第七十話『絡み合う事象たち』
――今日が休みで本当によかった。
そんなことを思いながら、裕哉は力なくベッドで惰眠を貪る。梓と顔を合わせずにいられることを嬉しいなどと表現してしまえる自分のことが、今更ながら本当に情けなかった。
「……だけど、ずっと逃げ続けていられるわけがねえんだよな……」
梓の中でも、記憶と向き合ったことで何らかの変化が起きたことには間違いない。そしてその変化は、裕哉の力が無ければ悪いものとして梓の中で完結してしまうだろう。……そうなってしまえば、裕哉にとって最も実現してほしくないことが現実になってしまうことだって有り得てしまいそうだった。
「……離れたくはない、けど」
梓を守るという誓いは、裕哉の中で絶対的なものとして存在している。だが、そうして定めた己の在り方は梓の心を傷つけた。ならば、今までの誓いに一体何の意味があったというのだろうか。守ると決めた血買いが、梓の心を甘やかに殺す刃となってはいなかったか。
「……クソ」
答えは出ない。だが、問わずにはいられない。何日が経っても、何年が経ってもきっとこの問いは答えを出さない限り裕哉の心の中に問われ続ける類のものだ。それに囚われ続けることが悪であるとしても、裕哉はその問題を放棄することを良しとしない。……必ず、答えを見つけ出さねば。
「……そのためには、まずは動かないといけないわけだけど――」
さて、何をしたものか。この二日はもともと試験対策に使うつもりではあったが、そんなことをしている場合ではない。梓の様子がこのままでは、この試験攻略が成功することは絶対にありえないのだから。
故に、どれだけ鈍い思考の中でも考えなくてはならない。何が梓にとって一番の救いで、そして裕哉の誓いも守られる形に落ち着いていくのか。……今まで向き合ってきたどんな問題よりも、難しい問題ではあるけれど――
「裕哉―?お客さんが来てるわよー?」
「……え?」
覚悟を決めて思考の海に潜ろうとした裕哉を、母親ののんびりとした声が引き戻す。……しかし、その内容は明らかに身に覚えがないものだった。
「俺、今日遊ぶ約束なんかしてないぞ?」
「でもねえ、裕哉はいますかって聞いてきてるのよ。すごくクールなお嬢さんと、いかにも人懐っこそうなお嬢ちゃんが二人でね」
「…………えええ……?」
母親から聞かされた人相に、裕哉の中の困惑がさらに深くなる。その二人組には間違いなく覚えがあるが、今の裕哉に関わるはずがない人物なのもまた明らかな事実だ。だが、それが本当ならばとても無視するわけにもいかない。
「分かった、今行くから少し待ってろって伝えてくれ」
「分かったわ。お茶くらいは出しちゃっても構わないわよねー?」
母親の確認にああ、と返すと、裕哉はクローゼットから私服を取り出す。今日ここに彼女らが来たのならば、目的は星火学園生徒ではない裕哉だろう。……だが、その目的はどこにあるのか。
「次から次へと、訳の分かんねえことばっかり起こりやがるな……」
難儀な巡り合わせにぼやきながら、裕哉は外出着に着替える。……数奇な運命の絡み合いは、裕哉を中心にさらに複雑なものへと変質しつつあった。
事態はさらにややこしく、そして難解なものへと向かっていきます。裕哉はやまない自答の中に答えを見出せるのか、そして来客の目的は何なのか、それぞれ楽しんでいただければ幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




