フレイ様とヒロインとオータムフェスティバルに来ました。
首都ブルーシャトー、ダウンタウンを流れる大河のほとり。オータムフェスティバルにわく下町の雑踏の中、フレイ様によってとある小さなレストラン兼パブに案内されたわ。
石造りの外装と打って変わって、内装は木製、緑の装飾が印象的だわ。
カウンター席には労働者かしら、ソーセージとエールで一杯やってるおじ様達が楽しそうに呑んでいる。
……ハギスを黙々と食べている方は北方出身かしら?あれ、いまだに公爵家のディナーでは出てこないのよね。
スターゲイジーパイに盛り上がってる一団もいるわね、あれ一部の沿岸部でしか食べられないらしいわ。なんでも、飢饉の時、悪天候の荒れ狂う海に出て行った漁師さんが大漁で帰ってきた勇姿を讃えているらしいわよ。
あら、アイリッシュ・アフタヌーンを呑んでいる方がいるわね。ウイスキーを紅茶で割るカクテルだわ。……前世だったら混ざって呑んでたかも。
「ただいま!久しぶり、おっちゃんおばちゃん!レモネードとジンジャーエール!
あとフィッシュアンドチップスとアップルパイお願い!」
「フレイ!アンタ学園はどうしたの?!お屋敷は?!」
赤毛の妙齢の女性が怒鳴り散らす。王宮でも公爵家のメイドでも見ないタイプの人ね。
しかし、赤毛かぁ。結構この国だと嫌がられるのよね。綺麗だと思うけどなぁ。
金髪は王族の血統に多いから貴ばれるのよね。なんだったかな、純血の証?だから血縁も近い私がフィオ王太子殿下の婚約者に選ばれたのでは?ってメイド達が噂をしていたのを耳にしている。
「えー?オレ、お貴族なんてガラじゃねーの、知ってるだろ?ドロドロ王侯貴族社会とか身分とか上下関係とか社交界とか細かくて訳わかんねマナーとか嫌だよ、無理。本当ーに無理」
フレイ様の忌憚のない本音。私も全く同意見なのよね。物凄い親近感わくわ。
フレイ様のお家の領地はメープルの木が多く、木工品を多く生産しているのよね。領地のお屋敷の庭園の中には東の島国から輸入したモミジが植えられていると有名よ。
「そんな事言って!お父様の跡目を継いで近衛騎士になれるっていうのに、アンタって子は!」
「あー、だったらお嬢のお爺様ん所に潜りこませてよ。外征担当してんだろ?オレそっち行きたい!」
「フレイ!馬鹿な事言ってるんじゃないよ!」
「ちぇー、なんだよ叔母さん」
拗ねるフレイ様。本当に年相応の少年だわ。
「フレイ。お前、ご婦人に失礼だぞ」
嘆息して、リオがピシャリと嗜めるが。
「あー大丈夫だって。この人ウチの叔母さんだよ。このレストラン、オレの母さんの実家でさー、叔父さん夫婦がやってるんだ」
「夫人が?屋敷は?」
「オレの母さん第二夫人ってヤツなんだ。元々食事の配給メイドだったかな?まあいわゆるお手つきされたんだって。
オレここで生まれて育ってさ、いわゆる庶子ってやつ。
結構前に亡くなった正妻ミランダ様から産まれたビクトル兄貴が、親父と大喧嘩して絶縁して、教会行っちゃってさぁ。
オレと母さんが屋敷に呼びだされて、それはまぁースゲー大変だったよ」
「ええっ?そんな事言っちゃって大丈夫なんですか?」
そんなお家の重い事情をサラッと言うフレイ様に驚くロジー。何処となくぎこちない表情が、あの心無い発言が彼女の心を深く傷つけたのだと見てとれる。
そうよね。普通こんなお家事情、一般には秘密にするわよね。
「平気平気!皆知ってる事だし。だからこんな事も得意なんだぜ?」
そう言って、他のお客さんの空になったお皿を魔法で宙に舞わせて片付ける。
「わあ!凄い凄い!」
「大した事ないよ、こんなの慣れだって」
そう言って奥まった席に案内してくれるフレイ様。気が利くわね。
フレイ様はゲームでも人なっこくて、こういう貴族らしからぬ性格なのだけれど、魔力と魔法操作は結構高めなのよね。こういうふうにお母様のご実家でお手伝いしていたからなのね。
その代わり座学が苦手で、ヒロインに勉強を教えてもらえイベントもあったわ。
だが今、私の心はそれどころじゃない。嵐のど真ん中なのよ。
「……いい?ローズの精油は脳内ホルモンのオキシトシンの分泌を促し、自律神経を整えたり、ストレスの緩和する作用があるの。女性ホルモン調整や抗炎効果があり、またポリフェノールやビタミンCを含むから美容に良いわ。
またローズヒップはビタミンC爆弾とも呼ばれているほどなの。美容に効果があるわ。お茶やジャムにしてもいいのよ」
オタ友に教わった事を思い返して、こんなローズのトリビアをまくし立てる事によって動揺を抑えるのも致し方ない事なのよ。
