第2章 豊穣の村③
「とある森でレベル1が死んだ?」
冷たく薄暗い場所でカイトが聞き返す
「その程度、調査する程のものですかね?」
「そう思うよねぇ。でも今回の事は何か変なのよ。」
跪くカイトの前には、カイトよりも多少年上に見える女性が立っている
「変、とは?」
「あそこの森には危険度が低い魔物しかいないのに、そのレベル1の子は煙となって還ったらしいの」
「つまり…何かしらに倒されたと?」
「そうなるわね」
我ら《黒騎士》は総じて《闇》を与えられ、その力でどんな能力だろうとそれなりに戦えるようになる
《闇》は強力だ
余程油断しない限り危険度が低い魔物程度には負けないと思うが…
「変なのはそれだけじゃないの。その森ではどうやら、私達とは違う《闇》が感知されたみたいでね。それもかなり強大な」
「我らとは違う《闇》…!?」
《黒騎士》が持っている《闇》は全て、我らが主である、■■■様から与えられた物だ
その《闇》とは違うとなると…我らにとっては不安分子だ
「その森は元々レベルが低い子に調査させようとしたんだけどね、この報告を受けてレベルが低い子じゃ対処しきれないかも、と思って。それでカイト君、あなたに頼んでるの」
「なるほど…そういうことであれば」
自分としてもそんな経過を聞かされると気になる
危険視していなかった森にいったい何があるというのか
「じゃ、お願いね。カイト君」
「はっ。仰せのままに」
今回もダイキを連れていくか
レベル2になれそうと浮かれていたから、この件で再び緊張感を与えた方がいいだろう
「それにしても…ほんっとうに固いわねカイト君は」
「なっ」
「どうせ今ここら辺には二人しかいないんだし、少しは崩してくれても良いのよ?こっちもやりにくいし」
「私は目上の方に柔らかい口調で話すような、常識はずれではありませんよ。
「こっちの方から崩してって言ってるんだから常識なんていいのー!」
突然何を言い出すかと思えば
このお方はレベルが高いのに、威厳という物が無いのか
「ほらほら、試しに笑ってみてよ」
「ちょ、頬を引っ張らないでください。あと今更ですが君呼びも辞めてください」
「なんでよー、私の事そんなに気に入らない?」
「そういう訳では…」
この方は《闇》の集団の幹部とは思えない自由さだ
いや、ここまで自由だとむしろ向いているのかもしれない
「あっ、良いところに。サクトくーん!こっちこっちー!」
「サクト様は忙しいんですよ…?」
「ここを通りかかったんだからいいじゃない。あのねーサクト君。カイト君が私の事気に入らないらしくてすごい他人行儀なのよー。どうしたらいい?」
「そんな事の為に呼び出したのか?」
流石のサクト様も困惑している
「大変だな。カイト」
「同情してくれて感謝します…。もう任務に戻って貰ってもいいですよ」
「もー。二人ともつまらないんだからー」
二人で頭を抱えて呆れる
元々面白味があるような組織では無いのだが…
「それにしてもカイトは例の森へ行くらしいな」
「はい」
「そうか…」
「?」
サクトが遠くを見るような目で天を仰ぐ
「何かあの森について思うところが?」
「いや…何でもない。せいぜい気をつけてくれ。お前を失うとかなりの損失になるからな」
「はっ。警告痛み入ります」
「ちょっとー!私の事は無視?」
警告をしっかり頭に入れるため無視する
「まぁ…こんなんでもレベル8だ。鬱陶しいとは思うが、ほどほどに付き合ってやってくれ」
「は、はい…」
「今鬱陶しいって言った!?こら!逃げるなサクトくーん!」
サクトが駆け足で去っていく
この調子だと、いつまで無駄な会話に参加させられるか分からないから妥当な判断だ
「はぁ…サクト君はもういいわ。それよりカイト君、また弟子の子を連れていくの?」
「弟子などと…。ただ奴が勝手に付いてくるだけですよ」
「そう?私からはカイト君の方から任務に連れていってるように見えるけどな?」
「そう…ですかね」
「それにしてもほんとカイト君は異質よねぇ。《黒騎士》の人達は一人で行動する他人の事とか気にかけない一匹狼が多いのに、カイト君はレベル1の子に力を貸して、自分を越えるまで育ててるんだもの。それも何回も」
そう。自分はほぼ必ずと言っていいほど複数人で任務に向かっている
自分の能力的にも攻撃役がいた方がやり易いし、それに…
「《黒騎士》に入る前は学校の先生を目指したりしてた?それとも…もしかして一人だと寂しかったり?」
