ウルス様
ゆっくりすぎる更新で申し訳ない。
婚約者候補のあの二人はよく私の教室にやって来ては暴言を吐いて帰っていくようになりました。
せっかく別のクラスになったのに……
どうすればいいのでしょうか?
私が小さなため息をつくと、イリスさんがイライラを隠せないような顔で私に声をかけてきました。
「あいつらなんなの? 身分で言ってもグリシーヌの方が上でしょ?」
「そうなんですが……家には貯えがあまりなくてですね。もし災害などがあった場合、彼らの家から借金をするかも知れないのです」
イリスさんは乱暴に頭をかいていました。
「それにしたって……あれはない」
イリスさんが不満げに顔をしかめます。
本当に優しい人です。
「Dクラスは皆グリシーヌの味方だけど……金銭的な援助って言われたら困るわよね」
「三年間我慢すればいい話ですから」
「三年間?」
私は入学前の婚約の話しをイリスさんに話しました。
「グリシーヌが修道女!!!!」
イリスさんの叫びにクラス全員の視線が私達の方に一斉に向きました。
「なんであの二人のせいでグリシーヌが修道女になんないといけないのよ!」
「私は、修道女に向いていると思いませんか?」
「聖女みたいだとは思うけど、それとこれとは話が違うでしょ!」
私が首を傾げるとイリスさんは髪の毛をかきむしります。
可愛らしいツインテールが台無しです。
「イリスさん髪を結い直しても良いかしら? イリスさんの綺麗な髪を触ってみたいのです」
「……良いけど……」
渋々私に髪をなおされるイリスさんは本当に可愛らしいです。
「グリシーは居るかな?」
そこに、聞きなれた声が聞こえました。
ふりかえると、そこにはこの国の王子様であるエタン王子が教室を覗きこんでいるのが見えます。
私と視線があうと、エタン王子は私に小さく手を振りながら近づいてきました。
「やあ、グリシー」
「エタン王子?どうしてここに?」
「妹分の君が入学したんだよ? 顔を見に来たらダメかい? ……それにしても、大分馴染んでいるようだね」
私がイリスさんの髪を直すのを見ながらエタン王子はクスクスと笑いました。
髪を直し終えた後でエタン王子に気がついたイリスさんの顔が一気に青ざめたのは、ごめんなさいとしか言いようがありませんでした。
「本当にグリシーは器用だね」
「はい。空いた時間で村の子ども達とよく遊んでいましたので髪結いは得意ですわ」
「そうかい」
エタン王子はクスクス笑います。
馬鹿にしているわけではありません。
エタン王子は笑い上戸なのです。
「Dクラスは楽しいかい?」
「はい……あの二人が度々訪れて来なければ更に楽しいのですが……」
エタン王子は顎に手をあてて少しかんがえていました。
「ねえグリシー。君が嫌じゃなければ僕の婚約者になっても良いんだよ」
「エタン王子は私にとってはお兄様ですわ」
「だよね……」
その時、私はエタン王子の後ろに立っている大柄な男性に気がつきました。
瞳も短い髪も真っ黒で身長はエタン王子よりも頭一つ分高く体つきもがっしりしていて目付きも鋭い。
例えるならブラックベアーのようです。
「?ああ、彼はクラスメート兼学園内での僕の護衛のウルス・タリズアーノだよ」
「はじめましてタリズアーノ様。グリシーヌと申します」
「はじめまして」
タリズアーノ様は綺麗に頭を下げて見せてくださいました。
「グリシー、彼のことはウルスで良いよ」
「ですが」
「ウルスだって君みたいな綺麗な子から名前を呼ばれたら嬉しいだろ?」
タリズアーノ様は私から視線をそらしてしまいました。
嫌われてしまったのでしょうか?
「ウルス」
「こんな見た目の俺の名前など呼ばせてはグリシーヌ様がお可哀想です」
タリズアーノ様はそう言うと私から一歩離れてしまいます。
「普通の女性はウルスを怖がると思う。それは否定しない。でも、グリシーがウルスを怖がるわけないんだよ」
「はっ?」
エタン王子はクスクス笑いながらタリズアーノ様を指差して言いました。
「こいつ、君の領地によく出るブラックベアーそっくりじゃない?」
エタン王子の言葉に私は苦笑いを浮かべてしまいました。
ええ、同意見ですわ。
「……ブラックベアーですか?」
「ブラックベアーと比べたら可愛いもんだよね?」
私はクスクス笑ってしまいました。
「ブラックベアーも可愛いですわよ」
「「…………」」
私の言葉に二人は黙ってしまいました。
何やらずれたことを言ってしまったのかも知れません。
「見た目と違ってグリシーは逞しい女性だからウルスもそんなに怯えなくて良いよ」
「ぐっ」
どうやら怯えられていたようです。
「ウルス様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「……お好きにどうぞ」
私はクスクス笑いながら一歩ウルス様に近づきました。
ウルス様は驚いた顔をした後、一歩私から離れました。
どうして逃げるのでしょうか?
私が一歩近づくと一歩逃げるウルス様に私がムッとして追いかけ回してしまったのは許して欲しいです。
読んでくださりありがとうございます(*´-`*)ゞ