ殿下も同じはずですよ」
「わたくしの兄は幼い頃から殿下の従者としてお仕えしております。
だからこそ、フィオナ殿下リオネル王子、お二人を支えてくださいませ」
何故か私、セシリーさんに、念入りにお願いされるわね。
「実はね。わたくしたち、ようやく婚約まで漕ぎ着けそうなのよ。お父様とお母様を説得出来そうで」
「こーら!それはまだ先の話だろ?
まずは卒業して、お友達としてのお付き合いから。
そもそも、セシリー。君の身体はまだ出来上がっていないのだからね……無理な行為などしてはいけないよ。
そういう約束だろう?いいね、セシリー」
「もう、エイガス先生ったら!
身持ちの固いご婦人じゃあるまいし」
「……何それ尊い」
「うふふ、その口癖、よく呟かれてますよね」
「えっ本当?自重してるはずなのに」
「でも好きだわ。エリーゼ様のそのお言葉。
……この婚約、わたくしのお父様もお母様も猛反対していたの」
「それは大変でしたね。心が痛かったでしょう?」
そら、そうでしょうね。
当人たちは良くても、大スキャンダルにされかねないもの。
「……いくら貴族とはいえ田舎の育ちの小娘と。
本人の非のない所で蔑まれる教師の関係を祝福してくださってくれるようで……」
「きっとセシリーのご両親は、いつかセシリーが僕より先に老いて先に死んでしまうから……心配してくださったのですよ。
そういうコンプレックスと捉える方もいますし、長命種と短命種の溝は、思ってるよりも深いのですよね……」
「それでも、わたくしはエイガス先生に寄り添いたいのです……!」
「尊いは祝福……?とは、若干ニュアンスが違うのよね。
お二人が結婚なさるなら、全力で応援したします所存ですわ……!
いえ、その前にお二人のためにこの件は黙秘しますわね!」
なお、キャッキャウフフと騒ぎ立てている私を探しに来たリオに一発でバレ、お叱りを受けました。




