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帝国に皇后はいない、ハーレムの中にいる皇帝の妻たちは皆奴隷の身分になる。
親に売られた娘、帝国の役人の娘、侵略し滅ぼした国の姫、ハーレムの中では皆平等に扱われ、皇帝の寵を得た者が勝者となる。
北の大陸の国々が一夫一妻制であるのと全く違うシステムだ、このシステムにセレウコス王国の姫を入れるなどまるでこちらが敗者のに立場になる様な屈辱だ
「こちらの姫を迎えるにあたって、新しく皇太子妃という身分を作り、もちろん皇太子妃から生まれた子を継嗣とする、そう確約はとってます、国内外にこれを発表するから、我が国の姫が奴隷などと言わせへん」いつになくヨハン・マルティンは固い表情だ
「けれども、自分以外の女と寝るのが当たり前の世界なんですよ、セレウコスの倫理観と相いれません、まだ若い姫様に耐えられるでしょうか」ラミレスの言葉は荒くなった
対象となる王女は3人、17歳のジュディス、15歳のアグネスの前王の王女と、王妹の14歳のローザ。
この若さで困難な婚姻ができるだろうか、しかし、南の海賊に苦しめられている民に、娘が可哀そうだからとこの交渉を蹴る事はできない。
政権の主だったメンバーが集まり協議していると、ミランダを伴ったアグネス王女が入ってきた。
少し顔色は悪い、引き結んだ口元は固い
「会議中に無理に入ってきた事を、お詫びいたします。けれども、この会議の内容は私達に関係するものだと考えました」ひと呼吸おき
「私が、私があの国に参ります。私を行かせてください、この国の役に立たせて下さい」
アグネスはセレスティーナをまっすぐに見て言った。
アーサー公とヨハンが少しほっとした表情を見せた。ユリウスは眉を寄せる、ラミレスは戸惑っている「アグネス、自分をもっと大事にして、身を捧げる様な事をしなくていいのよ、貴女は自分の幸せを掴もうとしたらいいのよ」
おそらく王女3人の中で自己犠牲の精神が一番強いのはアグネスだ、彼女ならこの決断をする恐れがあった。しかし、説得されて国の犠牲になる事を背負わせて送り出す方がある意味セレスティーナにはありがたかった。
「あの国で女性は公の場に出たり、顔をさらしたりしないと聞きました。ジュディスお姉さまのように人と会うのが大好きな性格は向かないでしょう。そして、ローザはまだ幼すぎます。私は部屋で本を読んで過ごすのが好きです、女が外に出ない国には私が赴くのが最適だと思います」いつもは口数が少なく、叔父のアーサー公や宰相府のヨハン、軍のユリウスと大人の男性の前では口を開く事のないアグネスが、自分の言葉でしっかりと話している、アグネス自身で考えた結論だからだ。
「全く知らない土地なのですよ、この国よりも南だから、夏は暑く冬でも雪は降らない」
ラミレスが帝国の地理を話そうとすると
「国土はセレウコスの5倍あり、肥沃な麦の産地もあれば、人の住めない荒れた荒野もある、けれども帝国よりも東の国とも交易ルートになるので、荒野を隊商を組んで商人は行き来をしている」アグネスは知識を語り出した
「宗教は南の大陸で広く信仰されているゾロスタ教、一神教ではあるが他の信仰を排斥せず、侵略した国に民を改宗させる事はない、侵略地の教会も壊されていない」
アグネスの本好きは有名だったが、こんな知識も身に付けていたのかと、皆驚いた。
「私、出来ればセレウコスの神を捨てたくありません、帝国への交渉にこの条件も入れてほしく思います」深く考えての結論なのだ。
「私からもお願いがございます」アグネスに付き添っていた、ミランダが進み出た
「帝国への輿入れに、私を同行させていただきたくお願い申し上げます。」
「帝国に赴けば2度とセレウコスには帰れませんよ」セレスティーナの言葉に
「もちろん承知の上、この身を異国の土にしても姫様をお助けさせていただきとうございます。」
ミランダの覚悟も決まっていた。
帝国の使節団から、舞踏会というものに参加したいと、奇妙な申し出があった。
男と女が手をとりダンスをする、ゾロスタ教の世界では有り得ない催しだ。
一度やってみたかった、との申し出なのだが、これは恐らく、この使節団の最年少の書記見習い、と紹介された青年の望みだろう。
セレスティーナ皇太后も、ヨハン・マルティンも、最初に使節団を迎えた時に、サガノス・パシャの正体と同じくらいに身構えた、背の高い姿勢のいい青年、形のいい鼻と薄い唇に品のよさが、眼差しの鋭さに聡明さがわかる、そして、一番下の身分のはずが、周囲から一番気を使われている。
セレスティーナにはわかる、頂点に立っている人間の雰囲気が。
「ご婦人方には踊りの名手をあつめてもらわなあきまへんな」
使節団に恥をかかしてはいけない、特に書記見習いに。
彼の正体を匂わせつつ、妙に遜らない態度ができる女性、華やかさの為には若い令嬢も必要、信頼のおける貴族達を集めて、使節団歓迎の舞踏会が王宮で開かれた。