「お、おう?何かよく分かんねーけどバラに詳しいんだな?よければハイビスカスとブレンドしたローズヒップティーいる?おばさんがウチで作ってるんだ」
「是非ともいただくわ」
ハイビスカスローズヒップティーって、ビダミンCを豊富に含んでいるし、美容にもいいんだけれど、すごく酸っぱいのよね。気つけに良さそう。
運ばれてきた赤いお茶を一気に飲み干そうとして、乾いた喉に直撃。見事にむせたわ。
吹き出さなかったのが不幸中の幸いである。
「……ゲホッゲホ……酸っぱ!」
うう、助けて。私には主人公補正なんていいの。モブに徹したいの。
でもそうすると、最推しとヒロインが可哀想なのよ。放っておけないのよ。何この究極の二択。本当に助けて。
「落ち着いてくれ。姉上が狼狽中なのは分かったが」
「ゲホッ……リオ、気を遣ってくれてありがとう」
狼狽もするわ、ゲームのイベントぶち壊したんだもの。原作壊して何処がファンなのよ?!憤死しそう。
「それで、エリーゼお嬢!あのロナウドを打ち負かすなんて凄いな!どうやったんだ?あれフェンシングじゃないよな?
どこの国のどこの流派?騎士学校では見られない型だよな?ひょっとして異国の剣術!?」
そこまでノンブレスで早口言い切るフレイ様。はしゃいでいるわね。
すると、少し強張っていた表情から一転してロジーは。
「なにそれカッコイイです!」
つられて大はしゃぎでしてよ。
私の内心などつゆ知らず。お目々をキラキラさせないで、2人よ。私は推しカップルが誕生するかもしれないイベントに、ちょっとブチ切れて出しゃばり割り込んでしまって、壮絶に後悔している所なのよ。本気で凹んでいるの、落ち込ませて。
「いやあのね、ちゃんと構えてない相手にやるの、純粋にルール違反だからね?
それに示現流はそのー、武家と言ってもね……」
何処から説明したものか、流石に説明端折ると物騒になるし、かと言って示現流の生まれた薩摩の成り立ちから説明しても長くなるし……と、思い悩んでいたところに。
「はい!お待ち!こちら、ジンジャーエールとレモネード、揚げたてのフィッシュアンドチップスだよ。たーんとおあがり」
フレイ様のおばさまが、料理を持ってきてくれたわ。
フライドポテトとタラのフライがたっぷり入っている。レモンとマッシーピー、ビネガーソースが添えてある。ベーシックね。
「はい!ありがとうございます!さあ、皆で食べましょう!」
ロジーは受け取るとすぐ、塩胡椒とビネガーをかけはじめる。
……曲がりなりにも今世でお貴族に生まれたからには仕方ない事だけれど、私、こういう所に入ったのも、フィッシュアンドチップス食べるの生まれて初めてなのよね。前世は生活と推し活(あくまで微課金)で手一杯だったし、海外旅行とは縁遠かったのよね。
これが噂の……と、まじまじと見ていると。
「何だー?やっぱりキャルロット家のお嬢様じゃ、こんなの食べられないって?」
早速フライドフィッシュを食べながら、ムスッとした表情のフレイ様。ゲームでは百面相とも評されていて、年相応の男の子だなぁ……と内心ホッコリしていると。
「それともオレが直々に食べさせてあげましょうか?お嬢様?」
そう意地悪く言って、さっきまで自分の口を付けていたタラのフライを刺したフレイ様のフォークを、こちらに差し出してきたわ。
えっ、ちょっとお行儀悪!でもこれ食べたら間接キスにならない?でも私にはリオネル様が……!いや、悪役令嬢だから、そういうのはヒロインとして欲しいんですが……!?
「貴様、エリーゼ姉上に無礼が過ぎるだろう……!」
リオが何故か激昂して席を立つや否や。
「お先にいただきます!」
パクっとフライを食べたのはロジーだったわ。
「ふふふ!美味し!」
頬を紅くさせて、朗らかに笑うロジーはとっても可愛らしいなって思いました。ようやくヒロインらしい事してくれたわね。よしよし。
「そんなに美味しいなら私もお一ついただこうかしら」
「お、おう」
そういうと、フレイ様は自分のフォークを引っ込めて、未使用のフォークにタラのフライを改めて刺して渡してきたわ。
ところで、そのやり取りをリオが凄んだ表情でガン見してくるのは、何故かしら……?もの凄い圧を感じますわ。
魚の皮も一緒に揚げてるから生臭いかと思ったけれど、ビネガーソースが上手く打ち消してくれて美味しいわ。下味が付いてないと聞いていたけれど、意外にもちゃんと下味の塩味と胡椒が効いているわね。
「衣がカリカリでフワッとしてる。少しほろ苦いわね」
「ここの衣にはエールを入れてるんだ。下味も付けてあるから美味しいだろ?」
天ぷらの衣にビールを入れるのと一緒かな?
