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ヒロインが何故か決闘を受けました。

 大食堂でランチを取っていたら、何故かドルシュキー公爵家のロナウド様と、ヒロインこと光の聖女のロジーが、私とリオの名誉をかけて決闘する運びとなりました。どうして。


 ロナウド様を先頭に、彼の取り巻きこ方々に囲まれて、私とリオ、ロジーは大食堂から歩いてすぐそばの、フェンシング場に連れられてきたわ。


 当事者であるロナウド様とその一行は肩で風を切るようにフェンシング場にはいっていったわ。随分と自信がお有りのようね。


 対してロジーは今、私とリオの目の前で、茂みから白い薔薇を積んでいましてよ。


「ねぇロジー、何を……」


「エリーゼ様、少しお願いがあるんですけれど、このお花持ってもらえます?」


 そう言うと、ロジーは厳かに私にひざまづいて、私の手にある白薔薇にキスをする。


「ただのお遊びですよ、今日限りでいいんです。

 どうかアタシを、エリーゼ様と、その聡明な弟君リオネル様の騎士にして下さい。

 この薔薇に誓って、必ず勝利をもたらします」


 すると、私の手にある白薔薇は淡い光を放ち、青い花弁に変わっていく。


 唖然とする私の手から、ロジーは上機嫌で青薔薇を取って、胸ポケットに挿し。


 いやこれ、聖女の青薔薇の誓いじゃない!貴公子の告白スチルの為のレアアイテムよ?!いや、何でこんな所で使ってるの?


「それじゃ!行ってきますねー!」


 いつにも増していい笑顔で行くロジー。


「……白薔薇を魔力で青に?嘘だろ、あれは聖女の業だぞ」


 愕然としたリオの一言に目まいがするわ。


 ヤバい、本格的にヤバい。

 現実がゲーム内容から乖離し始めている。



 フェンシング場の中へ行くと、ロナウド様とその取り巻き達が待ち構えていた。

 ロジーの胸には青薔薇が挿さっているのを見ると、流石にどよめいて落ちつかなくなったわ。


「ほら、お前のレイピアだ。使えよ」

 そう言ってレイピアを投げて寄越した。ロジーはすかさずキャッチする。あれ?防具はいいの?前世でちょっと剣道かじってたからヒヤヒヤするんだけれど。


「この決闘には誓って不正はない。いいな?」

「ええ、エリーナ様とリオネル様の騎士として、正統な決闘を望みます!」


「騎士?夢でも見ているんじゃないの?」

「何言ってるの、デタラメでしょ?」

「でもあの子の親、騎士団の一人だって……」


「ほら!正々堂々と戦いましょう!」

 そう言って構えるロジー。正直、カッコいいわね。

「何を!」


 フェンシングらしく直線的で、突きが多い動きだわ。

 ロナウド様の猛攻を最小限の動きでかわすロジー。

 やはり鍛えているわね。


 と言っても、実をいうと私、あまりフェンシングに詳しくないのよね。

 リオは身を守るためと言って週に何度かやらせてもらえてるみたいだけれど、今世の私は公爵家のご令嬢とあろう者が!王太子妃になるお方がそんな野蛮なもの!ってレイピアも触らせてもらえてないのよ。箱入り娘か、深層の令嬢だったの?


 ロナウド様に疲労の色が出始めた頃、ロジーは反撃を開始する。


「はい!まだまだ!」

「ぜぇ、ぜぇ……この程度、僕は……ぐっ」


 もう少しでロジーがトドメをさせるという段階になった時。


 石が、ロジーに向けて投げられた。


「きゃっ!イッタ……」

 

 ロナウド様の取り巻きの方からだ。魔法かもしれない。

 あいつらの投げた石が、ロジーの目に当たった。


 ロジーは怯んで、レイピアを落としてしまう。


「貴様等……!」


 リオが黒い魔力を発動させ、何かを口ずさむより早く。

 

 大好きなヒロインに怪我させた。

 最推しのリオネル様を怒らせた。

 それだけで、私が動く理由としてはもう十分だった。


「私の騎士に、何をしているの!」


 カッとなって私は、制服のままフェンシングの試合場に躍り出て、ロジーの落としたレイピアを拾い、ロナウド様のレイピアを払いのけ。


「きええぇぇーー!おおおおぉぉーー!」


「な、何事だ?!」


 突然の響き渡る猿叫にたじろぐロナウド様。


 上段の構えから思い切りレイピアを振り下ろし、脳天から叩きこむ!からの高速切り返しでメッタ打ちである。

 いや、多少手加減してるけれどね?初見殺しだけど、一回見ればすぐ対策取れるヤツでしかないのよね。


 フェンシングもクソもないわ。こんなの、いい子も悪い子も、駄目な人も真似しちゃ駄目よ。絶対。


 あっレイピアの穂先折れた。飛んでいったわ。

 しかも綺麗な弧を描いて、ロナウド様の取り巻きたちのいる辺りの床に突き刺さった。


「キャーッ!」


 ……ええ。カッとなって、うっかり前世の部活でやってた剣道のクセが出ちゃっただけですね、分かります。


 出身県でもないのに何で示現流の真似事までやらされたのか、いまだに疑問なのよね。


「エリーゼ……様……」

「ロジー、目は大丈夫?」

「ちょっと痛い、腫れたかも……」

「何てこと、騎士の正当な決闘勝負に投石ですって?とんだ恥晒しね!」


「はあ?!フェンシングのルールを無視して、貴様!それでも貴族の令嬢か?何処の野蛮民族の殺人剣術だ?!」


「はい?!きっちり防具も取り揃えた上に、色んな流派混ぜこぜにしてもはやスポーツと化した剣道でそうそう人は死なないわよ?!

