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第2章 豊穣の村①

「はぁ!」


ドオオオン


重い音と共に目の前の木々が倒れていく


「はあ…はあ…」


青年ーレイジは息を切らしながら、膝をついている


「ちょっと無理しすぎだよ、お兄ちゃん。はい、水」

「はあ…ありがとうルリ」


妹に手渡された水を一気に飲み、息を整える


「ふぅ…」

「もう夜中になるよ。いつも以上に特訓してるけど…どうしたの?」

「最近なんか嫌な予感がしてな」


立ち上がり、ズボンに着いた土を払いながらレイジは語り出す


「嫌な予感?」

「具体的には言えないんだけど、虫の知らせってやつか?この村に危機が近づいてる気がしてな」

「この地図にすら載ってない村に?周りの森に危険な魔物もいないし、予感でそんなに追いつめなくても」

「でもな…」


そう、ここは現在地図にも載っていない、人も滅多に来ない隠れ村だ

だが気候などがとても良く、作物を育てるのに大きな苦労も無いから、他の村や街と交流が無くても困ることはない平和な村なのだが…


「《闇》の気配がするんだ」

「!?ほんとに!?」

「ああ。あくまで予感だけど…」

「んん…でも無理して危険が迫ったときに動けなかったらどうするの。この村で戦えるのはお兄ちゃんだけだから気を負うのはわかるけど、とりあえず今日はもう休みなよ」

「そうだな…分かった」


こうして兄妹は豊穣の村の夜道を歩いて行った





「今日はもう遅いですし、ここらで休みますか」

「そうだな。お疲れ様、マイ」

「変身してる時の疲れは感じないので私は大丈夫ですよ。それより、長い時間重い荷物を持ちながら乗馬していたミキヤ様こそ、お疲れ様でした」


ほんとに便利な能力だな

そう考えながら荷物を下ろす


最初の村を出て最初の夜

…俺の能力が使えなくってから最初の夜


少なくとも今日の朝までは、俺の能力である動物…というより人間以外の生き物と話せる能力が使えていたのだ

なのに村を出てから、一切その能力は使えていない

せっかく元の世界では体験できない不思議な経験をしていたのに…


「とりあえず能力の件は置いて進んでいましたが…やっぱり不思議ですね。魔力切れというわけでもなさそうですし」

「うーむ」


マイの話だと、能力が無くなるなんて現象は聞いたことが無いらしい

時間が経っても治る気配も無いし、マイも分からないのであればどうしようもない


「すみませんミキヤ様。今は調べる事もできず…」

「仕方ないよ。とりあえず今は休もう」

「わかりました」


そう言い、マイは荷物入れに引っかけてあった、2m以上はある木材でできた棒を取り出す


「ずっと気になってたけどそれは?」

「これは結界の魔道具です。この棒で囲んだ場所には魔物が寄ってこないんですよ」

「魔道具?」

「はい。魔道具というのは魔物の皮や、不思議な植物等を加工して作られる便利な道具なんです」

「へぇ~」


魔力とやらの不思議な力がある世界だから、そういうのもあるのか


そう考えていると、マイが同じ魔道具をもう三つ取り出し、ミキヤとマイを囲むように置いていく


「少し狭いですが…これで魔物は寄ってきません。夜が明けるまでしっかり休みましょう」

「そうだな」


持ってきた保存食を食べ、一息つく


「このままなら明日の昼頃には着くはずです」


地図を広げ、目的地を見る

目的地は「豊穣の村」と呼ばれる村らしい

村の名の通り、作物が良く育つ平和な村とストラから聞いている


「どんな村だろうなあ」

「平和な村らしいですが…ストラ様が指定された村ですから何かあるのでしょうね」


地図には、幾つかの村や街に丸のマークが付けられている

ストラからの指令はこのマークが付けられた場所を旅しながら、《黒騎士》と呼ばれる悪の団体の首領がいる本拠地を探しだすことだ


「《黒騎士》も…この村にいるのだろうか」

「一応、地図に載っている村であれば、王都からの騎士がいるはずですから大丈夫だと思いたいですが」

「そうなのか?」

「はい。戦えるような能力が備わるのは珍しいという事は話しましたよね?」

「うん」

「ですが王都には三つの騎士団があり、戦えるような能力を持っている方達がとても多くいるんですよ。その騎士団の方達が村や街を守るために王都から派遣されるのです」

「へぇ~」


確かに戦える人が村にいなければ、いやいても一人や二人なら、もしもの事が起こったときには大変だろう

この世界の王はしっかり民の事を考えているらしい


「でも最初の村にはそれらしき人は見なかったような?」

「ストラ様の話によると、神がいるから大丈夫だ~って言って拒否しているらしいですよ。王都からかなり遠いのもありますし」

「えぇ…」


めっちゃ自信あるなあの神様

是非ともその実力を見たかったものだが

この世界の神様は人間の事をちゃんと考えているのだろうか


「でもやっぱりその騎士に頼りきり…ってわけにはいかないよな」

「そうですね。それなら行く意味がありませんし」


最初の村では、ホノカという心強い味方がいたから、なんとか敵を退けることができた

次以降の村では、その王都からの騎士が味方してくれるとは思うが、正義の味方として行くのだから弱いままじゃいられない


「ちょっと邪魔になるかもしれないけど、剣を振る練習をしていいか?」


ストラから持たされ、腰に掛けていた剣を取り出す

サクトの剣よりいくらか小さく軽いが、刀身は煌めいていて切れ味は十分に見える


