第二部・元悪役令嬢、とうとう狂帝アルヴェインとの結婚式当日になりました。
あの衝撃の夜から一夜明けて。
ステンドグラスを通したカラフルな光。
それがベッドに差し込んでいる事に気が付いて、私は目が覚めたわ。
「うわ、もう朝かぁ……」
私が閉じ込められた皇后の間は、魔法や魔力を断絶させる素材を使用してるようだわ。
青薔薇の魔法を散々使ってみたけれど、弾かれるだけだなんて。困ったな。
かと言って、物理も駄目ね。
備え付けの椅子や机で、ステンドグラス製の窓や重厚な耐魔金属製の扉を壊そうにも、ビクともしなかったわ。
この燭台もただの金属ではないわね。
ミスリルではなさそう。
ひょっとしてオリハルコン製かしら?
それともアダマンタイトとか?
何処かに解除用のギミックでも仕込まれてるかなって期待したのだけれど、駄目かぁ。
どうしよう、このままだと私は本当に狂帝アルヴェインと結婚させられる。
そしてその後、きっと私は独りで何処かに監禁されてしまい……。
「うわ、一晩中室内で暴れ回って……!
青薔薇の聖女って結構凶暴なんだな……」
「無駄口叩くな。
貴様、昨夜の男のようになりたいのか?」
と言う、衛兵のボヤきが聞こえたわよ。
確かに、この部屋の中のもので脱出を試みたのだけれど、破壊検査みたいでちょっと楽しくなっちゃって。
一晩中暴れまわったせいで、私、悲しいことに物凄い危険人物扱いされていますわ。
そうこうしている内に、アルヴェイン帝と新たな女官長がやって来たわ。
「青薔薇の聖女様、お召し替えを」
「……嫌よ」
私は咄嗟に、背丈ほどある燭台を槍代わりとして手に取る。
蝋燭のついていない尖った切っ先をアルヴェイン帝に突きつける。
「まあ、なんて野蛮な事……!」
青ざめる女官長。
アルヴェイン帝は愉快そうに笑い。
「ほう、活きのいいことだ。
だが、無駄な抵抗をした所でリオネル王子がどうなると思っている?
貴様に拒否権はないのだぞ?青薔薇の聖女よ」
推しを人質扱いなんて、酷いわね。
こう出られては、手も足も出ないわ。
「……!
リオネルをローズベルに返してくれると言うのなら。
私は貴方に従いますわ」
すぐさま、銀糸で縫われた婚礼衣装に着替えさせられ、化粧も施されたわ。
長い引き裾にオコジョのマント。
大きなピンクダイアモンドをあしらったココシュニクティアラに、豪奢な宝飾品も付けられたけど、まるで足枷のようね。
重い衣装で逃げられない様にしているみたい。
まるで着せ替え人形の様だわ。
この前の夜には、カメリアこそ皇后の地位に相応しいと言っていたくせにね。調子のいい事だわ。
「万が一、暴れられたら困りますので。
こちらをお召しください」
そう差し出されたのは、魔力を封じる腕輪だったわ。手錠かな?
支度が済むと、外に待機してあったやたら豪華な馬車に乗せられたわ。
帝都には、華やかな音楽が流れ、仮面を被り仮装をしている人波が押し寄せている様子ね。
まるであの戴冠式の時と一緒の、マスカレードだわ。
「これは……何事かしら?」
「フローリア様がマスカレードをご覧になりたいと、皇帝陛下にねだられたのです。
この分だと、彼女もやがては宮殿に召し上げられるのは時間の問題でしょう」
「……何を仰るの。シルバーナ様は?」
「所詮は寵妃ですわ。
あれは頭が硬過ぎる。
じきに切り捨てられるかと」
この人、何を言ってるのか分かっているの!?
聖堂に到着し、中に入ると、多くの貴族が参列していたわ。
参列者は青ざめ、悲嘆に暮れ、アルヴェイン帝の顔色を窺うばかり。
フランキンセンスの香り。
聖歌隊の歌声が、聖堂の天井から降ってくるように聞こえるわ。
軍服の正装をしたアルヴェイン帝が、無理やり私の手を引くわ。
その手には権力の象徴である、大きなダイアモンドをあしらった杖を握っているわ。
前世で何度かネットで見かけたコ・イ・ヌールみたい。
式を執り行う聖職者は……やはりダニエル主教か。
また脅されたのかしらね?
「先ずは、我らの結婚の儀を。
然る後に、裏切り者アレクセイとカメリアの粛清を始めようか……!」
裏切り者の粛清って……!
私の結婚式に何してくれるのよ?
しかもよりによって人の推しカップルを……粛清するですって!?
「その後に、貴様の故郷であるローズベルに侵攻、蹂躙してやろう!
貴様は、監禁部屋でむなしく指でも噛んで過ごせばよかろう……!」
「待った!その結婚、異議ありだ!
俺の婚約者を返してもらう!」
リオが駆けつけてくれたわ!
そんな、私のために……?前世は限界オタクぞ?
でも、昨晩は寝ていないのかしら?
目の下にクマが出来ているし、少しやつれているのに、なんかカッコいいわ!あぁ脳が焼ける……。
どうやって地下牢から脱出したのかしら?
「リオネルか。
この舞台に上がってくるとは大した度胸よ。
しかし、権力も人望もない敵国の王子に何が出来る?」
だが、多勢に無勢。衛兵に取り囲まれる!
「黒薔薇の怒りよ、ここに!
ダークブライアー!」
リオの詠唱に応え、黒色のいばらが突如現れ、辺りを席巻する!
パニックになる会場、一気に聖堂の出入り口である扉に人々が殺到するも、開かないわ。
「くどい!
闇よ、地獄の火よ、消し去れ。
アゴーニ・アダ!」
アルヴェイン帝が杖を振りかざすと、黒のいばらはメキメキと枯れ、地獄の火に焼かれていく……!
「リオネルよ。
闇魔法は、貴様だけの特権と思っていたか?
殘念だったな。ワシもちいとばかし使えるのだよ」
その時だった――
騒然とした聖堂。
その扉が勢いよく開かれ、現れたのは。
「……ヨハネス?」
ヨハネスだった。
ヨハネスがアレクセイ様の正装をして、聖堂に軍隊を引き連れてきたわ!
……いや、サイズ感あってませんわよ?
アレクセイ様の影武者じゃあるまいし。
ヨハネスは、一体何をしてるの……?!
「我こそは……」
息を呑む群衆。目を見張るアルヴェイン帝。
「アルヴェイン帝とセラフィーナ姫の御落胤、ヨハネス皇子である!
父帝であるアルヴェイン帝の暴挙は、決して許されぬ事だ!
よって、ここで反乱を起こす!」
一体何が起こっているの?