 それにフェンシングや剣術に自信あると思って、初手から突きはやめといてあげたのに何でしのぎきれてないのよ?!」


「ケンド?ショテツキ?お前は一体何を言ってるんだ?外国語か?!」


お互い逆ギレ気味に口論するロナウド様と、私を尻目に。


「ロジー、大丈夫か?すぐに回復術士を」


「あの、大丈夫ですよ。アタシ、自分ですぐ治せますよ」


 心配するリオをよそに、ロジーはさっさと自分自身に回復魔法をかけ始めたわ。しっかりしてらっしゃる。


「そう言えば、ランチは大丈夫でしたか?」


「ああ、味覚に違和感があったり、舌に痺れなどないな。すぐには体調の変化はないよ」


「念のために解毒魔法をかけますね。キュア!

それにしても大食堂のお料理美味しかったですね!また食べたいです」


「ありがとう。そうだな、今日のランチは悪くなかった」


「ウチのお母さんの料理も美味しいんですよ!サンデーローストなんかすっごい美味しくて」


「へぇ、君のお母様は料理が得意なのか。いつか馳走になりたいな」


「はい!是非!あっそうだ!良かったら伯父さん呼びますんで来られる時は声かけて下さいね」


 ……じゃないわよ。ちょっとそこ!

 本来なら、怪我した攻略対象に、ヒロインが回復魔法かけてもっと好感度あげるパートでしょ?よりにもよって一番好きなリオ様とヒロインのカップリングなのに!社交辞令じゃなくて、もっといい雰囲気になって!ちゃんと恋愛イベントこなしなさいよ!


 などと念じても何も起きず。ロジーの回復が終わるやいなや、リオは私とロナウド様の中に割って入り。


「姉上、ロナウド。どちらもやり過ぎだろう。この決闘、無効とする」


「何を馬鹿な事を……」


「姉上、この事はキャルロット公爵に報告するからな。

ロナウド、お前もだ。ドルシュキー公爵と公爵夫人、国王陛下に言い付けるぞ?」


 眉間にシワを寄せたリオが、私とロナウド様にガッツリと釘を刺す。


「ぐ……ふん、僕も焼きが回ったものだな。

貴様等のような野蛮な女、嫁の貰い手など現れないんじゃないか?」


「えっ何を言っているんですか?エリーゼ様は殿下とリオネル王子に好かれてますよ!

でもエリーゼ様はリオネル王子が好きなんですよね?」



……嘘でしょ、ヒロインが空気ぶっ壊していったわ。


「待って、ロジー。空気読んで」


「そうだよ、マリー・ルイーズさん」


「うん?マリー・ルイーズ?あの赤毛のローズマリーの実家.、ひょっとして親族か?」


 その名前を出した時、どうしてかしら?ロナウド様の表情がにわかに柔らかく、幼くなった気がした。


「彼女は昔、ドルシュキーに仕えていたんだ。ローズマリーは、その、元気にしているか?僕の事を覚えて……」


 その次の瞬間、電光石火のロジーの拳がロナウドの右頬を直撃した。

 ええ、ビンタじゃなくてグーでしてよ。見事なクリーンヒット。


「やっぱり許せない!

ドルシュキー家!このケダモノめ!よくも叔母さんを!不幸にした家がどの口で!」


「ロジー、やめてストップ!ステイステイ!」


 さらに追い打ちをかけようとするロジーを止めるためにも、彼女にしがみつく。


 やばいですわよ!?ロジーがドルシュキー公爵家に目を付けられる!なんかヤバイことになる!

最悪の手段だけれど……揉み消すには幾らぐらいかかるかな……お母様に押し付けられた私の手持ちの指輪で何とかならないかしら。


 ところがロナウド様は、声高に罵倒すると思いきや、しゅんっとしおらしい顔をして。


「いや、分かった……すまない事をした。申し訳ない」


 大人しく引き下がり、出て行ったわ。

 嘘でしょ?何を察したというのかしら。


「こら!貴方達!何をしているの!

……決闘?!何を馬鹿な事を言っているの!

死傷者が出るから、とうの昔に法律で禁止にされているはずですよ!」


よかった、誰かが先生方を呼んでくれたのね。

胸をなで下ろしてほっとしていると。



決闘の見物に集まった野次馬達が何処からともなく与太話を始める。


「思い出したわ!マリー・ルイーズって大昔の舞台女優じゃなかった?ほら、当時の王様に気に入られていたっていう」

「青薔薇の聖女の時代の人だよな?」

「ローズマリー・マリー・ルイーズってあれだろ?確かドルシュキー公爵の愛人の……」


 みるみるうちに、ロジーの顔色がさーっと青ざめる。

 え?何?この人達、ロジーの地雷踏んでない?話して欲しくないことを口さがなくギャーギャーと言ってない?


 そうこうしていると、決闘の野次馬していたギャラリーの中から、ルビーを思わせる紅い髪の毛をした少年が、手を振ってロジーに話しかけてきた。


「いたいた!ローズティアさーん、こないだ教科書貸してくれてありがとな!今教室にあるから、ちょっと来てくれない?


セルシアナさん、リオネル王子も久しぶり、立ち話もなんだからこっちこっち!」


「え、貴方はどなたで?」


「……いいから、さっさとこの場から離れないと面倒な事になる。大丈夫、俺に任して」


 この方、見覚えがあるわ。攻略対象の、炎の貴公子、フレイ様だ。


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