「! そ、そんなことは」
「ふふふー。寂しいなら私が一緒にいてあげてもいいんだよ?」
やはりこの人は苦手だ
「貴方ほどの方の手を煩わせる事はありません。それに寂しいのではなく、レベル1の中でも才能がある物を見つけ、適切なレベルまで協力してやっているだけです」
「ふーん。才能って言うなら、カイト君も本気を出せばレベル5くらいまでは簡単に上がれると思うんだけどなぁ。レベル3より上に上がる話だって来てるのに蹴ってるんでしょ?」
「買い被りすぎですよ。私はレベル3が限界の男ですよ。それにこれ以上上がっても私の才能では…」
「ん?」
「とにかく、私はもう調査の準備をして参りますので。では」
「もー、連れないなぁ。あ、調査終わったらさ、カイト君が最近連れてる子のダイキ君だっけ?紹介してよ!彼なら少しは話せそうだから」
「はいはい。分かりました」
会話を無理やり切り上げ、ダイキの部屋へ向かう
そうだ…私ではこれ以上上がってもどうせ…
どうせ挫折するだけなんだ
村を出たはいいが、森の出口など分からずに完全に迷う
「もう村からはだいぶ離れましたし、真っ暗ですし、ここら辺で休みませんか?」
「そうだな…」
近くに偶然倒れている木があったのでそこに二人で座る
「はぁ…」
村での事を思い出す
最初は警戒されていたが、すぐに仲良くなったレイジや素性も分からない旅人に親身にしてくれた優しい村人達
だが突如現れた《黒騎士》を倒すにあたって、なぜかミキヤから《闇》の力と思われるものが放出され、そのせいでレイジ達村人から《黒騎士》の一員だと疑われ村を追放される
「何でだ…?何で俺から《闇》が…?」
《闇》についての知識はまだ全く無いとはいえ、俺が《闇》を取り込んだ記憶などは無い
ましてや《黒騎士》に入った事実など無いはずだ
でも…それならばどうして
「私もなぜミキヤ様から《闇》が出たのか分かりませんが、少なくともミキヤ様が《黒騎士》のような悪い人では無いことは分かっています。きっと何かの間違いですよ」
「そうだったらいいんだけど…」
マイが励ましてくれるが、分からないことばかりで励ましが心に響かない
それに村を追放された事に関しての事ともう一つ、心に強く引っ掛かってることがある
「《黒騎士》とはいえ…俺は人を…殺してしまったのか?」
放出された《闇》に弾き飛ばされ、後ろにあった民家に激突し倒れた《黒騎士》
そいつは倒れた後、なぜが黒い煙となり消えてしまった
「大丈夫です。ミキヤ様が殺したわけではありませんよ」
「え?何かあの煙になった事に関して知ってるのか?」
「あくまでストラ様から聞いた事があるだけですが…《黒騎士》の人達は戦闘不能や気絶…簡単に言うと、戦いに負けてしまうと体の《闇》が《黒騎士》の首領の元へ還っていくらしいんです。命も道連れにして…」
「なっ」
戦いに負けると命ごと回収される?
そんな理不尽な事があるのか?
「それが《闇》を貸しつける上でのルールの一つだとストラ様が語っていました」
「貸しつける上でのルール…。じゃあ奴らは、戦いに負けたら死ぬというリスクを承知の上で《黒騎士》に入っているのか!?」
「そうなりますね。そのルールのおかげか同士討ちは基本的に起こらないらしいですが…」
《黒騎士》の奴等も、それなりの覚悟を持っているという事か
でもそうなると…
「俺が直接殺す訳では無いにしても、この世界を救う以上、何人も死なせて行くことになるのか…」
「・・・」
マイもそれに関しては否定できないか
そうなると結局俺が悪人を殺して回るようなものだ
正義の味方がそんな存在で良いのだろうか?
いくら悪人とはいえ問答無用で殺していっていいものなのか?
それに…
「こう言っちゃ変だけどさ、《黒騎士》の人達って殺さなきゃいけないほど悪いことをしているのか?」
「え?」
「まあさっきの奴は殺さないと俺達や村人が殺されてたかもしれないけど…何て言うか、あいつは洞窟に来た奴等みたいな任務で動いてるような奴には見えなかったし…」
「任務とかではなく、あの人の独断で村を襲ったと?」
「そう。独断で動いたそいつは仕方ないけど、洞窟の奴等の任務は武具を壊すだけだったっていう…いや十分悪いことなんだけど、殺すほどの事かと言われたらと思って」
確かにあの武具を破壊することは、ホノカという存在の心を折る酷い事だ
それを任務として課した奴も、任務としてこなした奴も許せはしない悪い奴等だ
だが…殺すほどの罪なのか?
