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限界オタクが悪役令嬢に生まれ変わって最推しに出逢えて尊い!ので、推しの闇落ちルートを全力回避します  作者: 睦月のにこ


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舞踏会のドレスの採寸をしました。

 早朝。ウチのキャルロット公爵家のお屋敷に、嵐の様にやってきてリオを連れて去っていったロナウド様とドルシュキー家の騎士たち。

 それと入れ違うように、今度は教会からの一頭立ての馬車がやってきたわ。こちらは流石に裏口からだけれど。


「失礼する。教会の使いです。セルシアナエリーゼ様はいらっしゃいますか?」


 聖職者の黒衣に、礼拝堂で見かけるよりも少しだけ粗野な雰囲気ね。

 しかし、銀糸の髪とそのアメジストの瞳は相変わらず、光の加護を映しているようだわ。


 その額には一筋の汗が流れ、青白い顔には普段にない切迫感が宿っているわね。


「……エルレン様?」


「ごきげんよう、セルシアナ・エリーゼ様。

こんな朝早くに申し訳ありません。

だが……時間がないのです」


 彼は言う。低く、抑えた声で。


「このままでは、貴女は……処刑される。ありもしない罪を被せられて」


「……知っていましたの? どこからの情報です?」


「これは本来、公開してはならない話なのですが、ドルシュキーの家に仕える使用人からのリークがありまして……」


 エルレン様は静かにフードを外しながら続けたわ。


「いえ、すべてを知っているわけではありません。だが、貴女が何かに抗っていることだけは、ずっと感じていました」


 その時、フレイ様の声が響く。


「俺も賛成だ。むしろこの為にお嬢の所へ来たんだ。

 逃げちまえよ、王宮なんてクソみたいなこんな所なんかさ。

 権力の為になんだってやる伏魔殿だぜ?


 清貧だけど、規則正しい生活、道徳倫理感のある教会や修道院で、心穏やかに暮らす方がよっぽどマシだ。

 折を見て、世俗に戻って結婚したっていいんだしさ」


 エルレン様は重々しく口を開く。


「……来てください。すぐに。セルシアナエリーゼ様、どうか教会へ。

 貴方は青薔薇の聖女の正統な末裔です。その血を絶やすのは惜しい。


 ドルシュキー家は王位簒奪を目論んでいます。

 きっと正統な王家の血を継ぐキャルロット公爵家の貴方達にも害が及ぶでしょう。

 私達がお守りします。その血脈も……」


 血脈?つまりエルレン様と結婚するって事?悪役令嬢と?


 エルレン様は、懐から一枚の手紙を差し出す。


「これは、亡き聖女の遺言です。“もし、私の子孫がかつての轍を踏むならば……連れ出してあげて”と。


 私は、貴女の魂が焼かれる様を、見ていられない」


 私は、そっと手紙を受け取ったわ。手が震えてしまうのは仕方ない。実際怖いもの。


 それでも私は、静かに首を横に振る。


「……ありがとう、エルレン様。でも、私は王宮に、舞踏会へ行きますわ」


「何故ですか!? 貴方の命がかかっているのですよ?」


「リオが囚われているのよ。

 私の大好きなリオネル王子が無実の罪で。

 なのにそれを企んだドルシュキーは無罪放免?法治国家としてはこんなのあり得ないわ。


 私ひとり逃げたって、きっと死ぬ程後悔するだけ。

 ……私が、リオが殺されるのを黙って見ていられないの。私が納得いかないから。誰かが声を上げなきゃ、それも上手くね。

 それが理由では、駄目?」


 何故リオネル様があんな死を遂げなければならなかったのか。

 ギリギリまでその真相を知りたい、首謀者を突き止めたいと思うのは、人の業なのかしらね?


 まあ、またの名をギリギリまでゲームシナリオ通りに進めたい前世限界オタクのエゴとも言う……。


「……それに、私の助けを待っている方がいるのです。私を信じて。

 きっと今も王宮で一人、戦っているのよ。あの方を助けにいかなくちゃね」


 エルレン様はしばらく黙ったまま私を見つめた。

 そして、寂しげに、それでいてどこか愛おしそうに微笑んだわ。


「全く、貴方という方は……。

 誰かを救うために、自らを差し出す……その美しい生き様に、私は何度も貴方に心を奪われてしまう」


「あの、エルレン様?今なんて仰いまして……?まるで私の事好きと……」


 廊下から鈴の転がるような若い女性の笑い声が聞こえたわ。

 その声は聞き覚えのある人物のものだった。


「ふふふっまるでロマンス小説じゃないの。

 なかなか威勢のいい事ですこと。

 王族の血を引く公爵家の深窓の令嬢とは思えませんね」


 にこやかなのに、眼光鋭い商人。セリーヌ・フォレスティエ。

 そう、昨日教会で知り合った、シスター・セリーヌがここにいた。


「どうも、フォレスティエ商会です。うちの元部下が、セルシアナエリーゼ公爵令嬢にたいへんお世話になりまして」


「セリーヌさん?どうしてここに!」


「部下がお世話になりましたので。ほら、あのキーマカレーの連中。

 あとは、レダをの事も。あの子は半分自業自得だと思うけれど、一応ね。


 ですので、お礼に舞踏会のドレスの採寸に参りましたの」


「舞踏会って……今晩の!?

 そんな、今からオートクチュールを仕立てるなんて到底無理よ!それにドレスの生地だって、きっともう買い占められたり、購買拒否されるんじゃ……」


「ご安心を。父が極東の島国から買い付けた伝統衣装がございます。キモノ、という衣装です。

 これを、最速でドレスに仕立て直しますわ。いけるわね?フォンテーヌ」


「はい、セリーヌさん!