ただ、すごく某ハンバーガー屋さんのフィレオフィッシュを思い出します。
「エールかぁ。キューカンバーを漬けても美味しいのよね」
「へぇ!よく知ってるな」
「外国の本に載っていたのよ」
本当は前世のお母さんがたまにやってたのよね。前世のお父さんの好物だったからね。
「こんな所に連れてきて、学園はいいのか?」
「あー、大丈夫。これって王太子殿のご命令だから。もちろん、支払いも王子様持ち。太っ腹だよな!」
そうですね、フレイ様。他人の金で飲み食いするのは楽しいものね。特にお酒とか焼肉とか。
「むしろ今ローズティアさんが戻ったら凄い騒ぎになるぞ?
万が一、エルレンに見つかったら、それこそもう一生お目にかかれなくなるかもな?」
「え……なんですか、それ?」
たじろくロジー。神妙な面持ちをするリオ。それって……。
そんなシリアスな空気など知らずにフレイ様のおばさまは。
「お待たせ!焼きたてのアップルパイだよ!特別に二種類にしてみたよ」
「え?二種類?」
一つはサクサクしたパイ生地のもの、もう一つはタルト生地に包まれたものが出てきたわ。
「ああ、見るからに貴族のお嬢さんはこちらの方がお好みかな?と思いまして」
そう言って私にパイ生地のアップルパイを出す。焼きたての香ばしいパイ生地と、シナモンをまぶしたアップルのコンフォートの甘い匂いが鼻先をくすぐる。
「あら、お気遣いありがとうございます。でも困ったわ。私どちらも好きなのよね」
「なら半分こしましょう!」
ニコニコしながらロジーは提案する。良かった、学園であの心無い言葉に囚われてはいないようね。
「オレもいいよ。昼食堂で結構食べちゃったからさ。
それで、リオ王子?手をつけていらっしゃらないないようで?」
「俺は結構だ」
ロジーはタルト生地のアップルパイを半分に取り分ける。
リンゴのコンフォートではなく、リンゴをそのまま生地にくるんで焼くから甘さは控えめで、ブラックベリーも入っていて美味しい。
「ベンおじさんは昔、大商人のお屋敷の料理人だったんだ。お貴族の方にも料理を振る舞った経験もあるんだぜ」
と、自慢するフレイ様。
「ここ、私の家族もたまに来るんですよ。
じゃあフレイ様って、叔父さんがたまに話してたフレイ坊や?」
「うわっやめろよ!ガキの頃のあだ名なんて恥ずかしいだろ?!」
照れるフレイ様。面白い方だわ。
「それで?リオネル王子様、食べねーのかよ」
「……すまないが、気が進まなくてな。十数年前に流行病があったな?ここら一帯が一番酷かった所じゃないか?」
「あのな、そういう事は言わないの!
叔父さん衛生面に関してはスゲー気を遣ってるんだぜ?
大体あの流行病以降、衛生には気を使いすぎて徹底的に煮るか焼くかハーブをガッツリ入れるかになって、メシが不味くなってるんだぜ?
叔父さんがよく言っている事だけどさ」
「それに、教会の清教徒派の影響で一時期質素な食事にされちゃった時期もありましたよね。
特に、ドルシュキー領の鉱山開発などが盛んになってから、皆鉱山に働きに出ちゃって、地方各地に伝わっていた家庭料理のレシピが伝わらなかったってお母さんが言ってました」
そんな、産業革命じゃあるまいし。
「ああ、ドルシュキーの山岳地帯には元々魔法石の鉱脈があったんだ。だが昔からそこに定住して魔法石を掘り出していた鉱夫のホビット達を無理やり追い出した上、子供を働かせて大問題にもなったらしいな。代わりにゴブリンを働かせて、労働搾取も結構問題になってるらしい」
ゴブリンの労働搾取とな?なんとも面妖な……。ここは魔法の世界なのに、随分と世知辛い事情がありますわね?
ジンジャーエールを一口飲む。思ったよりも甘さ控えめで、ジンジャーの辛みで引き締まるわね。大人の味だわ。
だいぶずれ込んだけれど、何とかゲーム通りのイベント進行になって一安心。
なんだけど、これ完全に地元のお祭りに遊びに来た学生グループのノリよね。ゲームに比べて圧倒的に密度と湿度と糖度が足りてないわ。
なんとかして良い雰囲気のデートイベントにしなければ!目指せ恋愛イベントのフラグ立ててみせますわ!