殺す方が…酷い罪ではないのか?
「なるほど…。ミキヤ様の言い分も分かります。ですがミキヤ様はやはりこの世界に来て日が浅いのもありますからね。これを見てください」
マイが、常に持っている小さな荷物入れから地図を取り出す
地図の真ん中には大きく王都が描かれており、一番北にはミキヤが転移した最初の村がある
そして最初の村と王都の間のいくつかの村や街に、ストラがここに行くようにと印を付けている
よく見ると王都にも印が付いていたが、問題はそこでは無く、マイが指を指したのは王都より南側
「地図を見たときから気になってたけど、この×印は何だ?」
王都より南側の村や街には、ほとんど×印が付いている
「これは、《黒騎士》が本来の住人を追い出し、殺し、占領したという印です」
「なんだって…!?」
ということはもう、王都より南側はほぼ《黒騎士》が占領しているのか!?
「《闇》、そして《黒騎士》が現れたのはつい三年前の事です。突然現れた《闇》を纏う人達は一番南の村に現れ、それから順に北へ進軍し、占領していきました」
三年
三年で、ここまで
「それより前から魔物に対抗するため騎士団は存在していたのですが…あまりに突然の出現に対処できず、なすすべも無く何の罪も無い人達が殺されていきました」
「そんな事が…」
奴等を完全に甘く見ていた
奴等はこの世界を滅ぼそうとでもいうのか
「そのせいで、現在王都が実質対《黒騎士》の最前線となっています。ですので私達の最終目標は今のところ王都になっています。これを見る限り《黒騎士》の本拠地は南側にあると断定してもいいと思いますが、いきなり《黒騎士》だらけの南側に行くのは危険ですので」
「だからまず最前線の王都に向かって、南を奪還するために力を貸すってことか?」
「そうなりますね。最前線と言っても王都だけでは《黒騎士》の侵入を防げないので、北側にも《黒騎士》が出没するのですが…それを解決するために、色んな村や街に寄っていきながら王都を目指すという事ですね」
「そう…か…」
この世界の状況はある程度理解した
《黒騎士》がとても許せる存在では無い事も理解した
だが…
「王都に向かって力を貸すと言っても、俺達が行ったところで何とかなるものなのか?」
「それは…」
もう既に《黒騎士》を三人見ているが、俺のような平和な国で生きてきた人間が、満足に戦えそうな奴は誰一人いなかった
洞窟での二人はホノカがいなければどうにもできなかったし、村を襲いに来た奴は完全に俺を殺せると油断していたおかげで《闇》と思われる攻撃を当てる事ができた
偶然に偶然を重ねてなんとか対処できているが…それでも奴等は恐らく《黒騎士》の中でも下っぱだ
《黒騎士》が総勢何人いるのか分からないが、これほど多くの村や街を占領している以上、途方もない数がいるのだろう
戦える能力を持つ者が集まるという王都でも、奪還に向けて攻めて行けて無いのに…俺が行ったところで何ができる?
「突然だけどさ、マイ。俺は本当は正義の味方なんていう存在には程遠いんだ」
「え?」
「正義の味方を目指してさ、学校の色んな部活に入ったり習い事をしたりしたんだ。剣道部、柔道部、弓道部、他にも合気道とか色々。でも…どれもこれも俺には合わないって思ってすぐ辞めちゃったんだ」
習い始めた最初は楽しい
頑張れば先輩達がやってるような事が出来るようになると、あんな格好いい姿になれるのだと、そう思っていた
だが、
「俺は運動神経も学ぶ頭も足りなくってさ、習い始めた時期は同じなのに、どんどん同じ年の人に追い抜かされていってさ、それが嫌ですぐ辞めちゃうんだ」
俺がこれをやるには才能が無かったのだ
そう考え辞める事を何度も何度も繰り返した
「それで気づいたんだ。俺には正義の味方という夢自体が合ってないんだって。人を守り救うような存在に俺はなれないんだって」
夢はそう簡単に捨てれるものではない
現に今までもこうして引きずっている
だが…次第にその夢も薄れていって、夢を諦める言い訳を考え出したりもした
「だからさ、ここまで一緒に来てくれて悪いけど…俺にはこの世界を救う事なんてできないよ。このまま運良く王都に行けた所で何もできないよ」
自分の無力さを語っていく内に涙が出てくる
