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10月13日

今日は体育の日。

晴れると有名な、体育の日だ。


なのにもかかわらず——


「晴れどころか、台風来てますけど……」


近くの小学校の運動会は今日だったらしく、慌てて延期したそうな。

まぁ、だってよく聞く話だ、体育の日が運動会ですって言うのは。


運動会に向けて予定を空けていたお母さんお父さんは、残念ながら家の中静かに休日を過ごすことになっただろう。


私だって残念だ。

学校のある日と被れば、学校が休みになったのに。

それに……。


「今日は彼と会う日だったのに」


休みの日は、割と早い時間から、彼はあのブックカフェにいるのだ。

だから次の休みには、オススメの本を持ち寄って、取り替えて読もうねとそう約束してたのに。


うだー、とリビングの机に突っ伏すれば、同じくリビングにいたお母さんに驚いた目で見られた。


「どうしたの?」

「いや、別にー」

「ふぅん。で、ちなみに彼って誰?」


かれ、と口の中で言って気がついた。


「な、さっきの聞いてたの!?」

「聞いてたんじゃなくて、聞こえちゃったのよ」

「同じことだよ!」


……最悪だ。


「なに、彼氏? あんたにもとうとう春が来た?」

「違う! というか春ってなんだ春って!」

「ああ、そうね。あんた年中、頭の中お花畑だから、ある意味春だったわね」

「誰が花畑って!?」


だって、とお母さんは口を尖らせる。年の割に若すぎる動作をする母だ。


「あんた、テスト前なのに余裕そうだし」


ギクリ。


「余裕じゃないじゃない! 今から勉強してくるし!」


私はこっそりとスマホを隠し持って、二階への階段をバタバタと登った。


「そう? それで、ちなみにさっきの彼って人、本当に彼氏なら、せめて名前くらい教えてよ?」


階段の上から私は叫んだ。


「だから彼氏じゃないっ!」









一応、勉強を始めたものの、だらけてしまってなかなか進んでいない時だった。

メールが届いたのだ。


彼からの、メールだ。

届いたのはたったの一文だけだったけど。


「雨だね、って、そうだね、以外にどう返答しろと……?」


自分でそう言って、それからすぐに、なんだか笑えてきた。


ある意味、彼らしい。

というか、実際彼がこんな風に打つのが想像出来てしまった。


きっと強い風と雨の音にふと外を見て、その凄まじさに感動して、それを誰かに伝えたかったのだろう。


その誰かは私一人じゃないかもしれないけど、それでもその内の一人にはなれたのだろうことが嬉しい。


彼と感動を少しでも共有したくて、私は窓を開けて、ベランダに出た。強い風と雨が、屋根も囲いもあると言うのに、それを乗り越えて当たってくる。


確かにこれは本当に、雨だ。


私は数分それを堪能して……それから部屋の中に戻って、彼にメールを打った。


「そうだね、雨だね、っと。送信」


携帯慣れしてない人みたいに口に出しながら打ってしまった。

なんだか恥ずかしかった。


携帯をそのまま口元に押し当てる。


彼に、ちゃんと気持ちまで、届きますように。


注・台風の日に外に出るのは非常に危険です。

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