 シワやシミのある部分には刺繍を入れて繕いましょう。

 今、公爵家に避難してきている非番のお針子仲間も声をかけてみます!


 それにしても布の地紋が美しいわ!ドレスに仕立てるのが楽しみだわ!

 それでは、まず採寸をっと……」


「……えっえっなんで?

 あの、ここ食堂だからせめて 私の部屋に移動しましょ?朝食も取っていないのよ?

 それに、ドレスだなんて。どなたが頼んでくれたの?」


 困惑しながら私が口にすると。


 ウィンデール様が遠慮がちに手を挙げたわ。


「ははは!やっぱ面白いなぁ、君は。

 えっとね?エリーゼお嬢……実はオレが頼んだんだよ〜」


「ウィンデール様?!どうして、あなたが」


「ふふん、オレに感謝してね〜?な〜んて……


 こんな時に、ふざけてなんていられないかな。


 キャルロット公爵家令嬢、セルシアナエリーゼ様。

 長いあいだ行方知れずだった俺の大切な人を、見つけ出して、モンスターから守ってくださって、本当にありがとうございます」


「ちょ、ちょっと!

 ウィンデールお坊ちゃん、やめてくださいよ。

 大袈裟ですってば!」


「……セリーヌは、俺の幼馴染で初恋で、婚約者だったんです」



 初恋?幼馴染?尊い?!……えっ!?何それ最高か?……と叫びたい気持ちを腹に飲み込みつつ。


 ……いけない……やっちゃったかも。

 セリーヌ・フォレスティエって、ウィンデール様の生き別れの婚約者の名前じゃない!?

 実は、密かにこのカップル推してたのよ……尊いから!メジャーじゃなくても!いいじゃない!


 しかも確か、ゲーム本編じゃモンスター騒動で、死ぬ予定だったはずじゃ……?


 まさかの実は救済ルートがあった、とか?……公式はやはり神ですね?!

 いや……私……ゲームシナリオねじ曲げてないわよね?公式であって!お願い!


 脳内はテンションが勝手に乱高下してるけど、顔は美しく微笑んでいましてよ。

 それが貴族ってものなのよ。悲しいけれど。


「……よっしゃ!とりあえず今日はお赤飯ね」


「お嬢、オセキハンって何?それ美味い食い物なのか?」


 優しく突っ込んでくれるフレイ様。やんわり過ぎる。

 手厳しく「何をアホな事を言っているんだ?」と突っ込んでくれるリオがいないとね。


「行商人の父は敵も多かったから、私が死んだことにしておいた方が都合が良かったのです。


 全く、ウィンデールお坊ちゃんも付き合い長いんだから、それくらい見抜いてくれても良かったのに」


「悪かったよ、探しに行けなくてさ〜。殿下が離してくれないんだもん〜」


 ふふ、やはり生のウィンセリの摂取、最&高!

 この恋、絶対に成就させてみせるわ!

 結婚式と就職の斡旋ならウチの領地の範囲内ならいけるいける!

 いや、絶対成就させろ、世界。もちろん公式も!なんて念じていたら。



「旦那様!お嬢様!これを!」


「ブルーローズ……!?まさか、魔法!?」


「馬鹿なことを言うんじゃない!こんなものが魔法のはずが……」


「いえ……その、庭師が偶然見つけたそうで」


「やはりね。どこで?」


「お嬢様の部屋のそばの温室で、咲いていました」


「品種は?」


「“神と精霊の祝福”です。確か、キャルロット公爵家にしか無い、極めて珍しい品種と……」


 お父様は一瞬、宙を仰ぎ、ひとこと呟いた。


「ご冗談を……お婆様!何でまた、こんな時に……」


 それは嘆きなのか、怒りなのか、判別がつかなかった。


「エリーゼ。これを持っていきなさい」


「え?この生花を、ですか?その、王室から受け継いだティアラやジュエリーではなく……?」


「これはね、先代国王陛下との約束なんだ。きっと、君を守る盾、そして鍵になる」



「それと、エリーゼ様。

あなたにどうしても確かめていただきたいことがあって」


「セリーヌさん?確かめたいって何をですか……?」


「カミーユ坊ちゃん、いえ、今のグレイル卿の事です。

 私の家は元々、グレイル領に仕えていた家系で、父もよく屋敷に出入りしていました。

 エリーゼ様はグレイル家と面識が?」


「いえ、昔……先代のグレイル卿を見かけたことがあるだけで」


「おかしいな。グレイル卿なら会っているはずだよ?

 ほら、池にエルレン様を落とした時、助けてくれたあの方だよ」


 ああ、そうだわ。

 子供の頃のあの池ポチャ事件。

 助けてくれたのは、確かにグレイル卿の……でも、今のグレイル卿とは全然似てない。顔立ちも、声も、体つきも。


「でしょう?貴女たちが“グレイル卿”と思っているその方……一体、何処の誰ですか?」


「……えっ!」


「はっきりと申し上げます。

 あの方は、カミーユ・ロダン・グレイルではありません」


「そ、そんな……どうして、赤の他人がグレイル卿になりすまして」


 血の気が引いていくのが、自分でもわかった。


 お父様があわてて書斎に駆け込み、引き出しの奥から一枚の古いスケッチ……先代グレイル卿の肖像画を持ってきてくださったわ。


「どうだい?」

「似てないわ……でも断定は出来ない。

 もう少し証言と証拠を取らないと」


 そう、前世の上司と兄貴に叩き込まれたからね。

 平静を装っているけど、内心動揺で心臓の動悸が止まらないわ。


 ……嘘でしょう?

 昨日の“グレイル卿”とは似ても似つかないわ……?!


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