「さっきもさ、運良く《黒騎士》を倒せたけどさ、結局村から感謝されるどころか追放されて…俺に見合わない力を使った罰なんだよきっと。俺は…その程度の存在なんだ」
村の事で心が折れたのもあってか、こんな話してもどうにもならないという事は分かっていても、自分への文句が止まらない
こんな話をしたら流石のマイでも呆れられちゃうだろうな
何が神に選ばれた正義の味方だ
ストラの見る目が無かったんだな
俺が選ばれた事こそ、何かの間違いだったんだ
いっそもうこの旅は終わりに…
「そんなこと、ないですよ」
黙って聞いてくれていたマイが口を開く
「でも俺は…」
「洞窟で私が作戦を伝えた時の事を覚えてますか?」
「…うん」
覚えている
怖くて怖くて逃げようとしたあの時
マイが背中を押してくれたから、勇気づけてくれたから作戦を実行できた時
「ミキヤ様は優しい方ですから、普通は戦おうとする考えが無いんですよね。さっきも《黒騎士》の人達を殺していくのを躊躇ったりして」
「それは…《黒騎士》の恐ろしさを分かっていなかったからで…」
「いえ、今まで見てきた《黒騎士》の人を見て、殺すまでは…つまりルール上戦わずして何とか解決しようと考える事なんて普通の人にはできませんよ」
「そうかな…」
戦いたく無いと怖じ気づいているだけにも見えるんだが…
「そうですよ。でも、そんなミキヤ様でも、やるときはやってくれました。洞窟でホノカ様でも太刀打ちできない相手に向かっていきました。村では村が危険だと知ると、すぐに向かっていきました。ミキヤ様はやらなきゃならないと感じると、折れず向かっていく勇気もあるんです」
「・・・」
「だから私は、そんな優しさと勇気を持っているミキヤ様は正義の味方にとっても相応しいと思っていますよ」
「…なんで」
「習い事だって、きっとやらなきゃいけないと感じずに、戦いは駄目だという優しさが勝っただけの事ですよ」
「なんで」
「村も…結果的に追い出されてしまいましたけど、感謝してくれている人だっているはずです。洞窟の時はホノカ様がとても感謝してくれてましたから」
「なんでそんなに褒めるんだ!」
自分を肯定したくなくて思わず叫ぶ
「会って間もないのに…俺の事そんなに知らないくせに…何でそこまで言えるんだ!」
マイに当たるのはお門違いだと分かっていても、自分の事が嫌で嫌で反論してしまう
こんな奴に優しさなんて無い
なのに…なんで
「それは、私がミキヤ様に救われてるからですよ」
「え?」
俺が救った?マイを?
「私はミキヤ様が来る以前から、ストラ様に命じられていました。世界を救う勇気を持つ正義の味方が現れるから、その人のお付きになってほしいと。私は了承はしましたが…少し、怖かったのです」
「怖かった?」
「はい。私はずっとストラ様の側近をしていましたが…ストラ様は昼はしっかりしていて夜はとても愉快な方で一緒にいて楽しかったのです。ですがストラ様にしか付いていなかったので、もし、その正義の味方という人がとても強い能力を持って、淡々と《黒騎士》を倒していく冷徹な人だったら…または、私の事など構わずどんどん先に進んでしまう一匹狼みたいな人だったら…」
正義の味方というイメージでは無いが、確かにあんな恐ろしい奴等と戦って世界を救うくらいならそんな人の方が合ってたかもしれない
「そんな人達だったら…そもそもこんな私なんかいらないのではないか、私の無力さを痛感するだけの旅になるのではないか、そう思っていました。でも…来てくれたのは、何かある事に私に許可を聞いてくれて、私は何も言われずとも付いていくのにわざわざ歩幅を合わせてくれる、話を合わせてくれる、そんな優しいミキヤ様でした」
「そ、そんな事誰にでも…」
「私は優しさという物は誰でも持っていると思います。でもそれを上手く表に出せる人はとても少なくて。心ではこうした方が良かったと思うことでも、実際に実行するのには難しい事でなくとも勇気がいるのです」
「・・・」
「だから…勇気と優しさを持つミキヤ様に私は救われました。まだ一つ目の村ですけど…ミキヤ様となら辛くとも楽しい旅になると、ミキヤ様となら同じ歩幅でどんな事でも共に乗り越えて行けると、そう確信しているのです!」
「マイ…」
マイが立ち上がり、ミキヤの顔を覗きながら手を差し伸べる
