㉓
ガストンの出現は大きな衝撃をセレウコス王国に与えた。
帝国の特使の情報は少人数だが、大物の高官がやってくるという曖昧な物で、人員の経歴を詳しく調べられなかったのだ。
緊急の会議が深夜に行われた。セレスティーナ皇太后、アーサー公、ヨハン、ラミレス、ユリウス、そして、カールがそこに加わった、本来ならば官職のないカールは入る立場ではないが、これは秘密会議で、カールの持つ商人ネットワークの情報が最も必要だったからだ
「ガストンは復讐の為にやってきたのかしら」ラミレスは不安そうに言った
「身代金が払われずに異国に放り出されたんや、騎士団長の息子として持ってる情報を使って帝国に取り入る、やろうと思えばできる事や、セレウコスの神も貴族の立場も捨てて復讐の為に帝国で出世する、ガストンはええ根性持っとったんやな」ヨハンの方言は変わってない
「この国交を結ぶという政策をあえて壊す為にやってきたのでしょうか、」アーサー公は国難の事態を恐れていた
「この数年帝国の軍事力が増してきていました、南の大陸で他の国との衝突は概ね帝国が勝利しております、以前は数を頼みの力押しの戦闘でしたが、武器や装備が整い戦術も高度になったと調べております、セレウコスの軍事知識を応用したのでしょう」ユリウスは軍事的観点から分析した
「ガストンは、、、サガノス・パシャは帝国ではどんな人物なのかしら」セレスティーナの質問にカールは紙束を取り出した。
「帝国との取引のある商人達からの報告書です、帝国には高官であるパシャと名乗る人物は12人います、彼らに関する情報を整理しましたが、サガノス・パシャに関しては人物に対しては少なく、功績に対しては多くの情報がありました」カールは読み上げた。
サガノス・パシャは最近急速に昇進した男で、容貌からも異国人だった。あるきっかけから現皇太子がただの皇子であった時の部下になり、自らの豪勇と軍を指揮しての活躍で今の地位を築いた。
帝国には4人の皇子がいて、血みどろの後継者争いがあったが、3男である現皇太子が選ばれたのにはサガノス・パシャの活躍が大きかったらしい
「我が国との国交を結ぶ事をどう思っているのかはわからないのかしら、交渉役をするのであれば賛成派だと思っていたけれども、潰す為の反対派の可能性もあるわね」
「サガノス・パシャは自分がセレウコス王国に生まれたとは一言も言った事はなく、また北の大陸の言葉は全て話せたので彼の生国は謎らしいです」
ガストンの意図は読めない、皆は沈黙する
「これは噂に過ぎないのですが、皇子の部下になったのには面白い話があります」カールは噂話をした
帝国の3番目の皇子マホメットは、15歳で地方の都市に赴任し、行政の勉強をしていた。
ある豪族の結婚式に招かれ、宴に余興があった。
花婿は力自慢の残忍な男で、自分の武勇を示したくて自分を倒した者に褒美をやるといって、奴隷達と格闘勝負をした。奴隷達は無理矢理引き出され、花婿に一方的に殴られ命を落とす者もいた。その残忍さを見て花嫁は蒼くなって失神しそうだった。
その時、花嫁側の奴隷の一人が自ら手を挙げ戦いに挑んだ。その褒美は花嫁を自分にくれというものだった。
皇子の手前褒美の話は撤回できない、花婿は剣をとった。
しかし勝ったのは奴隷だった。皆の前で勝負はついたが、屈辱にまみれた花婿は奴隷に剣を振り下ろした「殺してしまえば褒美はいらない」
奴隷はとっさに剣を避け、持ち手に一撃を入れた。剣は弾かれその切っ先は花婿の首に刺さった。
宴の席は騒然となった、事故とはいえ花婿は奴隷に殺されたのだ、奴隷は引き立てられて処刑されようとした。
その時に、皇子マホメットが奴隷に言った
「名を捨てても生きたいか、国を捨てても生きたいか、神を捨ててもいきたいか」
「私はもう既に、名を無くしました。国からも、神からも捨てられております」
「ではこれからお前の名はサガノス、私の臣下だ」
そんな話を聞いてセレスティーナはぽつりと言った
「人は変わるものよね」
「ええ、変わった人を知っていますわ」ラミレスの言葉で思い描く人物は皆同じだった
「ガストンは変わったと考えて交渉にはいりますか」ヨハンは決断したようだ
「国交を結ぶのはお互いの国に利益があります、神も違う、法も違う、生活の考え方も違う、でもそれを乗り越えて互いの国に益となる様に交渉しましょう」
セレウコス王国の方針は決まった。
国交を結ぶ交渉が始まり、帝国側からいくつかの条件が示された。
それを見てラミレスは激高した
「こんな条件は飲めませんわ、何という屈辱、やはりガストンは我が国を、王家を恨んでいるのです。姫様方にこんな思いをさせる国と国交など結べるはずがありません」
その条件とは、セレウコス王国の王女を帝国の皇太子に嫁がせる、つまりハーレムに入れという事だった。