「修行なさるのは良いことだと思いますが、疲れているでしょうし無理はしないでくださいね」

「分かった。ありがとな」


マイからの了承を得て、剣を上段にかまえ、振り下ろす

やはり重い


「上手く振れないな…」

「素人目には十分綺麗に振れてると思いますよ。元いた世界では騎士の仕事でもしてたのですか?」

「いやあ、俺のいた世界で騎士とか名乗ってたらかなりの変人だな…。学校で剣道部に入ってただけだよ。すぐに辞めちゃったけど」

「剣道部?」

「まあ、趣味で剣を振る人達の集まりみたいなもんか?こんなに重くは無かったけど」

「そう聞くとそちらの方が変人ですが…なるほど、それで振り方は独特ですがちゃんとしているのですね」


確かに剣道は剣というより刀を振るものだ

この洋風な世界だと、刀など無さそうだから独特な振り方に見えるか


しばらく振り回していると、マイは寝てしまったようだ

かわいらしい寝顔が見える


「じゃあ俺もそろそろ寝…」


寝ようとして気づく

この狭い中で、かわいらしい少女と密着して寝なきゃいけないということに


これ事案ってやつでは?

マイはそんな事気にしないというように、すやすや寝ているが…いいのか?

でも明日村に着くのであればしっかり休んでいたいし…


年が近い女性と一緒に寝たことはあるにはあるが、幼い頃に姉と寝たことがあるくらいだ

今となっては恥ずかしい


しばらく頭を抱えていたが、眠気には勝てず魔道具内でなるべく距離を開け寝た





「おはようございます!」


朝日が昇ってきている頃に、何の邪気も無い純真な笑顔でマイが起こしてくれた


「よく眠れましたか?」

「ま、まあな」


昨日変な葛藤に悩まされたせいで、まだ眠気が取れていないなんて言えない

マイは露程も気にしていないようだが


「突然で悪いけど、マイは何歳?」

「?14歳です」


姉は14歳の時は寝るときは別々の部屋だったけど…

女性の気持ちはよく分からない


昨晩と同じ保存食を食べ、出発の準備をする


「じゃあ行こうか」

「ヒヒーン!」


一日経ってもまだ能力は戻らない

この消えた能力が戻ったところで、次の村で使えるか分からないが、確かな不安を抱えながら出発した





「ここら辺のはずなのですが…」


地図を見ながらマイが呟く

俺達は地図の通り、森に入って進んでいたが、一向に村らしき物は見えない

もしかして迷った?


「もう昼は過ぎてそうだな…」

「ご、ごめんなさい。昼頃に着くなどと軽率な事を言って…」

「いやマイは悪くないよ」


しまった失言だったな…

こういう事言うから友達ができないんだよ…


自分の発言を後悔しながら森を進んでいくと


ドオオオン


森に轟音が響き渡る

驚いて一瞬固まったが、現状を変えられることを確信し、マイと互いに顔を見合せる


「音が鳴ったのはあっちの方かな。行こう!」

「はい!」


危険が待っているかもしれないが、このまま森を迷うよりマシと判断し駆け足で音の鳴った場所へ向かった





「止まれ!何者だ!」


音が鳴っていた場所で待っていたのは、複数の倒れている木と、青年と少女だった

そして今青年の方から激しく警戒されている


「え、えっとここら辺に村があるって聞いてるんだけど、もしかしてその村の人?」

「村があったとして何の用だ?」


すごい睨まれる

本題から入ったのはまずかったか

いやそれ抜きにしても異常に警戒されている


「お兄ちゃん睨みすぎだよ。あの二人引いてるじゃん」


少女の方が口を開く

お兄ちゃんということはこの二人は兄妹か


「ううむ…そうだな。ただの旅人かもしれないのに失礼した」

「いや、こっちも素性も明かさずにすまなかった。怪しかったよな。俺は正義の味方としてこの世界を旅しているミキヤという」

「正義の味方?」


名乗ってみたけど恥ずかしい

正義の味方って言う必要あった?余計怪しくなってない?


「ま、まあ。そこは気にしないでくれ。そしてこっちが」

「正義の味方のお付きのマイと申します!」


こら

蒸し返すんじゃない


「変な人達…」


今度はこっちが引かれてるじゃないか


「こらこら。改めて、俺はレイジ。そしてこっちが妹のルリという。二人ともこの近くの村の住人だ」

「え、言ってよかったのかそれは」

「改めて見ると悪い人達には見えないからな」

「変な人達には見えるけどね」

「こら」


この世界の女性は皆、思ったことをストレートに言う性格なのだろうか?

とりあえずこの二人が村の住人というのは助かった


「ま、まあ俺達の事はいいとして、最近この村に何か変わったことは無いか?

「変わったこと?」

「うん…無いなら良いんだけど」


反応を見ると、特に変わったことは無さそうだ

平和なのは良いことだが、俺達が来た意味が

どうなってるんですか神様


「もしかして…お兄ちゃんが最近感じてる《闇》の事じゃない?」

「! やっぱり《闇》が!?」

「いや、俺のはあくまで予感なんだが、やっぱりって?」

「ええと…話すと長くなるんだが」

「まあ立ち話も何だし、続きは村の方で話すか。」

「いいのか?」

「ああ。もし何か悪い事をしたら俺が力ずくで追い出すから。村はこっちの方だ、来なよ」


さらっと怖いこと言われた気がするが、とりあえず村には行けそうで助かった


こうして俺達は豊穣の村へ足を踏み入れた

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