「ですから…もうそんな事言わないでください。ミキヤ様は確かに悪いところもまだあるかもしれませんが、私が傍にいますから、一緒に良い方向に変わっていきましょう!力だって今は足りずとも、強くなっていく事はできるはずです!」
ミキヤが涙でぐしゃぐしゃになった顔で見上げる
「こんな俺に…まだ付いてきてくれるのか…?」
「はい!私は正義の味方のお付きですから!ですからまだ正義の味方になる事を諦めていなければ、この手を取っていただきませんか?」
茶化す場面では無いけれども…俺にはストラ以上にマイの事が女神に見えた
そんな女神のような子が共に苦難を乗り越えてくれると、俺の夢を叶える手伝いをしてくれると言ってくれているのだ
ここで手を取らない選択肢なんて…俺には無い、正義の味方になる男には無い
ミキヤが腕で必死に涙を拭う
そして、マイの手を力強く握る
「ありがとう…本当にありがとうマイ。俺は何もできやしない…生きる価値の無い人間とすら思っていた。でも今、そんな人間の良いところを見つけてくれて、共に生きると言ってくれて俺の方こそ救われたよ」
「だって本当にミキヤ様は良いお方ですから!」
何の濁りもない純粋な笑顔を向けてくれる
その笑顔に向けて泣きやんだ直後の上手く形にならない笑顔を返す
「改めて、これからもよろしくな!マイ!」
「はい!」
まだ分からないことは沢山ある
まだ解決していない事は山ほどある
これからもまだそういう事は増えていくだろう
でもマイとなら大丈夫だと…そう確信した夜だった
ヂュー ヂュー
聞いたことの無い変な鳴き声が聞こえてくる
「この声は…角ネズミ!魔物です!」
「空気読めよ…」
結界を張る魔道具を大きな荷物入れに入れ、村長の家に置いてきてしまった、というより取りに行く暇が無かったせいか魔物に囲まれていた
角ネズミという名前の通り、見た目は額から角が生えているだけのネズミだ
だがサイズが通常のネズミとは違い、猫程のサイズだ
元の世界のネズミがこのサイズなら、窮鼠猫を噛むということわざは生まれなかっただろうな
なんてどうでもいい事を思いながら、腰に掛けていた剣を構える
「危険度が低く、本来向こう側から襲ってくる事は無いはずですが…何か様子がおかしいです」
「そういえば…ネズミの口から何か出てないか?」
角ネズミの口から黒い煙のようなものが上がっている
黒い煙…
「《黒騎士》が《闇》を使うときに纏ってるやつじゃないか!?」
「ということは…角ネズミが《闇》を!?《闇》を纏う魔物なんて聞いたことありません!」
「とにかく撃退するぞ!マイは下がってて!」
「は、はい!」
下がってとは言ったものの、四方を囲まれているのだ
逃げ場などどこにも無い
そう考えている内に、角ネズミが飛びかかってくる
「ヂュー!」
「くっ」「ひゃあ!」
角をこちらに向けて突進してくる
ミキヤもマイも必死で避けるが、四匹いる角ネズミは止まること無く飛びかかってくる
「くそっ、これでどうだ!」
飛びかかってくるタイミングに合わせて剣を振り下ろす
だが、剣は角に当たり、角ネズミの動きは止まるが同時にミキヤの剣も弾かれる
硬い!
思い切り剣を降ったのに切れずに弾かれた!
体勢を崩したミキヤ目掛けて一匹の角ネズミが突進する
「ミキヤ様!」
「くそっ!」
やられる…!
「ヂュウ!?」
覚悟して目を瞑っていたミキヤが感じたのは痛みではなく、耳に届いた角ネズミの悲鳴だった
「おーおー。大丈夫かね若者よ」
目を開けるとまず写ったのは、少し遠くに飛ばされ倒れている角ネズミだった
そしてミキヤの隣には、見るからに筋肉質な、整えられたな白髭を蓄えたお爺さんが立っていた
「今日は角ネズミ鍋か。ワシが作ると不味いんだよなぁあれ」
謎の悪態をつきながら角ネズミを殴り飛ばしていく
「ま、いいか。腹に入ればみな同じよ!」
呆気に取られたミキヤとマイの前で、角ネズミを殴り、蹴飛ばし、捕まえて首を締めていき、四匹いた角ネズミは死体となって地に伏していた
「ネズミはこれで終いと…。では、なぜこんな所にいるのか…理由を聞かせてもらおうか?若者よ」
お爺さんの興味は角ネズミの次にミキヤ達に移ったようだ
な…なんだこのおじさん…
呆気に取られていた二人をよそに、太陽が顔を出そうとしていた




